《連載:ゆがみを正す 茨城・性犯罪者の更生》(上) 実態 「欲求満たしたい」

性犯罪を繰り返す加害者の多くは「認知のゆがみ」を抱えるとされる。刑務所や保護観察所では現在、更生だけでなく「治療」に取り組む動きがある。性犯罪の特徴や更生の取り組みを追い、社会が抱える課題を探る。
■社会で孤立化、再犯も
「女子高生の胸を触りたいと心臓がバクバクしていた」。茨城県北地域の20代の男は供述した。
昨年9月、親のクレジットカードで風俗店を利用した後、「物足りない」と犯行を決意。JR水戸駅から電車で茨城県日立市に向かった。路上で標的の生徒を探すと、怪しまれないように後を付けた。「生徒を凝視している男がいる」と通報されていた。
男は周囲に車両がないことを確認し、生徒の背後から口をふさいで引き倒した。生徒が抵抗、すぐさま通報者が駆け寄ってきたため逃走。コンビニのトイレに逃げ込むと、現場にかばんを置いてきたことに気付く。「やっちゃった。警察に捕まる」と考え、電話で犯行を自供し、強制わいせつ未遂容疑で逮捕された。
法廷で男は「間違いありません」と起訴内容を認めた。弁護士は、男に軽度の知的障害があり、犯行当時は精神疾患があったと主張した。男は同様の犯行で4年前にも強制わいせつ未遂容疑で逮捕され、執行猶予付き判決を受けていた。
■溶け込めず
県南地域の30代の男は、昨年11月に取手市内の公園で女児の腕を引っ張り、下半身を露出した疑いで、暴行と公然わいせつの容疑で逮捕された。被害届を基に防犯カメラや不審者の情報などから容疑者として浮上した。
取り調べの中で、同10月の10代女性への強制わいせつ容疑が発覚し、再逮捕された。「自分の性欲を満たしたかった」と容疑を認めた。
男は2018年に女児の体を触った強制わいせつの疑いで逮捕され、その前年にも数回、同容疑などで逮捕されていた。職に就いても、前科が判明して長続きしない。直近の犯行時は無職だった。孤立を深めて再犯に及んだ可能性があり、捜査関係者は「インターネットで名前を検索され、社会に溶け込むのが難しい状況になっていた。(更生は)永遠の課題だ」と話す。
■処罰しても
法務省の再犯防止推進計画等検討会では、有識者から「性犯罪は、性欲に基づくというよりも認知のゆがみが根底にあることが多い。男尊女卑思想、支配欲が主原因たり得るし、発達障害などのため被害者の了解があったと思い込む、ポルノが事実と誤信する事案もある」との意見が出た。
性犯罪者の中には性嗜好(しこう)障害と診断される人がいる。露出症や小児性愛、窃視症などに分類され、法を犯してまで問題行動をする状態にある。
常磐大の寺村堅志教授(非行・犯罪臨床心理学)は、再犯者について「処罰したからといって行動傾向はあまり変わらない。本人も悩んでいる場合があり、治療の対象になる」と説明する。
■全国3例目
同省によると、性犯罪者の同種犯罪による2年以内再入所率は、20年の出所者536人のうち5・0%と、出所者全体(15・1%)と比べて低い。だが、性犯罪は警察が認知していない被害も多い。
同省法務総合研究所の調査では、性的事件の被害者のうち捜査機関に届け出た割合は14・3%にとどまるとのデータもある。
県は昨年11月に「性暴力の根絶を目指す条例」を制定した。未成年への性犯罪で服役した元受刑者は、刑期満了から5年間、県に名前や住所、連絡先を届け出るよう義務付け、治療を含めた再犯防止策につなげることとした。同様の都道府県条例は全国3例目で、今後の取り組みが注目される。
★県性暴力の根絶を目指す条例
昨年11月の県議会で議員提案し成立。元受刑者は、県に申し出れば社会復帰に必要な情報や更生プログラムを受けられる。被害者のための相談体制の整備や、市町村が3歳から大学生までを対象に性暴力根絶に向けた教育や啓発に努めることも定めた。当初案にあった元受刑者への過料を定める条項は、罰則の実効性がないと判断し削除した。
■社会で孤立化、再犯も
「女子高生の胸を触りたいと心臓がバクバクしていた」。茨城県北地域の20代の男は供述した。
昨年9月、親のクレジットカードで風俗店を利用した後、「物足りない」と犯行を決意。JR水戸駅から電車で茨城県日立市に向かった。路上で標的の生徒を探すと、怪しまれないように後を付けた。「生徒を凝視している男がいる」と通報されていた。
男は周囲に車両がないことを確認し、生徒の背後から口をふさいで引き倒した。生徒が抵抗、すぐさま通報者が駆け寄ってきたため逃走。コンビニのトイレに逃げ込むと、現場にかばんを置いてきたことに気付く。「やっちゃった。警察に捕まる」と考え、電話で犯行を自供し、強制わいせつ未遂容疑で逮捕された。
法廷で男は「間違いありません」と起訴内容を認めた。弁護士は、男に軽度の知的障害があり、犯行当時は精神疾患があったと主張した。男は同様の犯行で4年前にも強制わいせつ未遂容疑で逮捕され、執行猶予付き判決を受けていた。
■溶け込めず
県南地域の30代の男は、昨年11月に取手市内の公園で女児の腕を引っ張り、下半身を露出した疑いで、暴行と公然わいせつの容疑で逮捕された。被害届を基に防犯カメラや不審者の情報などから容疑者として浮上した。
取り調べの中で、同10月の10代女性への強制わいせつ容疑が発覚し、再逮捕された。「自分の性欲を満たしたかった」と容疑を認めた。
男は2018年に女児の体を触った強制わいせつの疑いで逮捕され、その前年にも数回、同容疑などで逮捕されていた。職に就いても、前科が判明して長続きしない。直近の犯行時は無職だった。孤立を深めて再犯に及んだ可能性があり、捜査関係者は「インターネットで名前を検索され、社会に溶け込むのが難しい状況になっていた。(更生は)永遠の課題だ」と話す。
■処罰しても
法務省の再犯防止推進計画等検討会では、有識者から「性犯罪は、性欲に基づくというよりも認知のゆがみが根底にあることが多い。男尊女卑思想、支配欲が主原因たり得るし、発達障害などのため被害者の了解があったと思い込む、ポルノが事実と誤信する事案もある」との意見が出た。
性犯罪者の中には性嗜好(しこう)障害と診断される人がいる。露出症や小児性愛、窃視症などに分類され、法を犯してまで問題行動をする状態にある。
常磐大の寺村堅志教授(非行・犯罪臨床心理学)は、再犯者について「処罰したからといって行動傾向はあまり変わらない。本人も悩んでいる場合があり、治療の対象になる」と説明する。
■全国3例目
同省によると、性犯罪者の同種犯罪による2年以内再入所率は、20年の出所者536人のうち5・0%と、出所者全体(15・1%)と比べて低い。だが、性犯罪は警察が認知していない被害も多い。
同省法務総合研究所の調査では、性的事件の被害者のうち捜査機関に届け出た割合は14・3%にとどまるとのデータもある。
県は昨年11月に「性暴力の根絶を目指す条例」を制定した。未成年への性犯罪で服役した元受刑者は、刑期満了から5年間、県に名前や住所、連絡先を届け出るよう義務付け、治療を含めた再犯防止策につなげることとした。同様の都道府県条例は全国3例目で、今後の取り組みが注目される。
★県性暴力の根絶を目指す条例
昨年11月の県議会で議員提案し成立。元受刑者は、県に申し出れば社会復帰に必要な情報や更生プログラムを受けられる。被害者のための相談体制の整備や、市町村が3歳から大学生までを対象に性暴力根絶に向けた教育や啓発に努めることも定めた。当初案にあった元受刑者への過料を定める条項は、罰則の実効性がないと判断し削除した。