《連載:自殺サバイバー 茨城・稲敷 支援の現場から》(下) 過干渉

■職転々、人間不信に 親との関係、悩み吐き出す
「こんな毎日が続くなら死んだ方がいいや」
30代男性は数年前、仕事から帰宅すると睡眠薬を1錠ずつ手に乗せ、30錠を一気に水で飲み込んだ。仕事や人間関係の悩みから逃げたい一心だった。
「確実な方法を取らなかったのは死ぬのが怖かったから。本当は生きたかった」
▽家では裏腹
小学生の頃はスポーツが好きで、友達が多かった。学校での明るさとは裏腹に、家では親の顔色をうかがって息を潜めた。「父にはささいな理由で殴られた」。家は安心できる場所ではなかった。
母に自分の意見を通すのも苦手だった。友達と一緒に文化系の部活動に入ろうと考えた。入部希望書を母に見せた。大反対され、母の勧める運動部に嫌々入部。うまくなじめないまま3年間を過ごした。
高校卒業後、実家を出て働き始めた。親元を離れた解放感で遊び回った。とりわけのめり込んだのはパチンコ。一時は消費者金融への返済金を使い込むほど依存した。実家に届いた督促状を母が見つけ、立て替えてくれた。母に頭が上がらなくなった。
人との付き合い方が分からず、職場でいじめを受けた。転職を繰り返す。人間不信になり、次の仕事を探すのもおっくうになっていった。
母にせかされ、親族の経営する会社に入った。朝から晩まで怒鳴られる毎日。「おまえみたいなくずは、生きている価値はない」と言われ続けた。生きる気力を失い、自殺を図った。
▽心を開く
目覚めると、目が緑色になっていた。異変に気付いた母が病院に連れて行き、入院。しばらくすると母から再び就職をせかされ、親族の会社に戻った。すぐに別の会社に転職したものの、心身に異常を感じ退職。1年以上引きこもった。
母の勧めで茨城県稲敷市の自殺相談窓口を頼った。否定せずに話を聞いてくれる職員に心を開き、「誰にも言えなかった親との関係、悩みを吐き出せた」。
今は知人の会社で働く。もし子どもの頃、親に意思を尊重してもらえていたら、自分で道を選ぶ強さがあったら…。そんな考えがよぎる時もある。「これからいいことがあるかもしれない」と信じ、今日も懸命に生きる。
▽諦めないで
市の自殺対策窓口「こころの相談」は、社会福祉課の職員で精神保健福祉士の資格を持つ橋本大河さんと片岡奈央子さんが運営する。
家族の前で灯油をかぶった女性を支援した際は、日々の業務をこなしながら、女性が病気で亡くなるまで支えた。片岡さんは「自分でどうにかしようとして、どうにもならずに自殺を図る人も多い。誰かに頼るのを諦めないで」と願う。
橋本さんは、高校時代からの友人を自殺で失ったのを機に、自分にできることを熟考した。障害者自立に関する協議会で検討を進め、2020年11月、官民連携の支援体制を整えた。
21年の新規相談件数は17件、22年は10件。金銭苦や病気、職場や学校でのいじめといった問題を同時に抱えていることが多い。医療機関の受診予約を手伝うほか、債務整理、生活保護申請の案内など「伴走型」の支援に当たってきた。
今後の課題に、自殺未遂直後に運ばれる医療機関との連携強化を挙げる。橋本さんは「支援につながっていない人はもっといるはず。自死遺族の心のケアや生活支援も考えていきたい」とさらなる充実を目指す。
「こんな毎日が続くなら死んだ方がいいや」
30代男性は数年前、仕事から帰宅すると睡眠薬を1錠ずつ手に乗せ、30錠を一気に水で飲み込んだ。仕事や人間関係の悩みから逃げたい一心だった。
「確実な方法を取らなかったのは死ぬのが怖かったから。本当は生きたかった」
▽家では裏腹
小学生の頃はスポーツが好きで、友達が多かった。学校での明るさとは裏腹に、家では親の顔色をうかがって息を潜めた。「父にはささいな理由で殴られた」。家は安心できる場所ではなかった。
母に自分の意見を通すのも苦手だった。友達と一緒に文化系の部活動に入ろうと考えた。入部希望書を母に見せた。大反対され、母の勧める運動部に嫌々入部。うまくなじめないまま3年間を過ごした。
高校卒業後、実家を出て働き始めた。親元を離れた解放感で遊び回った。とりわけのめり込んだのはパチンコ。一時は消費者金融への返済金を使い込むほど依存した。実家に届いた督促状を母が見つけ、立て替えてくれた。母に頭が上がらなくなった。
人との付き合い方が分からず、職場でいじめを受けた。転職を繰り返す。人間不信になり、次の仕事を探すのもおっくうになっていった。
母にせかされ、親族の経営する会社に入った。朝から晩まで怒鳴られる毎日。「おまえみたいなくずは、生きている価値はない」と言われ続けた。生きる気力を失い、自殺を図った。
▽心を開く
目覚めると、目が緑色になっていた。異変に気付いた母が病院に連れて行き、入院。しばらくすると母から再び就職をせかされ、親族の会社に戻った。すぐに別の会社に転職したものの、心身に異常を感じ退職。1年以上引きこもった。
母の勧めで茨城県稲敷市の自殺相談窓口を頼った。否定せずに話を聞いてくれる職員に心を開き、「誰にも言えなかった親との関係、悩みを吐き出せた」。
今は知人の会社で働く。もし子どもの頃、親に意思を尊重してもらえていたら、自分で道を選ぶ強さがあったら…。そんな考えがよぎる時もある。「これからいいことがあるかもしれない」と信じ、今日も懸命に生きる。
▽諦めないで
市の自殺対策窓口「こころの相談」は、社会福祉課の職員で精神保健福祉士の資格を持つ橋本大河さんと片岡奈央子さんが運営する。
家族の前で灯油をかぶった女性を支援した際は、日々の業務をこなしながら、女性が病気で亡くなるまで支えた。片岡さんは「自分でどうにかしようとして、どうにもならずに自殺を図る人も多い。誰かに頼るのを諦めないで」と願う。
橋本さんは、高校時代からの友人を自殺で失ったのを機に、自分にできることを熟考した。障害者自立に関する協議会で検討を進め、2020年11月、官民連携の支援体制を整えた。
21年の新規相談件数は17件、22年は10件。金銭苦や病気、職場や学校でのいじめといった問題を同時に抱えていることが多い。医療機関の受診予約を手伝うほか、債務整理、生活保護申請の案内など「伴走型」の支援に当たってきた。
今後の課題に、自殺未遂直後に運ばれる医療機関との連携強化を挙げる。橋本さんは「支援につながっていない人はもっといるはず。自死遺族の心のケアや生活支援も考えていきたい」とさらなる充実を目指す。