茨城県五浦美術館企画展「ひろがる墨」振り返る 表情自在感じる色彩

横山大観「月満山」1937年、県近代美術館蔵
横山大観「月満山」1937年、県近代美術館蔵
雪村周継「敗荷鶺鴒図」室町時代(16世紀)、県立歴史館蔵
雪村周継「敗荷鶺鴒図」室町時代(16世紀)、県立歴史館蔵
岡倉天心 漢詩「登慈雲寺偶感」制作年不詳、県天心記念五浦美術館蔵
岡倉天心 漢詩「登慈雲寺偶感」制作年不詳、県天心記念五浦美術館蔵
■大観や芋銭 作家の挑戦たどる
茨城県北茨城市大津町の県天心記念五浦美術館で開かれた企画展「ひろがる墨-五彩に出会う」。新型コロナウイルス感染拡大に対する県の非常事態宣言で8月18日から9月26日まで休館となり、会期途中で終了した。同展では横山大観や小川芋銭の代表作から、現在活躍する作家まで、「墨」にちなんだ62点を紹介。それぞれが挑んだ表現の変遷と、技法によって自在に表情を変える墨の魅力や奥深さに触れた。「紙上美術展」として展示を振り返る。

中国から伝来した墨は日本の美術史に大きな影響を与え、近代以降も多くの画家を魅了した。その理由に挙げられるのが、墨の持つ抽象性だ。「墨に五彩あり」とされるように、墨は黒単色と捉えるのではなく、見る者の想像力を刺激して色彩を感じさせ、多様な表現や解釈を可能にした。

同展は、県近代美術館の所蔵作品を中心に、中世から現代に至る墨の表現を7テーマで紹介。茨城ゆかりの日本画家、横山大観の「朝霧」や小川芋銭の「海島秋来」をはじめ、墨にまつわる多様な作品を一堂に集めた。

導入は、岡倉天心と墨の関わりにスポットを当てた。天心の詩作の中から、漢詩「登慈雲寺偶感」を県内初公開。天心がアメリカの友人に東洋の美術を紹介するために描いた「山水の図」「竹の図」なども紹介した。

絵を描く際に欠かせない筆の運びや技法に注目し「筆墨の美」を堪能するコーナーも設けられた。細かな点や筆線を重ね、岩肌の質感や樹木の葉を表現する皴法(しゅんぽう)という技法や、絵の具が乾ききっていない部分に、別の絵の具を重ねてにじませる「たらしこみ」など、筆と墨を使い分ける効果を解説した。

常総市出身の猪瀬東寧の「秋景山水図」は細かな筆線で壮大な自然を感じさせ、今村紫紅の「牧童」はにじみやかすれを生かして風を表現。前田青邨の「鵜飼」は、波と雨をそれぞれ線と面で描き分け、濃淡によって揺れ動く水面の奥行きを巧みに表した。

中近世の作品では、中世水墨画に新境地を開いた雪村の「敗荷鶺鴒図」などが見どころだった。大観、芋銭の代表作へと展示は続き、大観の「朝霧」は、余白を効果的に使いながら、墨のぼかしを生かして空気感や湿度まで演出。大観の美意識に、墨が深く関与したことを裏付けた。

締めくくりの「墨に挑む」は、第一線で活躍する現代の画家4人の作品を展示。浅見貴子の「Matsu20」は、紙の裏側から描く独特の手法を取り入れ、植物の生命力をダイナミックに表現し、白と黒の中に色彩まで感じさせた。

同館の塩田釈雄学芸員は「日本の絵画史に墨の文化がいかに影響したのか。展示を通して堪能いただく内容だった」と話した。(文中敬称略)

最近の記事

ニュース一覧へ

全国・世界のニュース