2019年10月25日(金)

決壊 氾濫・台風19号豪雨 (中)
避難の遅れ

経験則、判断に甘さ 「率先者」の育成が有効

消防隊のボートで救助される被災者=13日、水戸市藤井町
消防隊のボートで救助される被災者=13日、水戸市藤井町

「これから雨風が強くなります。早めに避難してください」

台風19号が本県を直撃した12日。水戸市は朝から、那珂川沿岸の地域を対象に警戒レベル3の「避難準備・高齢者等避難開始情報」を出し、早期避難の呼び掛けを始めた。

那珂川の水位が2メートルを超えた午後4時には、近隣小中学校への避難を促す「避難勧告」を発令。支流の藤井川や桜川などを含め、浸水想定区域の約1万2400世帯、3万600人に避難を促した。

この時、市が想定していた雨脚のピークは午後9時。「雨が強まる前に、避難してもらう必要がある」(市防災・危機管理課)。防災行政無線を通じて15分ごとに警報を繰り返し、「しつこいくらい」の連呼を続けた。

那珂川の支流、西田川が越水し始めたのは翌13日未明の午前2時すぎ。この約1時間後、警報は「避難指示」へ引き上げられた。

市は越水の約20時間も前から、避難を呼び掛け続けた。果たして、“訴え”は市民に届いたのか-。

■167人が救助

「猫がいるから…」。同市藤井町の宮崎敏信さん(65)は、避難所へ連れて行けない家族同然のペットを気遣い、避難が遅れた。自宅は藤井川が決壊した場所から目と鼻の先。迫る濁流に追いやられるように2階へ逃げた。

広範囲が浸水した同町では13日朝から、県警や自衛隊のヘリが上空を旋回し取り残された被災者の救助に当たった。ボートによる救助活動も日没まで続いた。

現場では救助を断るケースも見られた。「男性が救助を拒否しています。他の家から先に当たります」。現地に設けられた救助拠点では、数十メートル先の浸水家屋で、男性(85)がボートによる救助を拒否、約1時間後に家族の説得で救い出された。

この日、救助された市民は167人。「この数字が多いのか、少ないのかは、これからの検証になる」。市の担当者は、避難呼び掛けの在り方について課題を探る。

■86年にも水害経験

今回、浸水した地域は1986年に起きた那珂川の水害とも重なる。「大丈夫だと思った」「30年前の那珂川水害よりひどい」。自宅が浸水した被災者らは、被害の大きさに口をそろえる。過去の経験則が、あだとなった可能性もある。

同市岩根町に住む戸崎清治さん(82)の自宅は、86年の水害で床上約60センチの浸水に見舞われた。しかし、「今回は2メートル弱。こんなに水が来るとは思わなかった」と振り返る。

30年前の水害を踏まえ、基礎が周囲より2メートルほど高かった藤井町の小田木誠さん(44)宅も浸水。「認識が甘かった」。子どもたちと共にボートで救助された後、避難の遅れを悔やんだ。

避難の切迫性を伝えるには、ハードルもある。「避難所における生活の不便さを考えると、できれば避難所へ行きたくないと考えるのは当然」。茨城大の伊藤哲司教授(社会心理学)は指摘する。

危険情報の発令に際していち早く避難し、周囲の行動にも影響を与える「率先避難者」が、2011年の東日本大震災以降、見直されている。伊藤教授は「地域に率先避難者がいるかどうかも大切。行政が人材を育てることも有効かもしれない」と話した。(前島智仁)



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