《連載:鉄道開業150年 茨城の軌跡》(5) 延伸

ひたちなか海浜鉄道の終着駅・阿字ケ浦駅。奥側に向かって延伸を予定している=ひたちなか市阿字ケ浦町
ひたちなか海浜鉄道の終着駅・阿字ケ浦駅。奥側に向かって延伸を予定している=ひたちなか市阿字ケ浦町
ひたちなか海浜鉄道の吉田千秋社長
ひたちなか海浜鉄道の吉田千秋社長
■〝逆張り〟攻めの一手 海浜鉄道、観光資源結ぶ
茨城県ひたちなか市内で勝田-阿字ケ浦の11駅、14・3キロを結ぶ第三セクター、ひたちなか海浜鉄道湊線。終着の阿字ケ浦駅は、本線の端に車止め標識があり、側線には工事資材などが積まれている。線路は、列車と地域の思いを乗せてさらに前に進もうとしている。

地方鉄道は人口減やコロナ禍を機に、路線縮小などの圧力が高まっている。そんな中、同鉄道はこの流れとは〝逆張り〟の延伸に乗り出した。

■収入源転換へ
「路線縮小だけが生き残る道ではない」。同鉄道の吉田千秋社長は「鉄道の新たな可能性を示したい」と意気込む。

昨年1月、阿字ケ浦駅から国営ひたち海浜公園までの約3キロ延伸が国の許可を受けた。事業費は約78億円、2024年春を予定。詳細な工事計画などをまとめた「工事施工認可」の申請が延期となり、予定はずれ込む見通しだ。

同鉄道の21年度旅客運輸収入は、コロナ禍前の19年度比で21・5%減の約1億5870万円。ひたちなか市が21年、沿線に小中一貫校を開校させたことから、輸送人員は同2・4%増の約108万6千人で、08年の開業以来最多だった。運輸収入の5割以上を通勤通学定期が占める。

延伸は、コキアやネモフィラでにぎわう地域の大きな観光資源と直結させ、新たな収入源をつくり出す攻めの一手だ。

■生き残る道
同鉄道によると、同公園の年間来場者をコロナ禍前の約200万人とした場合、1割の約20万人が湊線を往復利用すれば、延伸費用を勘案しても十分採算が見込めるという。

同公園へのアクセス向上とともに、那珂湊おさかな市場など市内の他施設にも乗客が足を運ぶ可能性を秘める。

同公園や同市場の渋滞緩和や利便性向上を図ると、観光客の満足度が上がる。駅ごとに地域の名産品を販売すれば付加価値も生む。地域全体を考えることは遠回りではなく、「鉄道が生き残るための最短の道」(吉田社長)でもある。

■誘致活動活発
県内では、沿線の発展著しいつくばエクスプレス(TX)の延伸に関連した動きも見られる。

05年に開業したTX。延伸を巡っては国の交通政策審議会が16年、東京都心部・臨海地域地下鉄構想とTXの東京駅延伸の一体整備を答申に盛り込んだ。これと逆方向の県内延伸は、県が来春、水戸、茨城空港、筑波山、土浦駅の4方面案から一つに絞り込むための調査に着手している。

県内の市町村や団体は会合を開き、県に要望書を提出するなど県内延伸の誘致活動を活発化させている。ただ、実現には膨大な事業費や出資者の東京都など関係者の合意形成が必要で、ハードルは高い。

それでも、ひたちなか海浜鉄道の吉田社長は「本県の延伸の動きは貴重だ」と指摘する。「鉄道が地域と歩んでいくためには何が必要か、改めて見直す機会になる」

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