あした信じて 台風19号2年 (上)
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営業を再開したカフェ「マーシーズ・コーヒー」。目の前には那珂川ののどかな風景が広がる=城里町御前山、菊地克仁撮影
営業を再開したカフェ「マーシーズ・コーヒー」。目の前には那珂川ののどかな風景が広がる=城里町御前山、菊地克仁撮影
久慈川と那珂川が氾濫し、茨城県北地域や水戸市に大きな被害をもたらした台風19号の襲来から2年。店舗や工場に大量の泥水が入り込み、立ち尽くすしかなかった住民たちは、資金の工面などで苦労しながら事業再開にこぎ着けた。「あした」を信じて進む人たちに、今度は新型コロナの感染拡大が直撃、今も先行きの見えない苦境のただ中にいる。水害発生1カ月や3カ月の節目で取材した被災者のその後を追った。

■営業再開、この地で 「手放せぬ」自然の風景
午前9時半。コーヒーの香りと、ゆったりとした音楽が店内を包み始めた。いつも通り、きょうも大切な日常が始まる。

城里町御前山のカフェ「マーシーズ・コーヒー」。2年前の台風19号(東日本台風)で、店は大きな被害を受けた。店舗前の斜面を活用した屋外営業などを経て、今年6月、本格的に営業を再開した。以前と同じ、この場所で-。

「いつから?」「待ってるよ」

再開は、多くの常連客が待ち望んでいた。店主の大貫将史さん(36)に迷いはなかった。

「田舎だからこそ、できることをしたい」

目の前を流れる那珂川、その先に広がる豊かな木々…。ここでカフェを始めたのは、風景にほれ込んだからだ。

この強みを最大限に生かそうと、再開後はテラス席を1.5倍に広げた。心地よい風に当たりながら、都会では味わえない場を提供する。

「大人がくつろげる場所」。目指すのは、そんな空間だ。

■景色が一変
2019年10月12日、店の売りでもあったこの景色が一変、猛威を振るった。

この日の深夜、那珂川は一気に水かさが増し、翌13日には店内が約1メートルの高さに浸水するまで泥水が押し寄せた。店舗全体が水の勢いで浮き上がり、後方にずれた。大きな窓ガラスは、いくつもひびが入った。

それから1カ月半は片付けに追われた。店舗が使えない中で始めたのが、屋外での営業だった。「従業員の雇用を守らないと」。屋外営業は店舗再開まで続けた。

しかし、厳しい経営環境は浸水被害だけにとどまらなかった。

予定していた2号店を昨年10月、水戸市内に開業。結果的に、新型コロナウイルスの感染が拡大する中でのスタートとなった。

2号店は主なターゲットを学生に据えていた。学校は休校やオンライン授業となり、客足は想定の6割ほどにとどまった。

それでも希望は捨てていない。壊滅的な被害にあった那珂川沿いの店も、かつての平穏を取り戻し始めている。

■リスク以上の価値
同じ場所での営業再開は、再び被災するリスクが拭えない。かさ上げなどの対策を講じる手もあった。ただ、費用面で断念せざるを得なかった。

「それでも、この風景は手放したくない」

県北地域を何度も歩き、ようやく見つけたイメージにぴったりの場所。他の場所は全く頭になかった。

「ここには、リスク以上の価値がある」

再開後は、客足が以前のように戻り始めた。6月の開業初日は、多くの常連客が足を運んでくれた。自慢のスペシャルティコーヒーを待っていてくれる人がいる。

「大変だけど、一度や二度の被害でへこたれるわけにはいかない」

痛手はあったが、これからもずっと、続けたい日常はここにある。

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