2019年11月22日(金)

【論説】パワハラ指針 実効性確保へ見直しを

職場でのパワーハラスメント防止に向けて、労使の代表や有識者らから成る厚生労働相の諮問機関・労働政策審議会の分科会で、パワハラに該当する例としない例、企業に求める対策など示した指針がまとまった。意見公募を経て年内にも正式決定され、大企業は来年6月、中小企業は2022年4月からパワハラ防止が義務付けられる。

セクシュアルハラスメント対策は07年、妊娠・出産に絡むマタニティーハラスメント対策は17年から企業に義務付けられているが、パワハラへの対応は大幅に遅れた。業務上の指導との線引きが難しく、どのような言動がパワハラに当たるか-がなかなか定まらなかったという背景がある。

今年5月に改正労働施策総合推進法が成立。ようやくパワハラ規制が動きだした。しかし労働者側が求めた罰則を伴う禁止規定はなく、実効性を疑問視する声が噴出。指針案を巡っても、必要以上の長時間の叱責(しっせき)ではなく、強い注意ならパワハラには当たらないとする例示などに「企業の抜け道になる」と労働者側の不安と反発は根強い。

上司から暴言を吐かれたり、暴力を受けたりするパワハラ被害は後を絶たず、自殺に追い込まれる人も少なくない。改正法と指針は不十分と言わざるを得ない。規制の実効性を確保し、パワハラをなくしていくためには被害者に寄り添い、見直しを重ねる必要がある。

今月上旬に、トヨタ自動車本社で2年前に自殺した当時28歳の男性社員が労災認定された。上司から日常的に「ばか」「あほ」と叱責され、「死んだ方がいい」などと暴言も吐かれていた。労基署は「上司による業務指導の範囲を逸脱する言動があった」とする遺族側の主張をほぼ認めた。

パワハラで適応障害を発症したのが原因と判断した。厚労省によると、パワハラを含む「いじめ・嫌がらせ」について労働局に寄せられる相談は年々増加し、18年度は約8万2千件に上った。

指針の議論で焦点となったのは、パワハラに当たらない行為の例示だった。厚労省はパワハラを暴行・傷害の「身体的攻撃」▽脅迫・暴言の「精神的な攻撃」▽隔離・無視といった「人間関係からの切り離し」▽程度の低い仕事を命じる「過小な要求」-など6類型に分類。これに沿って、1カ月前にパワハラに該当する例、しない例を整理した素案を提示した。

例えば、過小な要求を巡り「経営上の理由により、一時的に能力に見合わない簡易な業務に就かせること」は該当しない例とした。しかし「経営上の理由」は企業が恣意(しい)的に拡大解釈できると労働者側が批判。今回の指針からは削除された。

またパワハラの判断について当初は「平均的な労働者の感じ方」を基準としたが、これに「相談者の受け止めなどの認識に配慮」することが追加された。とはいえ、こうした修正は一部に限られ、使用者側が押し切ったとの印象は拭えない。

6月には、職場での暴力とハラスメントを全面禁止する条約が国際労働機関(ILO)の総会で採択された。批准国は禁止を法律で義務付け、民事上の責任や刑事罰などの制裁を設けるよう求められる。政府は批准していないが、国際水準に一歩でも近づけるよう努力を怠ってはならない。

2019 年
 11 月 22 日 (金)

メニュー
投稿・読者参加
サービス