2018年10月6日(土)

次世代がん治療法 BNCT、茨城県研究チームが装置開発に成功

来年度治験へ

マウスを使ったBNCT照射の予備実験=1月、東海村白方(写真提供・筑波大陽子線医学利用研究センター)
マウスを使ったBNCT照射の予備実験=1月、東海村白方(写真提供・筑波大陽子線医学利用研究センター)

正常な組織を傷つけず、がん細胞を“狙い撃ち”して破壊する、小型加速器を使った次世代がん治療法「中性子捕捉療法」(BNCT)の実用化に向け、茨城県研究チームが一歩前進を果たした。装置の再設計など改造が必要となり、当初計画に遅れが生じたが、がん細胞に照射する中性子ビームを安定的に発生させる装置の開発に成功。本年度中に実際に治療に使うホウ素薬剤を動物に投与した照射実験を実施し、ようやく来年度、患者への治験実施を目指す。 (報道部・三次豪)

■遅れに焦りも
BNCTの研究開発は、筑波大や高エネルギー加速器研究機構など産学官が連携し、つくば国際戦略総合特区の先導プロジェクトに位置付けられた。県が2012年度に整備した「いばらき中性子医療研究センター」(東海村)に治療装置用加速器を設置し、当初は15年度までに先進医療の承認を目指していた。

しかし、大強度陽子加速器施設「J-PARC」の技術を医療へ転用するはずが、計算通り進まず、ビームの増強や安定化が必要となり、装置の設計を約1年かけてやり直したりと、開発の道のりは想定以上に難航した。

ようやく、治療に不可欠な中性子の発生に成功したのは15年11月。その後、人体模型への照射実験などを繰り返し、今年1月にマウスを使った予備実験にこぎ着けた。県科学技術振興課によると、これまでに要した研究開発費は同センターの整備費を含め約35億円。

筑波大陽子線医学利用研究センターの熊田博明准教授は「ようやくここまで来た。他の研究チームに先行され、焦りもあった」と装置開発を振り返った。

■優位性こだわり
BNCTは、中性子ビームの発生源が従来の原子炉から小型加速器へ移行し、本県のほか、京都大原子炉実験所や国立がん研究センター、南東北BNCTセンターなどが実用化に向け研究にしのぎを削っている。

中でも京都大が先行しており、円形加速器を使って再発悪性脳腫瘍や頭頸部(とうけいぶ)腫瘍を対象とした治験まで進んでいる。

茨城県の研究は予定より遅れているが、直線型加速器を使い、陽子線をベリリウムと反応させて中性子を発生させる仕組みは世界で唯一。他の装置と比べ、患者や医師の被ばく線量が低い上、治療時間の短縮につながる中性子ビームの増強に将来的な可能性を秘めるなど優位性があり、熊田准教授ら研究者は強いこだわりを持つ。

■一刻も早く治療に
BNCTの安全性や有効性を確認する治験は、皮膚がんの一種「悪性黒色腫(メラノーマ)」の患者を対象に、来年度にもスタートさせる計画。今後、頭頸部がんや脳腫瘍など、ほかの部位のがん治療適応拡大に向け、装置の高度化を進めていく。

実用化の時期は、先進医療の承認手続きなどを考慮すると「治験後3、4年」(熊田准教授)かかるとみられる。また、一般病院への設置に適した商用化にはまだ課題があるという。

熊田准教授は「薬事法の承認を得る前の段階でも、(医療機関から)受注があれば同時並行で導入を進め、すぐ治療に使えるようにしたい。一刻も早くBNCTで一人でも多くの患者を治療できるようにしたい」と意気込む。

★中性子捕捉療法(BNCT)
がん細胞のみに集積する性質のホウ素薬剤を患者に投与し、病巣部に中性子を照射してがん細胞を破壊する治療法。細胞単位での治療が可能なために身体への負担が少なく、周囲の組織に広がる浸潤がんや多発病変、手術不適応症例などの難治性がんにも有効。従来の放射線療法で通常6週間必要だった照射が約30分の1回の照射で済み、治療前に薬剤集積を見ることで治療効果を事前に判断できるメリットもある。

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