【いばらき春秋】
季節を色に例えると、春はピンクを思い浮かべる人が多いらしい。寒さから解放されて浮き立つ気持ちと、新しい学期や年度を控え準備をするこの時季によく合う
▼時候のあいさつに「春色の候」があるように、日本の色彩感覚は季節が移り変わる色合いを楽しむ中で育まれた。身の回りには自然や情景に由来する伝統色であふれ、単にピンクでくくってしまってはもったいない
▼開花が待たれる桜の色はソメイヨシノではなくヤマザクラからきている。桜色だけでも薄ければ薄桜、くすむと灰桜。梅に由来するものでは、やや紫がかった紅梅、一重咲きの明るい一重梅。桃花は桃の花のような淡い紅色
▼「枕草子」にも登場する。「草の花はなでしこ、唐(から)のはさらなり、大和のもいとめでたし」。日本原産のなでしこは紫がかった薄い赤、中国原産の石竹(せきちく)は鮮やかな桃色。いずれも花から名が付いた。「春はあけぼの」の曙も黄色を帯びた淡い紅赤色を指す
▼ほかにも薄柳はみずみずしい若葉が春風に揺れるさま、一面に咲く風景が元気をくれる菜の花、若草は生命力にあふれ、始まりの象徴という
▼卒業式の帰り道なのか花束を手にした人を見かける。送り出された人が抱えた花束も春色であふれている。(滝)