《連載:ゆがみを正す 茨城・性犯罪者の更生》(中) プログラム 面談通し再犯抑止

観察官(右)との面談による性犯罪者処遇プログラム=水戸市北見町の水戸保護観察所
観察官(右)との面談による性犯罪者処遇プログラム=水戸市北見町の水戸保護観察所
■被害者への理解促す
性的欲求を満たすことを目的とした犯罪行動を繰り返す保護観察対象者に対し、保護観察所は認知行動療法に基づく「性犯罪者処遇プログラム」に取り組む。

年間約30人が受講する水戸保護観察所(水戸市)。綿引久一郎企画調整課長は「被害を抑えるためのツールとして100%絶対ではないが、事件を起こさなくなる人が確実にいる」と、プログラムの効果を語る。

性犯罪者処遇の充実を求める声は、2004年に奈良県で発生した女児誘拐殺人事件などを機に高まった。法務省は06年からプログラムを開始。19年度の効果検証で、受講群は性犯罪の再犯率が11・1ポイント低く、一定の抑止効果が示された。

■主体性
更生プログラムは本年度に改訂。再犯をしないという目標だけでなく、将来なりたい自分や達成したい目標を考えさせるようになった。受講者の主体性を喚起し、プログラムの効果を高める狙いがある。

受講者が作成する「再発防止計画」についても、同年度から刑事施設と保護観察所の様式を共通化し、再犯の兆候などを継続して把握できるようにした。刑務所内に犯罪を誘発する刺激はほぼない。出所後の生活を送る中で、感じた点を修正していく必要がある。

綿引課長は「より良い形の再発防止計画書を作り上げる。自分自身が犯罪をしないための〝プロ〟になってもらう」と強調する。

中核のプログラムは2週間に1度、2時間ほど実施する。①性加害のプロセス②性加害につながる認知③コーピング④被害者の実情理解⑤再犯防止-の5項目を履修する。

性加害のプロセスでは、犯行時の認知や行動、気持ち、身体の状態を振り返り、加害のパターンを考える。「コーピング」はストレス対処という意味で、日常生活の困難に対処する方法を考える。

■手応え
保護観察官から対処法を例示することもある。

例えば電車内で女性が近くに立っていた場合。痴漢を繰り返す人は「チャンス」と考えてしまい、「少しぐらいなら触っても」「もうちょっとやっても大丈夫だろう」とエスカレートする。犯行に至らないよう「両手でかばんを抱え込む」といった対処法を提案する。

水戸保護観察所は12人の保護観察官がプログラムを担当する。観察官の一人は「性に限らず価値観に癖のある対象者はいる」とした上で、「プログラムの内容を理解してくれている感触がある」と手応えを語る。

■岐路
改訂プログラムは、小児への加害者に対する指導を追加した。「子どもが向こうから来てくれた」と誤った考えを持つ人などに、保護観察官は「認知のゆがみ」を徹底して突く。

「自分勝手な考えだと自覚してもらうことが大事」と綿引課長。軽く見積もりがちな、被害者の人生に与える影響も理解させる。

数十件の犯行を繰り返した受講者は、自らの半生を省みた。「どういう形で事件に近づいたのかを整理し、考えられて良かった」と感想を語った。

受講後、罪悪感を初めて抱く人もいる。その際に不適切な発散をさせないよう保護観察官は工夫する。「気持ちをどう処理していくのか。岐路になるぞ」と伝え、「更生」か「再犯」のどちらを選ぶのか意識するよう指導する。

★認知行動療法
ストレスなどで狭くなった考えや行動のバランスを取り、問題解決を助ける心理療法。うつ病や不安症などの精神疾患に効果があるとされる。面接などを通しストレスを感じた出来事を取り上げ、「頭の中に浮かぶ考え(認知)」「感じる気持ち(感情)」「体の反応(身体)」「振る舞い(行動)」の側面に注目する。ストレス反応のパターンに気付き、悪循環を避けられるよう練習する。

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