2020年1月19日(日)

脳に障害「つらいんです」 30年隠した悩み、職場に告白

つくばの小川さん 理解と配慮、在宅勤務に

自宅で仕事をする小川伸一さん=つくば市
自宅で仕事をする小川伸一さん=つくば市

高校時代の落下事故が原因で高次脳機能障害となった男性が、約30年間隠し続けた障害を職場に告白、周囲の理解を得て共生の道を歩んでいる。つくば市の会社員、小川伸一さん(51)。県高次脳機能障害支援センターが会社との調整役になり、仕事しやすい環境の在宅勤務に変えてもらった。小川さんは見た目では分かりづらい軽度の当事者。日常生活もほぼ支障はない。「少しの配慮があるだけで助かる」と、周囲の理解の大切さを説く。


平日の午後、小川さんは自宅で黙々とパソコン2台に向かっていた。画面には住宅の図面。性能評価員として、建物の性能を審査している。

勤務する建築物確認検査会社「日本ERI」は、自宅から自転車で数分の所にある。育児や介護などで通勤が困難な従業員のための在宅勤務制度を昨年5月から活用している。出社は週2日間のみ。残り3日は在宅で働く。

小川さんには、記憶障害のほか、一つのことに集中できないなどの注意障害がある。このため電話の音や話し声が常に響くオフィスの環境は苦手だ。静かな自宅が理想と言える。

体操部に所属していた高校2年の時、体育館でつり輪の練習中に頭から落ちた。以降、学業の成績は落ち、2桁の計算ができなくなった。覚えづらくなり、「2、3歩すると忘れるぐらいだった」。大学受験は3年間浪人したが結局、失敗した。人と会話するときはメモを欠かさず、やるべきことを忘れないよう、つぶやきながら歩いた。

こうした“変化”は事故の後遺症で回復すると信じていた。だが、できないことに落ち込み、ついに「自分は価値がない」とふさぎ込んだ。社会人になると仕事でミスが続いた。人間関係がうまく築けず、ストレスがたまった。ただ「かわいそうと思われたくなかった」と、障害について誰にも明かさなかった。

「暗い海を溺れないようもがいている人生」。孤独感にあえいだ。5年前、父親が亡くなると「心の支えがなくなり、頑張れなくなった」。

「記憶障害です。つらいんです」。ついに上司に告白。障害を初めて第三者に伝えた。受傷して約30年たっていた。後に正式に「軽度の高次脳機能障害」と診断された。告白しても人間関係の悩みは解消されず、2年前、会社で倒れた。

ちょうどその頃、上司が見せてくれた新聞記事で県高次脳機能障害支援センターの存在を知った。相談すると、センターは障害の特徴や当事者への配慮を職場に説明してくれた。その中で会社から在宅勤務を提案された。

小原昌之センター長は「軽度の高次脳機能障害だからこそ社会で苦労する大変さがある。会社側が支援を求めてくるケースは非常に効果的な支援がしやすい」と、職場との連携の重要性を訴える。

小川さんは言う。「私は例えるなら、能力の低いパソコンでフリーズしてしまう。ちょっとした配慮があるだけで助かる」。今では同僚に会うのを楽しみに出社する。(斉藤明成)



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