
【映画】
田中泯、坂本龍一さんの“日記”を朗読 ドキュメンタリー先行試写会で胸中語る「必死でした」

俳優の田中泯が19日、大阪・VS.(グラングリーン大阪うめきた公園ノースパーク VS.)で開催中の大規模企画展「sakamotocommon OSAKA 1970/2025/大阪/坂本龍一」(27日まで)で行われたドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』(監督:大森健生)の先行試写会に登壇した。本作で朗読を務めた田中は、親交のあった坂本龍一さんへの思いと、朗読を引き受けた経緯を語った。
【動画】『Ryuichi Sakamoto: Diaries』予告編
2023年3月に逝去した稀代の音楽家・坂本龍一。その最後の日々は、自身の日記に克明に記録されていた。本作は、がんを公表してからの3年半にわたる闘病と創作の軌跡を、遺族の協力のもとプライベート映像やポートレートとともに描き出すドキュメンタリー。NHKで放送された特集番組『Last Days 坂本龍一 最期の日々』に新たな未公開映像や音楽を加えて映画化され、映画館ならではの音響と空間で体感するべき作品に仕上がった。
上映後に登壇した田中は「いろいろ思い出してしまって、言葉が出ないですね。裏では笑って話していたのに、不思議です」と胸の内を吐露。田中の公演を坂本さんが観に訪れるなど、以前から親交があり、「一緒にお酒を飲むと、気がつけば朝になっているような関係でした」と明かした。
そんな坂本さんについて「コンプレックスというわけじゃないが、ずっと感じ続けているのは、僕が”言葉”にして出してない事をどんどんやってきた。ある時、『泯さん、このままいくと人類みんなおかしくなっちゃいますね』って言うんです。僕が口に出さないでいることをポッと口に出してくる」と言い、森林保全や原発問題に向き合う坂本さんの姿勢を振り返った。
さらに、「彼の好奇心を動かしていたのは“人間”そのものなんだと思う。音楽を考え続ける、音楽というものに触れ続けることが “人間”に対する好奇心と同じだったんじゃないか」と語り、「“踊り”を考えることが僕にとっては“人間”であることを考えることなんです。それはちっとも難しいことではなく、当たり前のことだと思っています。僕はずっと“言葉”をしゃべれなかった人間で、はじめて映画に出て人前でせりふをしゃべったもの50 代ですよ」と、自身のダンスへの姿勢とも重ね合わせた。
「僕はダンスをやっていたから“言葉”を信じなくなっていたんです。自分の中で“言葉”を培養して純粋に使えているのか。それが人間だから、人生だから、世間だから…とか、皆さんも小さな時から散々(大人から)理屈っぽいこと言われたでしょう?」と田中自身は“言葉”と距離をとってきたと言う。
そんな田中が朗読という“言葉”で伝える役目に挑んだ経緯については、「“言葉”をしゃべる常識というのを、むしろ疑ってみようと。なるべく”感情”と”言葉”の距離を取っていられるようにしてしゃべろうとか、思い出せばいっぱいあるんだろうけど、…必死でしたね」と、収録時に思いを馳せた。
坂本さんの日記については「彼が残した手書きの日記から携帯のメモ書き、鉛筆の走り書きのようなものまで、日記とはいいながらきっとものすごい不定多数の人間に向かって言葉を吐いてると思います。つぶやいてないんですね。つぶやいているかのように見せて、おそらく(彼は)読まれることを知っている。……当たってないかもしれないけど(笑)。彼の口からでる“言葉”は基本的に(目の前の)相手だけじゃない。そこに一人しか居ないけど大勢の人がそこに居る、というのが彼の思想だと思います」と分析した。
MCを務めた加美幸伸(FM COCOLO DJ)が「雲の動きは音のない音楽だ」という、映画にも登場する坂本の日記に書かれた言葉について触れると、田中は「僕はダンサーなので、ダンスをしているように見えてくるんです。小さな雲があると、その雲って太陽が出てきたら必ずなくなる。結構な時間がかかるんです。消えるまで見てやろう!って。でも、やっぱり音楽のようにも見えますよね。でもこれって子どもの好奇心ですよ!大人は時計みちゃうから」と会場を和ませ、子どもらしさを持つ坂本に共感を示した。
坂本さんと初めて一緒にお酒を交わしたとき、「この人やっぱり“本当”で生きていきたいんだと思いました。“本当の気持ち”とか、“本当の事”をやりたいとか、“本当の奴”と一緒にいたい、とか。今ってうわべや表面だけの方って結構わかりますよね。わかっていても通り過ぎたり適当に答えているときがありますよね。僕もあります。なぜ、それでやり通しちゃっているんだろうかという疑問を、やっぱり坂本さんって持ってるんですよね」と感じたという。
続けて、「でも本当に、大人の社会ってよく見れば嘘ばっかりじゃないですか。子どもっぽい話をして笑われるかもしれないけれど。でも、笑っていられるかな?(坂本さんは)ずっと辞めずに、最後の最後まで音楽をやっていたわけですね。伝統芸能もそうなんですけど、ピアノに向かうということはひょっとしたら同じことの繰り返し。でも同じようにしない。繰り返し毎日毎日同じことをやっていたとしても、同じではないんです。これは子どもが同じ遊びを毎日よく飽きもせずやるということと同じことで、子どもにとっては同じじゃないんですよね。同じことやってないんですよ。毎日新しい何かがきっと見つかるんですよ」と坂本さんの創作姿勢を称賛した。
本作については、「すごく悲しいけど、坂本さんが支えた身体、引きずっていた身体と全く違うコンディションの中で私たちは生きているが、彼が話した事ややってくれた事に対して、観よう、わかろう、聴こうとしている。それはとても無理なことかもしれないし、失礼なことかもしれない。でも、最後の最後まで彼は見せるわけですよね。これは奇跡に近いです」と語り、「最後の姿を知らない方のほうが世の中では圧倒的に多いわけですが、(坂本さんの)亡くなる瞬間までおそらく映像に残っていると思います。とんでもないことだと思いますよ。でも、これは元の元を立たせば、子どものような好奇心を絶対に捨てずに、大事に大事に持ってきたことも証拠だと思います。僕も絶対にそうします」と力を込めた。
ドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』は11月28日より全国公開。