2019年9月23日(月)

【論説】アスベスト対策 被害をこれ以上広げるな

アスベスト(石綿)は強力な発がん物質だ。極めて細い繊維状の鉱物で、吸い込むと20〜40年という潜伏期間を経て、肺がんやがんの一種である中皮腫を引き起こす。

日本では1960年代以降、建材などに大量に使われ、石綿が原因とされる中皮腫の死者は増え続けている。その数は2017年で1555人。石綿が原因の肺がんによる死者数は正確には分からず、中皮腫の約6倍とする推計がある。

中皮腫による死者数は30年に年間4千人に達し00年からの40年間で10万人が亡くなるとも予測され、史上最大の産業災害になるとの見方もある。

この事態を招いた原因の一つは、国の規制の遅れだ。特に、石綿を含む建材を扱う建設現場での規制は大きく遅れ、多くの労働者が石綿の粉じんを浴びてしまった。

新たな被害を生む恐れもある。04年に建材への石綿使用は禁止されたものの、国土交通省によると、石綿が使われた可能性のある民間の建物は280万棟に上る。解体や改修の際、周囲に石綿が飛散する可能性がある。

大気汚染防止法は、吹き付け石綿など飛散しやすい建材がある場合、施工業者に事前調査と発注者への説明、発注者に都道府県などへの届け出を義務付けている。

だが屋根や天井に使われた成形板など「レベル3」という建材からも作業時に石綿が飛散する。その事実は以前から知られていたことだが、飛散の可能性が低いとして規制対象から外されていた。環境省の調査では散水など飛散防止策が取られていない事例もあった。

過去半世紀に輸入・生産された石綿1千万トンの8割は建材に使われ、その9割がレベル3の建材に使われている。そこで中央環境審議会の小委員会は、これらの建材を除去する工事についても、吹き付け石綿などとほぼ同様の規制をする方向で検討を進めている。

さらに作業完了後に取り残しがないかどうかを調べる完了検査の導入、事前調査に専門知識を持つ資格者を当てること、違法作業に対する罰則の強化なども検討されており、答申を経て、環境省は来年の通常国会に大気汚染防止法改正案を提出する方針だ。

もっとも課題は残りそうだ。一つは資格者の育成で、国交省が13年に始めた調査者制度は昨年、環境省などと共管となり、実地研修なしで取れる資格もできた。質の低下が懸念され、レベルアップを図る必要がある。

中立性が求められる事前調査や完了検査を施工業者に任せるのも問題だ。海外では第三者による調査や検査が主流。英国では資格要件を厳しくし、石綿が漏れれば責任を問うことで第三者性を担保している。日本でも同様の仕組みが必要だ。

作業現場周辺の石綿の大気濃度測定については、シートなどで現場を覆って行う工事で一定の規模や期間を超える場合に義務付ける方向となっている。しかし、飛散しやすい建材の除去では規模や期間にかかわらず義務付けるべきだ。実際、条例でそんな規制をしている地方自治体もある。

労働者を守る仕組みも求められる。作業現場では石綿濃度の測定もリスクアセスメントも義務付けられず、適切な保護具の選定すらできていない。厚生労働省は早急に対策を取るべきだ。石綿被害をこれ以上広げてはならない。

2019 年
 9 月 24 日 (火)

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