【いばらき春秋】
昨年亡くなった詩人の谷川俊太郎さんに「ぼく」と題した作品がある。〈ぼくはこどもじゃない/ぼくはぼくだ/ぼくはおとなじゃない/ぼくはぼくだ/ぼくはきみじゃない/ぼくはぼくだ〉
▼この詩を読むと自己肯定感の高い、凜(りん)とした少年の姿が思い浮かぶ。「ぼく」を「わたし」に変えてもいい。どれほどの子どもが「ぼくはぼくだ」「わたしはわたしだ」と言い切れる生き方ができているだろうか
▼いじめや虐待で人格を否定され、おびえて生きる子どもたちがたくさんいる。発表されるいじめや虐待の件数からは一人一人の顔は見えないが、助けを求める子どもたちは身近にもいることを想像してほしい
▼日常的に家事や家族の世話を担うヤングケアラーと呼ばれる子どもたちもいる。県の実態調査では約10人に1人が家族の世話に追われ、自分の時間を失い、誰にも相談できずにいた。子ども時代は大人になるための準備期間では決してない。大切な心を養う時間である
▼谷川さんの詩はこう続く。〈だれがきめたのかしらないが/ぼくはうまれたときからぼくだ/だからこれからも/ぼくはぼくをやっていく/ぼくはぜったいにぼくだから…〉
▼ぼくとわたしの幸せを祈りながらペンをおく。(智)