2021年5月9日(日)

【論説】法人税の見直し 企業に負担増求めよ

企業の課税逃れを防ぐ法人税改革の国際的な議論が、急進展し始めた。日本は新型コロナウイルス対策の巨額支出による財政悪化で今後の税収確保が待ったなしの課題となっており、議論を企業に対する適切な税負担増の契機とすべきだ。

今回、議論の潮目が変わるきっかけをつくったのは米国だ。

トランプ前政権は景気拡大を重視して大幅な法人税減税を実施。巨大IT企業を対象にしたデジタル課税を巡る多国間協議では「米国企業を狙い撃ちにしている」として、後ろ向きの姿勢を崩さなかった。

しかし、バイデン政権は4月、巨額インフラ投資の財源確保を主目的に連邦法人税率の21%から28%への引き上げを表明。合わせて、多国籍企業が低税率国に利益を移して課税を逃れるのを防ぐため、海外収益への最低税率を21%へ上げる計画を打ち出した。

デジタル課税についても、対象業種をデジタル関連に限定せず売上高の大きい「多国籍企業100社程度」とする新しい案を各国に提示した。法人税への最低税率導入とともに、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議や経済協力開発機構(OECD)における今年半ばの合意を目指している。

法人税を巡っては新自由主義の影響が強まった1980年代以降、企業誘致を掲げて各国の引き下げ競争が本格化。近年では巨大IT企業に十分課税できない制度上の問題もあり「税収を損なっている」「個人への課税に比べて不公平だ」との批判が国際的に高まり、見直しの議論がOECDなどで続いていた。法人税引き下げ競争の悪影響はわが国へも及んでおり、日本政府は国際合意に向けて最大限に貢献してもらいたい。

議論の機運が各国で高まった背景には、コロナ禍により景気が冷え込む一方で、莫大(ばくだい)な対策費を要して軒並み財政が悪化した点がある。

先手を打ったのは英国で、3月に大企業向けの法人税率を現行の19%から25%へ引き上げる方針を発表した。財源確保が主目的で税率の引き上げは約半世紀ぶりという。日本は企業優遇の安倍前政権の下で法人税減税が加速し、国と地方を合わせた実効税率は29.74%と主要国並みの20%台に下げられた。その一方で消費税率は段階的に10%まで引き上げられており、家計への負担押し付けが鮮明である。

感染が収まらず対策費はなお必要としても、深刻化した財政の立て直しへ、歳出とともに税制をどう改めるかの議論をすべき時だ。

国・地方の債務残高が1200兆円を突破し主要国最悪の財政状況にある点を考えれば、日本が他国に先んじて法人課税の強化を打ち出しておかしくなかったし、そうすべきでなかったか。

経済財政諮問会議で4月、財政健全化の議論が始まったものの「経済あっての財政」を掲げ衆院選を控える菅政権の動きは鈍く、危機感に乏しいと言わざるを得ない。

コロナ禍が続く中での増税論議には懸念の声があるかもしれない。だが、企業が蓄えた内部留保は2019年度に475兆円と8年連続で最高を更新し、負担能力を裏付けている。足元でも「巣ごもり需要」が高い利益につながっている企業が数多くある点を見過ごしてはならない。

2021 年
 5 月 9 日 (日)

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