【映画】
映画監督・濱口竜介×美術家・奈良美智、偶然と“創造”をめぐる初対談

シモキタ-エキマエ-シネマ「K2」開館記念イベントで対談を行った美術家の奈良美智(左)とこけら落とし作品『偶然と想像』の濱口竜介監督


 今月20日に東京・下北沢に新たにオープンするミニシアター、シモキタ-エキマエ-シネマ「K2」でのこけら落とし作品となる『偶然と想像』濱口竜介監督と美術家の奈良美智の特別対談が14日、都内で実施された。



【動画】映画『偶然と想像』キャストコメント



 この開館記念イベントに集まった観客を前に、濱口監督は「こけら落としとして本作を選んでいただきました。また今日、奈良さんとお話する機会をいただいてありがたく思っています」とあいさつ。2人はこの日が初対面となった。



 濱口監督は「ここにいる奈良さんファンに刺されるんじゃないかというほど、奈良さんの事をほとんど知らない状態で今回この対談のご提案いただいて。もちろん10代、20代から奈良さんの絵は見ていて存在も知っている。出会い方として、ポップアイコンやサブカルチャーという文脈でどちらかというと出会っていて、どう付き合ったらいいのかというのが見えづらかったというのが正直なところで。それでこのトークイベントを前に森美術館の奈良さんのお話されている映像を見た時に、映像に映った人というのが、こんなにそのまま映っている映像ってあんまり見たことがないなと。『この人こういう人なんだな』と語りを聞くとわかる人。生意気な言い方ですけど、信じられる人なんだなと思いました」と率直な印象を明かした。



 またその映像の中で奈良が「鉛筆で絵を描くようにドローイングで描くように描けばいいのではとドイツで先生に言われてやってみたところ、自分の中ですごく抜ける所があったというお話をされていて。その時に、自分が見ていたすごくシンプルな絵の奥に、いろいろ描かれなかった線というものがあるんだなと、ようやくわかったんです。それで奈良さんの絵を見た時に、バカなんじゃと思われるかもしれないですけど、なんていい絵なんだろうと思うようになったんですよ(笑)」と話した。



 それを聞いていた奈良は「光栄です」と笑顔を見せ、「今回一緒にお話するという事で、どんな人が作っているんだろうともう一度濱口監督の作品を観ていたんですけど、自分とはまったく違うタイプの人なんだろうと思っていたが、“モノをつくる”ということにおいて、その手法は異なるもののすごく似ているという所にたどり着いたんです。色や線やタッチだったりが、映画の中でいう演じる役者みたいなものなのではと…。頭の中で脚本を作りながらその役者を動かしていき、ある程度みんなが自由に動き回った所で急に何かが変わる瞬間があって、その瞬間を逃さなければゴールが見えて、そこから割と時間がかからず完成する。演技する役者さんが映画の中で見てて変わっていく。特に『ドライブ・マイ・カー』(濱口監督作品)でも化学変化が起こったような瞬間がありますけど、絵を制作している時もそういう瞬間がある」と、モノづくりにおいての共通点を語った。



■東日本大震災が変わり目に



 また制作について奈良が「絵と関係しないところでの経験、そういう事が自分の予期せぬ化学変化を起こさせてくれる。ほぼ美術と関係のない人と接した時の経験などが、自分の作品に生きてくる。人々に何か感じとれるものが専門的な教育じゃない所から作品が放ってくれているという事はありますね」と語ると、濱口監督も共感を示した。



 「わかる気がするというか、作る時に助けてくれるのは、そういう生きてきた時間という感覚はわかる。一方で奈良さんとお話して思ったのは、自分は勉強するのが結構好きで、芸術全体の事はわからないですけど映画史も好き。周りに才能ある人々がたくさんいた時に、支えてくれたのが勉強だった。それに助けられつつ作っているというのもあったんですけど、ただそれが自分を閉じ込めているというのも感じて…。自分でも技術は上がったという実感はあったんでしょうけど、精魂込めて作った作品がちょっと何かが欠けているような。これではなかなか映画を撮れないなと、結局映画以外の経験が必要なんだなと思った時に、自分の場合は東日本大震災が起きた」と述懐。



 そこで濱口監督は東北へ行く事となり、現地で同じく映画監督の酒井耕とともに東北記録映画三部作『なみのおと』『なみのこえ』『うたうひと』を撮った。東日本大震災が濱口監督自身の変わり目となったという。



 「インタビューしていて本当に恐ろしいなと思ったのが、みんな3月11日っていつもと同じ様な日だと思っていたと。でもそういう事がある日突然起きるんだという事も思いましたし、それが奪われるという事がどういう事なのかというのもすごく学んだ気がします。作っていた期間が自分の回復期にもなり、また劇映画に戻っていけるようにもなりました」(濱口監督)。



 奈良も、当時は絵をまったく描けなかったと言い、「描く事が罪みたいな。道具がないと描けないし、余裕があってできるもの。そういう時になんて無力なんだと。音楽をやっている人がすごくうらやましくて。俺はなにもできない。災害が起きる事をまったく気にせず、のほほんと生きてきた自分が罰当たりな気がして何もできなくなった。それでボランティアをしに行ったりしたんですけど、作品作りにはしたくないと思っていた。でもそれが結果、作品作りにバックしてきた」と、奈良にとっても大きな制作の変わり目となった当時の状況を明かした。



 続いて自身の作品が世に出た時の人々の感想について話が及ぶと、奈良は「すべて計画して理詰めで作ったものだと、手が離れても理詰めでしか生きられないんだけど、自分の中の滲み出たものが作品にあった時に、そういう気づきをいろんな人の感想から受けるというのはあるんです。それが次の作品のヒントというか、次また違う霊感がやってくるかもなとか…。まさに“偶然と想像”(笑)?。それって密に計画されたものには起こり得ない事」と話した。



 『偶然と想像』のまさにテーマ「偶然とは?」という問いに濱口監督は「ニュートラルなものというか、我々との出会い方によって極端に良くもなるし悪くもなるものだと思う。できればいいものだけを選びたいけど、なかなかそうはならない。本当に目指している事とかって、偶然でしかたどり着けないという感覚はあるんです。その偶然というものを受け入れなきゃいけない、それは自分を不安定な状況に置かなければならないという事なんですよね。そうするといい偶然も悪い偶然もやってきて、それは等しく受け入れなければいけない」と真剣に語った。



■20代の若者へのメッセージ



 さらにイベント後半では、2人への質問コーナーに入り、「最近どんな音楽を聴いていますか?」という問いに、濱口監督は「なんでも聞こうと思うんですけど、結局脚本が一番進んでしまうのは自分が20~30代に聞いていた曲。結局、俺はここなのかとなります(笑)」と苦笑いすると、それを聞いた奈良が「その時代の自分というのは可能性が無限大なんですよ。レベルが定まっていなくて、ただただ可能性がある状態。大人になった今はその可能性を引き出すことができるけど、若い時は引き出せない。今同じ音楽を聴いて気持ちだけ若い頃に戻ると、何を引き出せばいいのかがわかる」と語ると、これには濱口監督も「これはすごくいい話」と唸っていた。



 また「こんな世の中ですが、最近一番楽しいと感じる瞬間は?」という質問に、「わりといつも楽しいです(笑)」と答える奈良に対し、濱口監督は「いつも楽しいという人間ではないんですけど、楽しいのは、正直になっている時ですよね。なので奈良さんが楽しいのは、正直だからなのかなと思う」と話すと、突然、奈良が「なぜ僕が今半袖のTシャツを着ているのかというと、ここへ入ってきた時に濱口監督と同じようなセーターを着ていて、脱ぎました(笑)」と舞台裏を明かし、そんな奈良に濱口監督が「ちなみに奈良さんはユナイテッドアローズで、私は無印です(笑)」とツッコみ、会場を笑わせる場面も。



 最後に「今の20代の方たちへのメッセージを」という質問が飛ぶと、「僕はもうおじいさんの域に達しているからありますよ」と奈良が口火を切り、「パソコンで言う“ショートカット”で目的地にはすぐに行けるんだけど、回り道したことで別の風景が見えてくる。ただショートカットしていく予定だった目的地ではないものに、ショートカットしていく。偶然を自分で誘発していく。全然違う道にそれていくんだけど、それで急にもっと違う大きなゴールが見えちゃったりする。そういう作業をして欲しいという事。それと学生だったら、自分らしくない事もやっていい。やってみたい事を恥ずかしがらずに悔いなく試す、実験する。無差別にやってもいい。責任はとらなくていい、学生だから。20代の人は見えてるものに行く前に、見えていないところを通ってくると違うものが見える」と、自身を振り強く返り呼びかけた。



 続いて濱口監督は「僕は今も結構そうなんですけど、イヤな事から逃げる事は頻繁にしていまして…自分が運が良かっただけかもしれないんですけど、大事な事だと思うんです。でも、踏みとどまらなければいけない、そこから逃げたら終わりだという事もあって、踏みとどまって、ある種悪い偶然や失敗みたいなものに耐えないと、良

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