森守る「自伐型林業」 茨城・日立市、担い手育成始動 適度な間伐繰り返す
小規模に間伐を繰り返して森を育てる「自伐型林業」の取り組みが、茨城県日立市で進んでいる。樹木を一斉に切り出す「皆伐」とは異なる新しい林業で、新規参入しやすいのが特長。持続可能な林業として近年注目を集めており、市は本年度から研修会を企画して担い手の育成に乗り出す。
■山との対話
JR常陸多賀駅から車で約10分。日立市大久保町の林道沿いに樹齢50年以上のスギやヒノキが育つ森が広がる。市内で暮らす海野佑介さん(42)は2年前、実家が所有する約3ヘクタールの山で自伐型林業を始めた。
林道沿いに、森の中へつながる約50メートルの作業道が延びる。幅2.5メートルほどで、自ら小型重機で敷設した。「最小限の切り土と道幅で山への負荷を減らせば壊れない道になる」。今後さらに作業道を増やして少しずつ伐採し、木材搬出に備える計画だ。
長年、住宅地に隣接する山林の管理に頭を悩ませてきた。治水効果やレクリエーション利用など森林の多面的な機能に着目したのが、林業を始めるきっかけになった。
海野さんは長く勤めた市消防本部を退職し、森づくりに挑む。「山と対話しながら行う面白みがある。山の価値を見直し、林業を起点に防災環境や地域振興にまでつなげたい」と先を見据える。
■良質な樹木
自伐型林業は自ら経営や管理を行い、「小さな林業」とも呼ばれる。
従来型の林業は50年ほどの周期で広範囲に樹木を切り出す皆伐が主流だが、自伐型では、適度な間伐を長期にわたって繰り返し、良質な木を育てる。森林の荒廃を防ぎ、災害に強い森づくりにつながるとされる。
NPO法人自伐型林業推進協会(東京)によると、現在は全国で51自治体が自伐型を推進している。チェーンソーや小型重機などがあれば実施できるため、農業などとの兼業も多いが、関東では例が少なく、県内では日立市のみという。
同協会の上垣喜寛事務局長は「山を持っていない人でも実施でき、最近は30~40代で志す人が増えている。中山間地域の活性化にも役立つ」と話す。
■皆伐の危険
市域の6割を森林が占める同市では、森林管理の担い手確保が課題だった。
手入れが行き届かない森林を市町村が仲介役となって事業者につなぐ国の「森林経営管理制度」が2019年に導入されたものの、すでに地元の森林組合は解散しており、「施業者が足りないのが現状」(市)という。
昨秋の台風13号に伴う大雨では、市内各地で土砂崩れが発生し、皆伐エリアで土砂が流れ出した場所があった。切った木を山中に残す「切り捨て間伐」が流木となって農地に流れ込んだり、橋の手前で詰まったりする事例もあり、管理上の課題が浮き彫りになった。
自伐型に注目した市は昨年度から事業化に着手。3月に開いた自伐型に関するフォーラムでは、30人以上が参入に前向きな意向を示した。
本年度は同協会と連携し、6~7月に市内山林で体験研修を開き、その後は本格的な参入希望者向けの施業研修を実施する予定だ。来年度からは作業道を整備するための補助制度を設けることも検討している。