【いばらき春秋】

1987年2月、NTT株が売り出された。証券会社周辺に行列ができた。上空からの映像が印象に残る。遠目にも普段なら株取引と結び付きにくい人々に思えた

▼「財テク」がもてはやされた時代だ。日本企業が米ロックフェラーセンターの所有企業など海外資産を次々に買収し、ジャパンマネーが世界を席巻した

▼後からたどれば、底抜けの明るさを振りまく拝金主義が社会を覆い、危うい綱渡りをしていただけと気付く。学生だったあの頃、空前の好況が泡と消える幻想などと想像できるはずもない

▼就職したのは91年春。バブルははじけ、「失われた」と枕ことばが付く三十数年を過ごしてきた。不安定雇用の増大や格差の拡大、ブラック企業のばっこなど、暗い面がやけに目立つ

▼東京株式市場の日経平均株価は、89年の大納会で到達した終値の史上最高値3万8915円に近づく。だが、日常生活の中で今、景気の良さを実感する場面はない。物価高を嘆くばかりだ

▼五輪や万博などのイベントにためらいもなく巨費が注ぎ込まれる。一方で、教育費などの負担は重くのしかかり、暮らしの豊かさは遠のく。株価が復活しても、将来への不安は消えない。あしたへの希望は依然、見えないままだ。(崎)