【論説】森友文書改ざん訴訟 「負の遺産」と決別を

森友学園への国有地売却を巡り、財務省決裁文書の改ざんを苦に自殺した近畿財務局の元職員赤木俊夫さんの妻雅子さんが、改ざんを指示したとされる佐川宣寿元国税庁長官に損害賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地裁は請求を棄却した。「夫はどうして改ざんをしなければならなかったのか」という雅子さんの問いに答えは出なかった。

雅子さんは2020年3月に提訴。佐川氏とともに被告だった国に、赤木さんが改ざんの経緯をつづった「赤木ファイル」の提出を求めた。だが国は存否の回答すら拒んだ。裁判所に促され昨年6月、ようやく開示したが、12月に請求を全面的に受け入れる「認諾」の手続きによって、一方的に裁判を終わらせた。

雅子さん側は佐川氏の証人尋問も求めたが、裁判所は認めなかった。佐川氏は18年3月に国会の証人喚問で証言拒否を繰り返し、その後は公の場に姿を見せていない。財務官僚らの公文書改ざんという民主主義の根幹を揺るがす不祥事にもかかわらず、政府は調査を身内に任せ、佐川氏の動機や指示内容など肝心のことは依然やぶの中だ。雅子さんは9月、情報開示請求に絡む虚偽有印公文書作成などの疑いで佐川氏を告発した。真相究明は終わらない。安倍政権から菅政権、岸田政権と引き継がれた「負の遺産」と決別できるかどうかが問われている。政府は雅子さんの訴えに正面から向き合うべきだ。

地裁判決は、佐川氏が改ざんの方向性を決定付けたと認定。一方で「公務員個人が職務で他人に損害を加えたときは、国が賠償責任を負う」とする国家賠償法に基づき、公務員個人は賠償責任を負わないと判断した。さらに佐川氏が遺族に謝罪や説明をする法的義務はないとも述べた。

森友学園への国有地売却では8億円余りの値引きを巡り、安倍晋三元首相の妻昭恵氏と学園側の親交が問題になり、安倍氏は17年2月に「私や妻が関わっていれば、総理も議員も辞める」と答弁。18年6月の財務省調査報告書は、これをきっかけに理財局長だった佐川氏が改ざんの方向性を決定付けたとしている。理財局は近畿財務局に昭恵氏に関する記述を削除するなどの改ざんや学園との交渉記録の廃棄を指示。赤木さんは18年3月、自ら命を絶った。

赤木ファイルには、理財局から改ざん指示のメールが次々と来る中、赤木さんが改ざんに抵抗したり、理財局に抗議のメールを出したりしていたことが記されていた。ただ改ざんを主導した佐川氏が具体的にどんな内容の指示を出したのか、それがどのような経路で近畿財務局に下りていったのか、政権中枢とやりとりはあったのか-などははっきりしない。

そもそも雅子さんが提訴したのは、賠償金を得るためではない。佐川氏本人に改ざんの経緯を直接ただし、夫の自殺を巡り真相に迫るためだ。岸田文雄首相にも手紙を書き、再調査を訴えた。

岸田首相は「しっかり受け止めさせていただきたい」と語った。ところが、2カ月余りして国は突然、認諾の手続きを取った。「森友問題と真摯(しんし)に向き合っていく」とも述べたが、具体的行動は何一つ見えてこない。このまま雅子さんの訴えを黙殺し、前代未聞の不祥事から目をそらし続けるなら、政治の信頼回復は遠のくばかりだ。