【デスク日誌】桜散っても消えぬ記憶

桜が開花する頃、「戦友」の訃報が届いた。戦友というと仰々しいかもしれないが、共に血液のがんを患い入院生活を過ごした仲間だった

▼大きな体でこわもてのSさん。初めて病室であいさつした時は緊張した。岩手県出身で東北なまりの穏やかな男性だった。Sさんは20歳ほど年上だが、打ち解けるのに時間はかからなかった。差し入れの黒糖蒸しパンをおいしそうに食べていた

▼「余命数カ月と言われたよ」。Sさんは寂しげな表情で打ち明けた。使っている抗がん剤の効果が弱まっていた。どう声をかければいいのか分からず、彼の言葉にただうなずくしかなかった。Sさんはそれから1年ほど、家族に支えられながら病気と闘い続けた

▼春の日差しのように思い出は優しく心を包む。出会いに感謝している。桜の花は散ってもSさんの記憶は消えることはない。(整理部・菊池敦史)