水戸徳川家に生まれた15代将軍、徳川慶喜が大政奉還を行ってから150年。幕末維新史を考察する展覧会が各地で開催されている。県立歴史館(水戸市緑町)の特別展「志士のかたち-桜田門、天狗党、そして新選組-」は、変革の原動力となった水戸藩を中心に、時代を駆け抜けた志士に光を当て、近世武家社会から近代社会への転換期を再考。「桜田門外の変」「天狗党争乱」を描いた絵巻をはじめ、豊富な歴史資料が維新の群像を伝えている。


水戸藩を中心に茨城圏域は、幕末維新に大きな役割を果たしたにもかかわらず、薩摩や長州に比べて歴史的に見えづらい印象がある。同展は、時代のうねりを象徴する歴史資料を紹介し、水戸藩の位置付けをあらためて浮かび上がらせることを狙いとしている。

同館主任研究員の由波(よしば)俊幸さんは「幕末は、下級武士が天皇を動かすなど、例外的な状況が次々に起きた。多くの人にチャンスが開けた時代だが、こうした歴史の大転換は、自らの正義を貫き通した志士の非業な死の上に成り立っている。本展をきっかけに、勝者、敗者の視点でなく、平たい目で歴史を捉え直してほしい」と強調する。

同展は5章で構成。絵巻や肖像画、歴史的事実を裏付ける書簡など豊富な資料をそろえている。

主立ったものでは、第1章「文と武の系譜」は、全国の志士に影響を与えた水戸藩の特質に焦点を当てている。2代藩主、徳川光圀の「大日本史」編さんで醸成された独特の歴史意識、9代藩主、斉昭が開設した藩校弘道館などを前提に、「学問の府・水戸」の先進性を紹介。藤田東湖や武田耕雲斎、山口頼母ら藩士の肖像画のほか、藤田東湖筆「弘道館記述義草稿」や青山延于(のぶゆき)著「続皇朝史略」などを展示している。

第2章「境界をこえて」では、藩や身分を超えた志士の交流を取り上げている。その結び付きを促した一つが、水戸藩の儒学者、会沢正志斎が1825年に著し、8代藩主、斉脩(なりのぶ)に献上した意見書「新論」。通商を迫る列強による民心の動揺を対外的な危機と捉え、その上で民心統合のための方策を述べる同書は、他藩の志士から“バイブル”のように重視された。

ここでは「新論」の写本と、会沢から薫陶を受けた長州藩士、吉田松陰の木造などを展示。水戸藩士を中心に時の大老、井伊直弼を襲撃した始終を描いた「桜田事変絵巻」も陳列している。

第4章「決壊の元治元年」は、天狗党の挙兵から西上に至る動向を柱に、幕府や他藩、周辺の人物を含め多角的に考察している。

水戸藩の中下級藩士を中心に、急進的な尊皇攘夷を唱えた天狗党。藩政を握る門閥派との戦闘の様子を題材にした「水戸天狗党絵巻」は、天狗党側の従軍者によって制作されたとされる。上巻の前半では、1864(元治元)年8〜10月にかけて、家屋や社寺を焼き尽くすなど那珂湊周辺で繰り広げられた激戦を描いている。那珂湊の古戦場から発見された砲弾(直径約11・8センチ)も展示され、戦いのものものしさを伝えている。

番外編の「断章　大政奉還」では、慶喜が行った大政奉還という歴史的決断を、日本が近代化に向かう上で果たした意義を提示している。慶喜が将軍就任3カ月後に揮毫(きごう)した一字書「誠」や、将軍慶喜の権威を表現した屯田丹陵筆「大政奉還下図」、慶喜が提出した「大政奉還上意書」などを展示。「大政奉還上意書」の文面は「今後の展望について意見がある者は、忌憚(きたん)なく申し述べるように」と、家臣に向けた言葉で締めくくり、慶喜の豊かな歴史観と時局意識に裏打ちされた、悲壮なまでの決意が感じ取れる。

特別展「志士のかたち-桜田門、天狗党、そして新選組-」は11月23日まで。問い合わせは同館(電)029(225)4425。

(沢畑浩二)