【論説】海自ヘリ墜落 事故の背景も検証せよ

東京都・伊豆諸島の鳥島東方海域で、夜間対潜水艦戦の訓練中だった海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機が墜落した。衝突したとみられ、乗員計8人は、死亡が確認されるか、行方不明になっている。

まずは、捜索・救助に全力を挙げなければならない。

海自は既に2機のフライトレコーダー(飛行記録装置)を回収し、これまでのところ機体の異常を示すデータは見つかっていないという。さらに解析を進めるなど原因究明を急ぐのは当然だが、それだけでは不十分だ。

中国の海洋進出などを念頭に、政府が防衛力強化を高く掲げる中での事故である。対潜水艦戦は海自が「最重要」と位置付ける任務だ。

「防衛力強化」のかけ声を受け、今回のような実戦的訓練や実任務に注力する一方で、安全を確保するための基本的訓練が、おろそかになっていることはないのか。そんな視点からも、事故の背景を徹底的に検証すべきだ。

現場海域では、艦艇8隻とヘリ6機で、潜航する海自潜水艦を実際に探知、追尾する訓練をしていた。当時は、事故機2機を含むヘリ3機がそれぞれ護衛艦から発艦し、飛行していたという。

一般的に哨戒ヘリによる潜水艦探知は、ホバリング中の機体からつり下げた水中音波探知機(ソナー)を海中に投入して行う。3機態勢なら三角形の位置関係を維持しながら移動し、潜水艦の位置を絞り込むそうだ。

現場には月が出ておらず、リスクは高かったとされるが、それでもレーダーなどの計器があるし、衝突防止灯も目視できる。機内には周囲のヘリの位置を表示する機器が備え付けられ、接近すると警報が鳴る仕組みになっている。

2021年にも夜間訓練で別々の護衛艦から発艦した哨戒ヘリ同士が接触する事故があり、海自は複数の航空機が展開する現場では、高度差を維持するなどの再発防止策も打ち出していた。

これらが徹底されていれば、起こり得ない事故だったと言わざるを得ない。

海自には事故の直接の原因を特定した上で、自衛隊を取り巻く環境による影響の有無を精査してもらいたい。既に海自内部では「実任務に追われ、基礎的な訓練が不足している」などの指摘も出ているという。

もしそうなら、安全を確保する訓練こそ重視すべきだろう。実任務などと両立させる方策を検討しなければならない。

昨春、陸上自衛隊のUH60JAヘリが沖縄県・宮古島付近の海上で墜落し、10人が死亡する事故が起きたことは、記憶に新しい。

この事故も政府が南西諸島の防衛力強化を打ち出す中で発生した。陸自幹部らが現場を上空から視察するために飛行していた。わずか1年で重大な自衛隊ヘリ事故が2件である。

今回の事故機は、長崎県・大村航空基地と徳島県・小松島航空基地の所属だった。これらの地元では、不安感を抱く住民らも少なくないだろう。

海自は不安解消に努め、関連の情報を最大限公表しなければならない。21年の哨戒ヘリ接触事故では当初、「部隊運用に関わる」として、事故時の訓練内容を明らかにしなかったという。

こうした対応は許されない。