【論説】物価高と円安 家計の苦境を放置するな

家計の苦境を映して、景気の柱である個人消費が低迷している。物価高が続く一方で賃上げは部分的にとどまり、収入が実質的に目減りしているためだ。打開にはインフレを深刻にしている円安の是正へ向けた金融政策や、家計の所得増を図る企業と政府の取り組みが重要だ。事態の放置は一層の景気悪化につながりかねない。

実質国内総生産(GDP)で見ると、全体の5割超を占める個人消費は昨年10~12月期まで3期連続の前期比マイナス。今年1~3月期も振るわなかったとみられ、家計調査では2月まで12カ月続けて実質消費支出が前年同月比で減少した。

最大の原因はインフレの長期化だ。19日発表の3月の消費者物価(生鮮食品を除く)は、前年同月比2・6%上昇。2年にわたり物価は2%以上と高騰したままだ。

帝国データバンクによると、4月に値上げが見込まれる食品は約2800品目。ハムやソーセージなど身近な食品の値上げが続く。

物価が上がってもそれを上回って収入が増えれば影響は抑えられる。しかし実態は逆だ。

毎月勤労統計調査によると物価を考慮した1人当たりの実質賃金は、2月まで23カ月連続で前年同月より減少。リーマン・ショック前後に並び過去最長となった。

今春闘の賃上げ回答が5%超と高水準になったことで、実質賃金のプラスが遠からず実現するとの見方もある。だが楽観はできない。手厚い賃上げは、人手不足が深刻で離職されると困る若手に偏っているからだ。

厚生労働省が昨年の春闘後の賃金を年齢層別に調べたところ、全体平均より増えたのは20代までで、30代以降は抑制が鮮明だった。今年も同様とみられ、子どもの教育費など支出のかさむ中高年層の家計は苦しいままと理解すべきだろう。賃上げとほぼ無縁な年金世帯も同じと言える。

家計の窮状緩和へ急ぎたいのが物価の抑制であり、インフレを悪化させている円安の是正だ。

米ワシントンでの先進7カ国(G7)などの国際会議では、円安ドル高など急速な為替変動に強い懸念が示された。足元の円下落は米国の金利高止まりが引き金だが、中東情勢の緊迫化で石油は値上がり傾向にあり、円安と相まって物価再燃の恐れがあるからだ。

政府・日銀は現状を見過ごすのでなく、追加利上げや円買いの為替介入を検討する時だ。

一方、家計の所得改善では企業の責任が重い。低金利に円安、インバウンド増などで企業収益は最高水準にある。賃金が長年抑えられてきた点を考えれば、若手だけでなく、中高年の働き手へも還元が当然だろう。

岸田文雄首相は、6月から実施される1人4万円の定額減税によって「物価高を上回って可処分所得が増える状況を確実につくる」と強調する。

減税で家計が潤うのは確かだが、一時しのぎは否めない。しかも財源は国債による借金であり、将来不安が広く国民を覆う中では多くが貯蓄へ回るとみられている。

減税の半面、家計には新たに子育ての「支援金」負担が求められている。これでは財布のひもは固くなるばかりだ。負担を求めるべき税源はまだあり、株式配当などへの金融所得課税や大企業に対する法人課税などに首相は目を向けるべきだ。