【いばらき春秋】

ちょうど今頃の季節だろうか。野口雨情に田園風景をめでる詩がある。〈麦の葉に吹く曙の 風は東に消えるとも 朝の香深き岡なれば 夢美(うつくし)く眠るらむ〉。初期の作品で、古里の磯原町(現北茨城市)に思いをはせた(「村の平和」)。田舎で見られる静かでのどかな春の一日を情感たっぷりに描いた。暖かい日、畑の緑が濃くなり、夢うつつの情景が浮かぶ

▼二十四節気の「穀雨」を迎えた。このころに降る雨が100種の穀物を育てるといわれる

▼県内ではきのう早場米の田植えが始まり、汗を流す姿が見られた。菜の花や桜が散り、転作で植えられた麦には小さな穂が付きだした

▼麦畑が増えたのは、ロシアのウクライナ侵攻のあおりがある。小麦の価格が一時上がり、国による食料の安全保障もあり、輸入に頼っていた小麦や大麦を植える生産者が増えた。田畑の景色が変わりつつある▼雨情が思いを寄せた平和はその後、戦争によって暗い時代に入っていく。1世紀を経た今、中東でも戦火が絶えない。当時と同じ状況にあることが何とも悲しい

▼〈空の上に、雲雀(ひばり)は唄を唄ってゐる 渦を巻いてゐる太陽の 光波(なみ)にまかれて唄っている〉。争いがやむことを願いつつ、目の前の平和の尊さを思う。(綿)