【いばらき春秋】

帯文にある「傑作職場小説」とのフレーズに誘われ、今年上半期の芥川賞受賞作、高瀬隼子さんの小説「おいしいごはんが食べられますように」を手に取った

▼舞台も登場する会社員たちも、どこかしら既視感を覚える設定だ。さらりと読めるが、それぞれの人物に自らを置き換え、各場面でどういった態度を取るだとうと想像すると、気持ちがざわつく

▼本音を巧みに隠し、何事も流れに沿って生きるかのような主人公の振る舞いから、6年前に同賞を受けた村田沙耶香さんの小説「コンビニ人間」を思い浮かべる。もっと直接的に「普通」の意味を問う作品だからだ

▼ありのままで生きることに付きまとううっとうしさに戸惑いつつ、コンビニ店と一体化することで社会とつながる姿が描かれる。読後感はぐったりするほど重い。周囲に合わせて生きているだけではないかと、鋭く突き付けられるためだろう

▼自分らしさを貫いて生きられるほど、世間は寛容ではないかもしれない。同調圧力が強い社会で、無言の「空気」にあらがうには、孤立を恐れぬ覚悟と真っすぐな意志が要るに違いない

▼秋空の下、幸福のありかを考える。読書を通して人生に思いを巡らせるのも時に必要だと改めて感じる。(崎)