【デスク日誌】黙っていれば暴走する

孤立の果てに忘れ去られる末路は哀れだ。だが、口先の巧みさだけを武器に周囲を支配し、いつしか王座も奪取する過程は生々しさを感じる

▼米国の作家、ジョージ・ソーンダーズの小説「短くて恐ろしいフィルの時代」は独裁者のありさまを奇想天外な設定で描く寓話(ぐうわ)だ。勝手な理屈を振り回す強権的な姿は実在する政治リーダーを想像させる

▼主人公は異論を許さず、共生を拒絶する。排除すべきと決め付けた他者への弾圧は冷酷で容赦がない。訳者あとがきで、翻訳家の岸本佐知子さんは作者の言葉を紹介する。「一人ひとりの中に、フィルはいます」

▼ただ、物語からくみ取るべきは偶像をつくり上げてしまう側の態度かもしれない。過剰に忖度(そんたく)し、黙って放っておけば、権力は暴走する-。自らの弱さを突き付けられたようで苦しくなるが、心に深く刻みたい。(報道部・川崎勉)