【論説】笹子トンネル事故10年 インフラの取捨選択を

中央自動車道笹子トンネル(山梨県)の天井板が崩落し9人が死亡した事故から10年たった。「二度と事故を起こさない」「安全を何よりも最優先する」として設置された安全啓発館(東京都八王子市)では、中日本高速道路会社の社員らが原因と対策を学んでいる。

崩落原因の一つが、維持管理の点検が不十分で老朽化を見落としたことだ。政府は事故翌年を「社会資本メンテナンス元年」とし、戦略的な維持管理を目指す「インフラ長寿命化基本計画」を作成した。対応の遅れは反省すべきだが、点検、修繕の強化は評価できる。

高度成長期に建設されたインフラは大更新の時代を迎えつつある。全てを造り直す余力はない。人口減少、縮小時代に対応し、社会資本の量を減らすことも提案したい。

道路橋を例に挙げると、全国に70万以上あり5年に1度、近接目視による点検が義務付けられている。既に1巡目の点検は終了し今年3月末時点で8・5%は、早期か緊急の修繕や更新の措置が必要と判定された。対策を始め、既に撤去された橋もある。

経年劣化によって対策が必要な橋は毎年増える。現在の予算規模では早期、緊急の措置に追われ、完了には計20年はかかる計算だ。

その後、悪くなる前に手を入れる「予防保全」が可能になる。劣化を遅らせ修繕、更新コストを大幅削減できる。全ての橋を早くこの段階にするため予算の積み増しを求めたい。公共事業費の増額は難しく、新規建設を抑えてでも対策への重点配分を考えられないか。

重要な橋を選び優先的に修繕や更新を進め、残りの橋は危なくなれば使用制限、廃止とする方針を持つ自治体もある。住民の理解を得ながら、架け替える橋を絞り込む「橋のトリアージ」も積極的に進めるべきである。

首長は20年後、30年後の地域の姿を描き、災害の危険が少ない場所に住居を誘導する。それに合わせ社会資本を取捨選択して減らす戦略づくりを進めてほしい。

市町村には橋などが分かる技術者がいない所も多い。スムーズな修繕、更新のためにも、国や都道府県の積極的な支援も不可欠だ。

高速道路の老朽化も深刻化している。日本道路公団など道路関係4公団の民営化時には、2050年に無料開放とした。それが14年に、構造物の更新事業費を確保するため65年まで料金徴収の期間を延ばしている。更新の計画額は計5兆3千億円に膨らんだ。

国土交通省の審議会は昨年8月、想定以上の劣化で更新事業の追加が必要と答申。徴収期間の再延長が検討されている。

料金収入がなければ税金で事業費を負担するしかない。どうすれば更新コストを最少化できるのかも含め国は全体像を早急に示し、延長への理解を得る努力をすべきだ。

電気自動車(EV)の普及を受け、ガソリン車を前提とした現行税制の見直しを求める声が政府内にある。「燃料課税」の税収が減って、道路を維持する財源不足の恐れがあるためだ。

EVもガソリン車と同様に、その重量によって道路に負担をかける。修繕に公費が使われることを考えれば、応分の負担は仕方ない。地球温暖化対策とのバランスから、どれぐらい普及すれば負担を求めるのかなど幅広い議論が待たれる。