《連載:鉄道開業150年 茨城の軌跡》(3) 保存 生き続けるデゴイチ

デゴイチを見上げる保存会長の中山隆一さん=水戸市千波町の千波公園
デゴイチを見上げる保存会長の中山隆一さん=水戸市千波町の千波公園
■現役車両に「心臓」移植
水戸市の千波公園にたたずむ蒸気機関車(SL)D51。「デゴイチ」の愛称で親しまれ、黒光りした車体は家族連れの人気スポットだ。保存に取り組む「デゴイチを守る会」が、清掃や塗装を施してきた。

あまたの型式があるSLでも、もくもくと煙を上げる巨大なデゴイチは、多くの鉄道ファンの心をつかんできた。「石炭を燃やし、シュッシュと坂を上っていく様子は『いやいや』をしながらも頑張っているような人間味を感じる」。守る会2代目会長の中山隆一さん(69)は目を細める。

■地球46周
千波公園の車体は、1941年製で、常磐線の貨物列車として活躍した。守る会によると、水戸機関区で約14年稼働するなど、約30年間働いた。走行距離は地球46周分の約184万キロに及ぶ。

中山さんはデゴイチと共に青春を過ごした。祖父と父が旧国鉄職員。国鉄で働くことが当たり前と思っていた。しかし、高校を卒業し待ち受けていたのは国鉄合理化の波。日立製作所で列車部品を製造する道を聞きつけ、人生のレールを切り替えた。

■ブーム到来
時を同じくして列車もディーゼル化の流れが訪れた。全国各地でSLが姿を消していった。水戸機関区は70年に全廃した。

別れを惜しみ、保存に向けた機運が高まる。「SLブーム」の到来である。国鉄からの貸与でデゴイチは71年8月、現在の位置に移った。守る会は同年に発足、中山さんも初期から名を連ねた。

当時、千波公園は遊園地があり、観覧車やジェットコースターを楽しむ人でにぎわった。遊園地が82年1月に閉鎖してもデゴイチは公園のシンボルとして残り、半世紀を迎えた。

茨城県内では、大子町の常陸大子駅や筑西市の「ザ・ヒロサワ・シティ」にもSLが静態保存されている。現役のSLも走っている。同県筑西市と栃木県茂木町を結ぶ真岡鉄道真岡線は、土日祝日に「SLもおか号」C12を走らせる。

■C61復元計画
2010年9月、守る会に「千波公園の車体を調べたい」とJRから打診があった。C61形のSLを復元して走らせる計画が立ち上がったという。

調査の結果、自動列車停止装置(ATS)や、ヘッドライトに電力を供給する蒸気タービン発電機の状態が良く、C61に移されることになった。展示から40年近く。守る会は歓喜に沸いた。

中山さんは「蒸気タービン発電機はSLの心臓ともいえる部品。真面目に守ってきて良かった」と振り返る。タービンの「移植」後、C61の20号機は「C6120」となり全国のイベント列車として活躍。JRによると、この発電機は現在も稼働を続けている。

C6120は、14年12月に茨城県内を走った。JR水郡線の全線開通80周年を記念し、「奥久慈清流ライン号」として運行し、水戸-常陸大子駅を駆け抜けた。

守る会は、C6120の見学を計画している。「市民の手で、次世代にデゴイチの記憶と歴史を継いでいきたい」。中山さんの目は、少年のような輝きで満ちている。

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