2019年3月19日(火)

【論説】クリミア編入5年 既成事実化を容認するな

ロシアのプーチン政権がウクライナ南部クリミア半島を強制編入して5年が経過した。ウクライナ東部では、親ロシア派組織が一方的に独立を宣言してロシアの影響下へ入った。ウクライナは南部と東部で領土を事実上奪われた。

東部では親ロ派組織とウクライナ政府軍がにらみ合い、流血の危険と隣り合わせの状態だ。欧米や日本は、武力による国境線の変更を理由にロシアへ制裁を科したが決め手に欠ける。国家分断と紛争の固定化を既成事実として容認してはならない。今月末のウクライナ大統領選を機に、国際社会は事態打開へ知恵を絞り、行動へ移すべきだ。

ウクライナの分断は、この国だけの悲劇ではない。クリミア編入を理由に、ロシアは民主主義と自由経済を絆とする連帯の枠組みである主要国首脳会議(G8)から追放され、中国と結束を強めた。欧米と中ロによる新たな東西対立の構図が鮮明となった。

その結果、北大西洋条約機構(NATO)とロシアとの軍事的緊張が高まった。米ロが中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄を宣言した事態も、その延長線上にある。

南米ベネズエラの国内対立は米国と中ロによる代理戦争の様相を見せている。日ロ間の北方領土問題でも、ロシアは在日米軍の脅威をことさら強調し、交渉を妨げている。これが「クリミア後」の世界の姿だ。

2014年3月のクリミア編入について、当時のオバマ米大統領は「欧米が数世代かけて築いた国際秩序は試練の時を迎えている」と述べ、編入を認めれば第2次大戦や冷戦など「過去の教訓を無視することになる」と警告した。

その「試練」に耐えきれず、ロシアのクリミア支配を黙認する誘惑が頭をもたげている。米国のトランプ大統領は国際秩序より自国の利益を優先する立場から、一時はプーチン政権へ接近、制裁緩和の可能性さえ取り沙汰されたが、米国の世論が許さなかった。

ドイツのメルケル政権は、ロシアの天然ガスを輸入する新たなパイプラインを創設する計画を進める。天然ガスの多くをロシアに依存するドイツでは、財界がロシアとの経済関係を重視して、制裁を継続する政権へ圧力をかけている。メルケル首相は、財界の事情に配慮したのだろうが、米国は「欧州の安全保障を損なう」と新パイプラインに反対している。

プーチン大統領はクリミア編入について、ロシア系住民が投票で意思を示した結果であり、武力は使わなかったと主張する。しかし、現地にロシア軍を投入して基地などを封鎖し、ウクライナ側の行動を封じ込めたのは紛れもない事実だ。軍事力による内政干渉を許せば、侵略を否定した戦後秩序の根幹が揺らぐ。

ロシアはクリミアを編入したが、ウクライナ東部は独立も編入も認めず、国境を変えようとしない。国内を掌握できない国はNATOへ加盟できない。NATOの接近を嫌うロシアは、ウクライナを巨大な緩衝地帯として残す思惑らしい。小康状態はウクライナを犠牲にして保たれている。

移民問題や極右台頭に揺れる欧州が、ウクライナの現状に強く異議を唱える余力を失ったのが気掛かりだ。かつての東西ドイツのような分断国家を新たに出現させてはならない。

2019 年
 3 月 19 日 (火)

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