茨城・常総水害訴訟判決 喜びと悔しさ交錯 居住地、分かれた明暗 画期的勝利も控訴視野

賠償請求が認められ、記者会見で喜びを語る若宮戸地区住民の高橋敏明さん(左)=水戸市緑町の県立青少年会館
賠償請求が認められ、記者会見で喜びを語る若宮戸地区住民の高橋敏明さん(左)=水戸市緑町の県立青少年会館
茨城県の常総水害訴訟で水戸地裁は22日、国の河川管理の問題を指摘し、住民側31人のうち若宮戸地区の9人に対する賠償を命じた。「画期的判決」「国は結果を受け止めよ」。住民側は、国との対決に勝利したことを喜びつつ、上三坂地区の住民の請求は退けられた。常総市の約3分の1が浸水した未曽有の災害から約7年。居住地で分かれた明暗に、住民側は「完全勝利ではない」と大半が控訴の方針を示し、高裁での「第2ラウンド」を見据えた。

「被告は、砂丘を含む区域を河川区域として指定するべきを怠っていた」。午後2時過ぎ、水戸地裁301号法廷。阿部雅彦裁判長が主文を読み上げると、傍聴席から「おっ」と驚きの声が上がった。地裁前では「勝訴」の幕を掲げ、拍手が沸き起こった。

原告共同代表の片倉一美さん(69)は「若宮戸を見れば、国に責任がないなんてことは絶対にありえなかった」と国を非難した。昨年8月に阿部裁判長ら裁判官3人が被災地を直接視察したことを振り返り、「裁判所は被害のひどさを熱心に聞いてくれた。だからこの判決につながった」と、提訴から約4年にわたった戦いの達成感をかみしめた。

只野靖弁護士は「原告が力を合わせてきたから認められた」と、住民の結束を強調。「国は緊張感を持って河川管理に当たってもらいたい」と注文を付けた。

一方で、上三坂の地区住民の請求は棄却された。判決が読み上げられる間、傍聴席からは「ええー」と落胆の声も漏れていた。

若宮戸地区に住む原告共同代表の高橋敏明さん(68)は、「主張した通りの結果が得られた」と喜びを示しつつ、「若宮戸を襲った水は、上三坂と水海道も襲った」と、複雑な表情を浮かべた。請求が認められなかった住民に対しても「救済を」と求めた。

片倉さんも自らの請求は退けられた。「被害を見れば、上三坂も絶対におかしいと思うべき所」と、控訴する方針を示した。

国側は閉廷後、国土交通省関東地方整備局長のコメントをホームページに掲載。「国の主張が認められなかったものと認識している」と記した。控訴については言及しなかった。

■「意義大きい」住民安堵

住民側勝訴の判決を受け、越水が起きた常総市若宮戸地区の住民からは安堵(あんど)の声が漏れた。

「当時のことは鮮明に覚えている。恐怖の一言だった」。同地区の女性は7年前を振り返る。同市が鬼怒川と小貝川に挟まれた地域であることを踏まえ、「国は安全管理をきちんと進めるべきだった。裁判所が認めてくれた意義は大きい。よかった」と安心した様子だった。

一方、堤防が決壊した同市上三坂地区について、判決は改修計画が「格別不合理ではない」と判断した。同地区に住む60代男性は「近年の豪雨は昔とは比べものにならない。(国や自治体の)防災計画は進んでいると思うが、追い付かないのが現状ではないか」と危惧した。

鬼怒川の氾濫などを踏まえた国の治水対策「鬼怒川緊急対策プロジェクト」は昨年5月末に完了した。上三坂地区内では堤防を1・4メートルかさ上げしたのに加え、幅も6メートルに広げた。国土交通省は、関東・東北豪雨で記録した24時間雨量551ミリにも「耐えられる」としている。

■常総・神達市長 地域防災力を強化

常総市の神達岳志市長は、関東・東北豪雨による水害から今年で7年を迎えるのを踏まえ「被害に遭われた市民の方々の思いをしっかりと受け止め、市と地域全体が一体となって地域防災力の強化を図る。今後も防災先進都市にふさわしいまちづくりを進めていきたい」とコメントを出した。

■筑波大の星野豊准教授(法律学)の話 計画、適切に実施せず

本判決で国の責任が認められたのは、自然堤防となる砂丘付近の土地を河川区域に指定しなかったためであり、計画に問題があったというよりもむしろ、計画を適切に実施しなかった点にあると言える。従って、従来の判例の基準を変更するものではなく、管理者である国の裁量をより合理的に行使することを求めている。それらの裁量には本件で問題となった河川区域の指定のほか、地方自治体と協力して住民への警告、避難経路や被災後の安全確保を行うことなども含むと考えられる。

★常総水害

2015年9月、台風18号や前線の影響で関東と東北の広域が豪雨に見舞われた。鬼怒川が増水し、常総市では10日午前6時ごろに若宮戸地区であふれ(溢水=いっすい)、同日午後0時50分には上三坂地区で堤防が決壊した。同市全域の約3分の1に当たる40平方キロが浸水。5千棟以上が全半壊した。避難指示対象は3万1千人。死者2人のほか、13人が関連死と認定されている。重症5人、中等症21人、軽症20人。

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