【論説】大谷選手、賭博関与否定 これで闇は晴れたのか?

これで深い闇はすべて晴れたのか? 米大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手が、専属通訳だった水原一平氏の違法賭博問題で初めて報道陣に経緯を説明し、自らの賭けや胴元への送金などすべての関与を否定した。

華やかな大リーグ開幕時に、不世出ともいわれる野球選手を直撃した賭博疑惑だ。通訳が引き起こした不祥事とはいえ、大谷選手が関係していれば刑事処分や大リーグ機構から出場停止を含む処分を受ける恐れもあった。今回の説明が事実だとすれば、同選手は犯罪の被害者であり、処分対象ではないことになる。ひとまずファンを安堵(あんど)させた、とは言える。

常識では想定できない事象が次々と明らかになって、賭博疑惑は深い闇に沈んでいた。米国での報道などによると、水原氏が違法なスポーツ賭博に手を染め、日本円に換算して7億円近くの負債をつくった。その支払いが大谷選手の口座から送金された。

水原氏の二重三重のうそが事態を複雑にした。借金の肩代わりを大谷選手に求め、同意を得て送金してもらった、などの当初説明はすべて虚偽だったという。大谷選手によると、弁護士を通じて水原氏の行為が「窃盗と詐欺」に当たるとして司法当局に捜査を委ねた。

質疑応答のない一方的な大谷選手の説明は、真実味は感じられるものの、不明点がすべて明らかになったわけではない。

水原氏が、大谷選手の口座に「勝手にアクセスして送金した」という説明では、なぜ第三者がセキュリティーチェックをクリアして送金できたか不明だ。口座からの巨額資金流出を知らなかった、という点も納得しにくい。

水原氏は大谷選手と日本ハム時代からの同僚で、大リーグのエンゼルス移籍時に同時に渡米し専属通訳を務めてきた。ドジャース移籍でも行動を共にした。通訳以外にも送迎の運転手役、練習相手役なども行い、文字通り二人三脚でステップアップしてきた。

親密な関係だっただけに、事件に大谷選手が「ショック以上」の衝撃を受けたことは理解できる。同選手は大リーグで最優秀選手(MVP)を2度受賞、本塁打王も獲得し、ドジャースに史上最高額とされる10年で総額7億ドル(約1千億円)の契約で移籍した。CM収入も年数十億円といわれ、ビジネス規模が大きい。

スーパースターであるなら、リスク対応や会計管理に細心の注意を払うべきだった。信頼関係を基に通訳に頼るのではなく、テニスやゴルフのトップ選手のように個別の支援チームがあれば状況は違っていたかもしれない。事件発覚後、本人が沈黙を続けたことも混乱に輪をかけた。ファンに支えられるプロ選手には時宜を得た説明責任があろう。

前人未到の投打二刀流での大活躍。巨額契約金での名門チームへの移籍。元バスケットボール選手との結婚。大谷選手は明るいニュースを次々と提供してきた。初めて直面したスキャンダルをどう乗り越えていくか。

スポーツとギャンブルは日米を問わず歴史上に多くの汚点がある。今回の事件の速やかな全体像解明が必要だ。あらためてスポーツ選手には危機管理を求めたい。疑惑を完全払拭した上で、大谷選手にはこれまでと変わらぬ笑顔でファンを魅了するプレーを期待したい。