《連載:ゆがみを正す 茨城・性犯罪者の更生》(下) 先例 孤立しない環境を


■持続的な仕組み重要
再犯を繰り返す性犯罪者の特徴は-。常磐大の寺村堅志教授(非行・犯罪臨床心理学)は「性的な関心の偏り、レイプ神話、加害を矮小(わいしょう)化して罪悪感を軽減するなど、認知のゆがみが認められる」と説明する。対等な人間関係構築が難しい人は「自分がコントロールできる子どもを支配の対象にするケースもある」。発達障害や知的障害、精神障害、アルコール依存症があるケースも多い。
再犯者を見ると、痴漢や盗撮は累犯性が高い。性格的特徴としては、自信欠如や抑うつ、自己中心的な偏狭が多く見られるという。犯行時に無職や独居、公然わいせつ前科などの要素があると、再犯リスクが高まる傾向がある。
■少ない家族支援
刑務所などの刑事施設や保護観察所では、認知行動療法に基づく更生プログラムを実施している。刑事施設ではグループワークによる性犯罪再犯防止指導を実施し、2021年度の受講者は全国で433人。知的能力に制約がある人や、刑期が短く受講期間を確保できない人には専用のカリキュラムもある。受講者の再犯率は非受講者よりも10・7ポイント低かった。
出所者の生活面をサポートする保護司の支援が切れた後は、「孤立しないような環境づくりが求められる」と強調する。保護観察所が実施するプログラムには、加害者の家族対象のものもある。家族から必要な協力が得られるようにするほか、家族の精神的苦痛を軽減させて援助者としての機能を高めるのが狙いだ。ただ、家族の同意が難しく、実施例は少ないという。
■GPS検討
「子どもを性犯罪から守る条例」が制定されている大阪府では、府に届け出があった元受刑者について、「受刑事実の有無」や「処遇プログラムの受講結果」を法務省が提供する協力関係が構築されている。
同条例に基づく届け出件数は、施行された12年10月から22年3月の間に計197件。希望すれば社会生活のサポートや心理相談を通じ社会復帰を支援する。
法務省は、仮釈放中の受刑者などに衛星利用測位システム(GPS)機器の装着義務付けを検討している。寺村教授によると、GPSは30カ国が導入。先行する韓国では、導入後に再犯率が激減した。ただ、同時期に街灯カメラの拡充などもあり、GPS自体の効果は明確ではないという。韓国は24時間体制の監視センターがあり、マンパワーの面でも充実している。
■負の側面も
米国では、性犯罪の元受刑者が学校や幼稚園に近づかないよう行動制限した結果、居場所がなくなり、ホームレスになるなど負の側面もあったと分析する。
茨城県内では現在、再犯防止プログラムを継続できるクリニックがない。昨年11月に制定された「県性暴力の根絶を目指す条例」は、「治療や円滑な社会復帰のための措置を支援する」と規定。県は治療費用を賄い、情報提供、研修、医学・心理学的な援助をすると盛り込んだ。
寺村教授は「治療はなるべく負担が少ない状態で、持続的にできる仕組みが整備されていくといい」と指摘。自助グループや民間サポート団体があれば「強い絆で再犯防止の効果を発揮する」と語った。
★大阪府子どもを性犯罪から守る条例
強制わいせつ認知件数が全国最多だった大阪で2012年に施行した。子どもへの性犯罪の前科があれば、刑期を終えた後に住所の届け出を全国で初めて義務付けた。条例違反で住所無届けに5万円の過料を科し、正当な理由がないのに女児に付きまとった男を摘発した例がある。社会復帰支援の実施人数は72人、回数は延べ1336回に上る。
再犯を繰り返す性犯罪者の特徴は-。常磐大の寺村堅志教授(非行・犯罪臨床心理学)は「性的な関心の偏り、レイプ神話、加害を矮小(わいしょう)化して罪悪感を軽減するなど、認知のゆがみが認められる」と説明する。対等な人間関係構築が難しい人は「自分がコントロールできる子どもを支配の対象にするケースもある」。発達障害や知的障害、精神障害、アルコール依存症があるケースも多い。
再犯者を見ると、痴漢や盗撮は累犯性が高い。性格的特徴としては、自信欠如や抑うつ、自己中心的な偏狭が多く見られるという。犯行時に無職や独居、公然わいせつ前科などの要素があると、再犯リスクが高まる傾向がある。
■少ない家族支援
刑務所などの刑事施設や保護観察所では、認知行動療法に基づく更生プログラムを実施している。刑事施設ではグループワークによる性犯罪再犯防止指導を実施し、2021年度の受講者は全国で433人。知的能力に制約がある人や、刑期が短く受講期間を確保できない人には専用のカリキュラムもある。受講者の再犯率は非受講者よりも10・7ポイント低かった。
出所者の生活面をサポートする保護司の支援が切れた後は、「孤立しないような環境づくりが求められる」と強調する。保護観察所が実施するプログラムには、加害者の家族対象のものもある。家族から必要な協力が得られるようにするほか、家族の精神的苦痛を軽減させて援助者としての機能を高めるのが狙いだ。ただ、家族の同意が難しく、実施例は少ないという。
■GPS検討
「子どもを性犯罪から守る条例」が制定されている大阪府では、府に届け出があった元受刑者について、「受刑事実の有無」や「処遇プログラムの受講結果」を法務省が提供する協力関係が構築されている。
同条例に基づく届け出件数は、施行された12年10月から22年3月の間に計197件。希望すれば社会生活のサポートや心理相談を通じ社会復帰を支援する。
法務省は、仮釈放中の受刑者などに衛星利用測位システム(GPS)機器の装着義務付けを検討している。寺村教授によると、GPSは30カ国が導入。先行する韓国では、導入後に再犯率が激減した。ただ、同時期に街灯カメラの拡充などもあり、GPS自体の効果は明確ではないという。韓国は24時間体制の監視センターがあり、マンパワーの面でも充実している。
■負の側面も
米国では、性犯罪の元受刑者が学校や幼稚園に近づかないよう行動制限した結果、居場所がなくなり、ホームレスになるなど負の側面もあったと分析する。
茨城県内では現在、再犯防止プログラムを継続できるクリニックがない。昨年11月に制定された「県性暴力の根絶を目指す条例」は、「治療や円滑な社会復帰のための措置を支援する」と規定。県は治療費用を賄い、情報提供、研修、医学・心理学的な援助をすると盛り込んだ。
寺村教授は「治療はなるべく負担が少ない状態で、持続的にできる仕組みが整備されていくといい」と指摘。自助グループや民間サポート団体があれば「強い絆で再犯防止の効果を発揮する」と語った。
★大阪府子どもを性犯罪から守る条例
強制わいせつ認知件数が全国最多だった大阪で2012年に施行した。子どもへの性犯罪の前科があれば、刑期を終えた後に住所の届け出を全国で初めて義務付けた。条例違反で住所無届けに5万円の過料を科し、正当な理由がないのに女児に付きまとった男を摘発した例がある。社会復帰支援の実施人数は72人、回数は延べ1336回に上る。