【論説】24年度予算成立 国民生活を委ねられるか

2024年度予算が参院本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決、成立した。

岸田文雄首相は予算に基づき社会保障や安全保障政策などを主導していくが、政治不信を解消できない岸田政権に国民生活を委ねられるのか。

4月には衆院3補欠選挙があり、6月の今国会の会期末までには首相が衆院解散・総選挙に踏み切る可能性が取りざたされている。後半国会は「政治とカネ」問題に加え、重要政策の審議を通じ、信任に値する政権か見極める期間としたい。

24年度予算は、一般会計の歳出総額が112兆5717億円で、23年度当初に次ぐ過去2番目の規模だ。

予算はいずれも過去最大の社会保障費37兆7193億円、防衛費7兆9496億円などを計上。能登半島地震からの復旧・復興を進めるため、災害対応の一般予備費を1兆円に積み増した。

予算額にも表れているように、少子高齢化に伴う社会保障や安保環境の悪化を受けた防衛政策は、日本の将来を左右し、国会で議論を尽くすべきテーマだ。

衆参両院の予算委員会でも取り上げられたが、主に安倍派を舞台にした自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件の質疑が中心で、深掘りされなかったと言える。

要因ははっきりしている。違法な裏金還流が誰の指示で始まり、いったん中止を決めた還流を復活させたのは誰かといった国民の疑問に、安倍派幹部が真摯(しんし)に答えなかったことにある。

首相の責任はもちろん大きい。早期の実態解明に向けて指導力を発揮していれば、政策論議に充てる時間が生まれたはずだ。

参院での予算採決に先立ち、首相自身が安倍派幹部の追加聴取を行った。その結果次第ではあるが、首相も認めた「大きな疑念」が晴れないようでは、政策推進の土台になる国民の信頼は取り戻せまい。

裏金に関しては使途に判然としないところがあり、法定外の選挙運動費に回されたとの疑いが消えていない。事実なら、選挙による代議制民主主義を揺るがし、政権の正統性さえ問われる。首相は来週にも安倍派幹部らの処分に踏み切る方針だが、国民が納得しない以上、それで裏金事件に幕引きすることは許されない。

予算成立を受けて、国会の論戦は重要法案や施策を対象に展開する。経済安保情報法案や少子化対策関連法案などが挙げられる。前者は機密指定による国民の知る権利の制限が懸念され、後者は「子ども・子育て支援金」創設で国民の負担増につながるとの指摘がある。

加えて英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国輸出解禁の当否もある。法案化されないため、自民、公明両党内の調整を経て閣議で決定した。殺傷兵器の輸出は、憲法の平和主義から逸脱するとの危惧があり、国会での徹底審議が求められる。

国民の「命と暮らし」に関わるこれらの法案や施策に賛同を得たいなら、まずもって首相らが必要性について十分に説明しなくてはならない。

「信なくば立たず」。首相が掲げる政治信条の真贋(しんがん)は、裏金事件への今後の取り組みや法案などの国会審議で明確になろう。それを記憶にとどめ、来たる国政選挙で投票先の判断基準としたい。