《連載:鉄道開業150年 茨城の軌跡》(4) 赤字


■地方路線の在り方探る 人口減、車社会どう対応
日本の鉄道開業150年を迎えた14日のJR水郡線常陸大宮駅(茨城県常陸大宮市)。列車が到着すると、車内の人の多くが降車した。身軽になった列車は、どこか寂しげな雰囲気で福島・郡山方面に走り去った。改札を出た人たちは、足音を鳴らして街に消えた。駅前は鳥の鳴き声だけが響いた。
駅前通りで茨城県の銘茶などを販売する常陸園の萩野谷栄治代表(82)は、創業から50年以上にわたり駅を見続けてきた。「郡山方面に行く人は昔よりもさらに減ったように映る」と語る。
■初の公表
JR東日本は7月、利用者の少ない地方路線の収支を初めて公表した。県内では水郡線の常陸大宮駅以北の2区間と、鹿島線が赤字だった。2019年度の赤字額合計は約25億7900万円に上る。
常陸大宮駅は利用者の多少を分ける境目に位置する。
「最近は車で移動する人が多い。鉄道事業者の立場になって考えると、現状維持では厳しいはず」。萩野谷さんは冷静に受け止める。
運転免許を返納した高齢者は通院などで列車を頼ることも多い。水郡線は2019年10月の東日本台風(台風19号)で大子町の久慈川に架かる鉄橋が流失。廃線の危機もささやかれたが、行政や住民の強い要望を受け、21年3月に全線運転再開を果たした。
萩野谷さんは「路線の存廃にかかわらず、行政と事業者が話し合い、料金や利便性が列車と同等の交通手段は残してほしい」と望む。
■寄り添う
JR東日本グループの社員らで結成する日本輸送サービス労働組合連合会の組合員らはこの日、常陸大宮駅前で利用客の意見を聞いた。
細谷浩司執行副委員長は「開業150周年や赤字路線の公表を受け、地域に寄り添った鉄道にしていくため」と目的を説明した。
配布したチラシは、廃線になれば通勤通学手段を失うなど影響が大きい点や、減便・減車が地方の衰退につながる点を指摘していた。
通勤で同駅を利用する40代の会社員男性は「利用者が少なく仕方ないが、運転本数はもう少しあってほしい」と望む。常陸太田市内の高校に通うため同駅を利用する男子生徒は「高校生にとって通学のしやすさが地域で違わないようになってほしい」と話した。
■弱者基準
JRの赤字路線公表は、国土交通省の有識者検討会が7月、地方鉄道の再構築に関する提言をまとめたのがきっかけだった。提言は、国が地域協議会を設け、事業者と自治体が議論することを促す。
同検討会委員で流通経済大の板谷和也教授(交通論)は「高齢者や学生など列車に頼らざるを得ない、立場の弱い人を基準に考えていくべき」と指摘する。
議論に当たっては存廃を前提とせず、増便による利便性向上や、バス高速輸送システム(BRT)への転換など「場所や住民の状況に合った多様な対応を探ってもらいたい」と強調する。
人口減社会、車社会の進展に鉄道はどう対応するのか。「鉄道は地域が一体となってこそ走れる。交通の在り方を町づくりの問題として捉えてほしい」。板谷教授は、地域の抱える課題を認識し、議論する必要性を訴える。
日本の鉄道開業150年を迎えた14日のJR水郡線常陸大宮駅(茨城県常陸大宮市)。列車が到着すると、車内の人の多くが降車した。身軽になった列車は、どこか寂しげな雰囲気で福島・郡山方面に走り去った。改札を出た人たちは、足音を鳴らして街に消えた。駅前は鳥の鳴き声だけが響いた。
駅前通りで茨城県の銘茶などを販売する常陸園の萩野谷栄治代表(82)は、創業から50年以上にわたり駅を見続けてきた。「郡山方面に行く人は昔よりもさらに減ったように映る」と語る。
■初の公表
JR東日本は7月、利用者の少ない地方路線の収支を初めて公表した。県内では水郡線の常陸大宮駅以北の2区間と、鹿島線が赤字だった。2019年度の赤字額合計は約25億7900万円に上る。
常陸大宮駅は利用者の多少を分ける境目に位置する。
「最近は車で移動する人が多い。鉄道事業者の立場になって考えると、現状維持では厳しいはず」。萩野谷さんは冷静に受け止める。
運転免許を返納した高齢者は通院などで列車を頼ることも多い。水郡線は2019年10月の東日本台風(台風19号)で大子町の久慈川に架かる鉄橋が流失。廃線の危機もささやかれたが、行政や住民の強い要望を受け、21年3月に全線運転再開を果たした。
萩野谷さんは「路線の存廃にかかわらず、行政と事業者が話し合い、料金や利便性が列車と同等の交通手段は残してほしい」と望む。
■寄り添う
JR東日本グループの社員らで結成する日本輸送サービス労働組合連合会の組合員らはこの日、常陸大宮駅前で利用客の意見を聞いた。
細谷浩司執行副委員長は「開業150周年や赤字路線の公表を受け、地域に寄り添った鉄道にしていくため」と目的を説明した。
配布したチラシは、廃線になれば通勤通学手段を失うなど影響が大きい点や、減便・減車が地方の衰退につながる点を指摘していた。
通勤で同駅を利用する40代の会社員男性は「利用者が少なく仕方ないが、運転本数はもう少しあってほしい」と望む。常陸太田市内の高校に通うため同駅を利用する男子生徒は「高校生にとって通学のしやすさが地域で違わないようになってほしい」と話した。
■弱者基準
JRの赤字路線公表は、国土交通省の有識者検討会が7月、地方鉄道の再構築に関する提言をまとめたのがきっかけだった。提言は、国が地域協議会を設け、事業者と自治体が議論することを促す。
同検討会委員で流通経済大の板谷和也教授(交通論)は「高齢者や学生など列車に頼らざるを得ない、立場の弱い人を基準に考えていくべき」と指摘する。
議論に当たっては存廃を前提とせず、増便による利便性向上や、バス高速輸送システム(BRT)への転換など「場所や住民の状況に合った多様な対応を探ってもらいたい」と強調する。
人口減社会、車社会の進展に鉄道はどう対応するのか。「鉄道は地域が一体となってこそ走れる。交通の在り方を町づくりの問題として捉えてほしい」。板谷教授は、地域の抱える課題を認識し、議論する必要性を訴える。