2019年11月16日(土)

台風19号襲来1カ月 不安抱えて (4)
葛藤

家と店「見るも無惨」 再開望むも疲労色濃く

久慈川が氾濫する様子を目の当たりにした割烹料理店の3階で、当時を振り返る店主の片野陽司郎さん=8日午後3時40分ごろ、大子町大子、鹿嶋栄寿撮影
久慈川が氾濫する様子を目の当たりにした割烹料理店の3階で、当時を振り返る店主の片野陽司郎さん=8日午後3時40分ごろ、大子町大子、鹿嶋栄寿撮影

穏やかに流れる久慈川と赤や黄色に色づき始めた山が見渡せる。久慈川に架かる松沼橋のたもとにある大子町大子の割烹「千石」。JR常陸大子駅から通りを抜けると、3階建ての趣ある店構えが見える。奥久慈しゃもやアユ、こんにゃくなど特産品を提供する。

台風19号で中心部が浸水した同町は、紅葉シーズンを迎えた。この時季、店は毎年、県内外からの観光客らでにぎわうが、今年は静まり返っている。

「早く店を再開させたい」

本来なら調理場に立つはずの店主、片野陽司郎さん(60)は焦りを隠せない。

久慈川が増水し、駐車場と倉庫がある店の1階が泥水に漬かった。濁流は約500メートル離れた押川近くの自宅にも押し寄せた。自宅は床板を剥がした状態で土ぼこりや汚れが残る。

店は1986年の台風でも被害に遭った。91年に建て替え、1階にあった玄関を2階に移していた。現在、家族は店で暮らしながら、1階と自宅の片付け作業に追われる。

「自宅が住めるようにならないと、店は開けられない」



豪雨が県内を襲った10月12日。予約客に断りの電話を入れて備えた。強風を警戒し、夕方には妻の勝美さん(60)と娘3人を連れて自宅から店に避難した。

午後8時すぎ、すぐ脇を流れる久慈川の水かさが上昇。片野さんは3階の窓から川を見下ろし、水位を何度も確かめた。

「ドーン、ドーン」。川を流れてきた丸太が松沼橋に何本もぶつかり、地鳴りのような音が響いた。氾濫が始まり、冷蔵庫や洗濯機が町中に流されていくのが見えた。「店の塀が壊されるのではないか。とにかく不安だった」

水量はさらに増し、橋を超えて流れてきた。2階の玄関につながる階段を水が一段ずつ上がり迫ってくる。「ここで止まってくれ」。祈るような気持ちで見詰めた。

ぎりぎりで店内への浸水は免れたものの、一睡もできなかった。夜が明け、泥に覆われた中心街を一人歩いた。自宅も床上まで水に漬かり、家財が散乱していた。

「見るも無残。どこから片付けたらいいのか…」。自然の猛威が、一晩にして、大切にしてきた日常を奪った。



「店と自宅の2軒あるから時間がかかる」

水没した店の1階の倉庫には、シャモ肉やマグロ、エビなどを入れていた冷凍庫3台や40人前セットの食器類などがあった。エアコンの室外機とともに使えなくなった。

泥のかき出しから始めたものの、作業は思うように進まない。床や壁にこびり付き、ブラシで何度もこすり、水で繰り返し洗い流した。

自宅には、業務用冷蔵庫もあり、処分に苦労した。家具などとともにボランティアの手を借りて運び出した。

今も、泥のかき出しは続く。「大工さんの数が足りないのか、自宅の修理は進まない」。休む時間を惜しんで清掃と片付けを続けているが、店の再開にはたどり着かない。

日没が早まり、作業時間は限られる。冷たい風が吹きつける中、つぶやいた。

「以前の生活に戻りたいが、町全体が復旧するまでお客さんは自粛して来ないかもしれない。みんな疲れがたまっている」(湯浅奈実)



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