【いばらき春秋】
鹿島が生んだ剣豪・塚原卜伝には剣の腕を見込まれた3人の養子がいた。卜伝はある時、家督を3人のうち誰に譲るのがふさわしいか、ひそかに試した
▼部屋のかもいの上に木枕を置き、ふすまを開けると木枕が落ちてくる仕掛けをして1人ずつ呼び出した。三男は部屋に入るなり、落ちてきた木枕を真っ二つにたたき切った
▼次男は木枕が落ちると刀の柄に手をかけはしたが、木枕と分かると落ち着いて部屋に入った。長男は部屋の前で仕掛けに気付き、木枕を取り除いてから入った
▼卜伝はこれを見て家督は長男に継がせると決めた。どんなに剣の腕が優れていようが、無敗を貫くには剣を使わなくても済むよう常に先読みして動くのが大事だと考えたらしい
▼国内の敵対勢力を長年にわたり武力弾圧してきた中東シリアのアサド政権が倒れた。ただ、〈力〉で民衆を抑え付け、これ見よがしに〈力〉で周辺を威圧する国はシリアに限らない
▼剣の腕は優れているに越したことはない。だが、強さだけでは生き残れない。〈力〉の限界を知る生涯無敗の卜伝は弟子たちに常々こう説いていたという。「剣は人をあやめる道具にあらず。人を生かす道なり」(活人剣)。かの国の指導者にも聞かせてやりたい。(敏)