【論説】いじめ防止法10年 いかに子どもを守るか

いじめ防止対策推進法が施行され、10年がたった。いじめを「児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義。自殺を含め、心身に深刻な被害が生じたり、長期間の欠席を余儀なくされたりした疑いがある場合、学校などは「重大事態」と認定した上、第三者委員会を設置して速やかに調査を行い、事実関係を明らかにすると定めている。

調査が不十分なら、自治体が再調査を行う。2011年に大津市立中2年の男子生徒がいじめを苦に自殺。学校や市教育委員会は他の生徒や教員が暴行などを目撃していたのに適切な対応を取らず、自殺後も調査を放置したとされ、厳しい批判を浴びた。これが法整備のきっかけとなった。

しかし21年度は、小中高などのいじめ認知件数が過去最多となり、重大事態の件数も高止まりする中、学校・教委が問題を把握しても、いじめと認めようとしない例が目立つ。理解不足や人手不足、保身など、さまざまな理由から法の趣旨が教育現場に浸透せず、いじめの早期認知・対応の仕組みは十分に機能していない。

さらにインターネット上や学校外のいじめによって被害の実態は複雑かつ深刻になっており、いかに子どもを守るかという問いは切実さを増している。国や自治体がより積極的に関わり、教育現場の負担軽減を図るなど、いじめ対応の立て直しを急ぐ必要がある。

子どもや保護者がいじめを訴えても学校・教委は対応せず、自殺に至る悲劇が相次いでいる。埼玉県川口市の小中学校でいじめに遭った男子生徒は担任に助けを求めたのに放置され、自殺未遂を3回繰り返した。ようやく市教委は調査を始めたが、そのさなかの19年9月に自ら命を絶った。

北海道旭川市では21年3月、市立中2年女子が凍死した状態で発見され、自殺と判断された。19年6月に自殺未遂があり、学校や市教委はいじめの概要も把握したが、重大事態と認定しなかった。現在、再調査中だ。

文部科学省によると、21年度に全国の小中高校などで認知されたいじめは61万5351件。いじめ防止法が施行された13年度の3倍以上で、重大事態は706件と過去2番目の多さになった。

問題は、重大事態の中で深刻な被害を把握するまでいじめと認知していなかった事案が310件あり、うち119件はトラブルなどの情報があったのに、いじめと判断していなかったことだ。悪ふざけや冷やかし、けんかと軽く捉えていても、後に重大事態と判明した例は少なくない。教員が忙しすぎて、子どもときちんと向き合う余裕がないのも一因だろう。

今年4月に発足したこども家庭庁は、学校・教委ではなく、自治体の首長部局に相談窓口を設け、いじめの認知から解決までを支援する取り組みを8自治体で進めている。先行事例となった大阪府寝屋川市では、市長部局に専門家から成る部署を設置。被害者と加害者から聞き取りをするなど調査し、解決しない場合、市長が校長にクラス替えなどを勧告できる。

ただ子どもに最も身近な学校の役割が重要なのは言うまでもない。学校と自治体の間で対応を分担したり、国が教員の働き方改革を後押ししたりするなど対策を尽くし、子どもの安全を確保する体制の整備を着実に進めることが求められる。