2019年11月18日(月)

台風19号襲来1カ月 不安抱えて (6)
奮起

絶望救った仲間の力 収穫目前にネギ全滅

浸水したビニールハウスの補修作業に追われる藤田慎太郎さんと久恵さん(左から)=7日正午ごろ、水戸市飯富町、吉田雅宏撮影
浸水したビニールハウスの補修作業に追われる藤田慎太郎さんと久恵さん(左から)=7日正午ごろ、水戸市飯富町、吉田雅宏撮影

強い風と横殴りの雨が、水戸市内の自宅を揺らした。

「あの子たち、大丈夫かな」

台風19号が襲った10月12日。農業、藤田慎太郎さん(34)と久恵さん(35)夫婦は、わが子のように手塩にかけ育てたネギに思いをはせた。

自宅から約4キロ。南北を那珂川と藤井川の堤防に挟まれた同市飯富町に借りた約20アールの農地に、5年前から段階的にビニールハウス7棟を建てた。中には、収穫を待つばかりのネギ10万本超が、すくすくと育っていた。

眠れぬ夜を明かし、はやる思いのまま農地に向かった。高台の中学校に車を止め、農地を見渡せる堤防にたどり着くと、そこに見慣れた風景はなかった。

高さ約3メートルのハウスは天井まで水没し、湖のような景色が広がっていた。「どこに何があるのか、確認すらできなかった」

台風一過の空は透き通るように青く、日差しを反射する水面は美しくすら見えた。この時、絶望や不安は感じなかった。「目の前の現実が、受け入れられなかった」



被害が現実味を帯びてきたのは、徐々に水が引き始め、ハウスの上部が見え始めてからだ。朝、昼、晩…。何度も足を運ぶうち「少しずつ、状況がのみ込めてきた」

ネギは無事なのか-。「年間収入の半分」「資金繰り」「出荷直前」「手間も暇もかけた」。頭の中の混乱の糸がほどけ始めると、作物に対する心配と将来への不安が波のように押し寄せた。

2人の仕事場は目の前にもかかわらず、入れない。不安は拭えず、もどかしさが募った。

ハウス内に入れたのは、浸水から2日たった同15日朝。2人の目に映ったのは、泥にまみれたネギと農業資材。初夏から丁寧に育て上げた作物は、わずか数日で全滅した。

流れ込んだ泥に足を取られ、思うように歩くことすらできない。「もう、どうしたらいいか分からない」。被害の深刻さを突き付けられ、途方に暮れた。



就農は2013年。実家はともに非農家で、ゼロからのスタートだった。少しずつ農地を借り、生産を広げてきた。

技術も身に付き始めたころ、周囲の勧めで乗り出した「柔甘(やわらか)ねぎ」の生産は昨年12月、地域ブランドとして保護する地理的表示(GI)保護制度に登録されたばかり。あふれていた希望は、絶望へと変わった。

そんな状況の中でも、支えになったのは、同じ柔甘ねぎを生産する部会の存在だった。被害を聞き付けた仲間たちが、次々と応援に駆け付けた。

2人が立ち尽くす中、「次々に片付けや補修などの作業が進んでいった」。心強かった。夫婦2人だけなら「心が折れていた」

いつしか、絶望感は薄れた。「貯金を切り崩しながら、必ず農業は続ける」。被害から1カ月、奮起の思いが芽生え始めた。

就農7年目。不安は残る。「ここでくじけなければ、これからもきっと大丈夫」。2人はゆっくりと前を向いた。 (前島智仁)(おわり)



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