【その他】
1型糖尿病治療のハードル、”注射や補食”など周囲の病気への理解が鍵に 「1人じゃないんだと伝えたい」親子の想い
“インスリン治療”を欠かすことができない1型糖尿病の治療。インスリンが膵臓(すいぞう)で作られないことにより起こる病気で、一般的に糖尿病として認識されている2型糖尿病とは別の病気。子どもの患者が乗り越えなければならない治療のハードルは高く、自分一人で血糖値を測り、インスリン注射を打って体調管理をすること。病気に対して、学校の先生や友人といった周囲の人々の正しい理解を得られることが大切になる。娘が幼稚園・年少の時に1型糖尿病を発症したという高橋珠恵さん・夕夏さん親子に、治療における環境面の課題や周囲に求められる配慮を聞いた。
【漫画】父母と泣きながら別れて…1型糖尿病の治療に挑む、女の子の話
■『長い間、治療をさせてあげられなくてごめん』子どもへの罪悪感があった
娘さんが幼稚園年少だった時、やたらと水分を欲しがるようになった。咳や腹痛といった症状もあり、地元のクリニックを何軒か回ったところ、喘息、便秘、風邪…それぞれのクリニックでまったく異なる診断を受けた。下剤や風邪薬など処方された薬で様子を見たが、「力が入らない、身体がだるい」と幼稚園も休むように。症状はひどくなるばかりで、ほぼ寝た切りの状態。水分だけはよくこまめに取っていて、トイレにも頻繁に行っていた。そう当時を振り返る高橋さん。
大人でもすぐに飲み切るのが大変な500mlのペットボトルを1時間以内には飲み干している、トイレから帰ってくると必ず水分を欲しがる、用を足したあとを見ると尿が洗剤のように泡立っているーー。「これはおかしいと思って、もう一度かかりつけの病院に行きました。検査をしてもらい、即大きな病院に行ってくださいと紹介状を渡されたんです。そこで1型糖尿病だと診断を受けて…。なぜ今まで適切な治療を受けさせてあげられなかったのか。『長い間、治療をさせてあげられなくてごめん』と、子どもに対して罪悪感を抱きましたね」。
入院して糖尿病の治療を受け、インスリン注射を打つように。退院後は母の珠恵さんが娘さんに注射を打った。血糖値の測定は娘さんが自分でできるようになったので、「注射も自分でやってみる?」と声を掛けたことはあったというが、幼い子どもにとって人から注射を打たれることはかなりの高いハードル。自分で打つとなれば、なおさらだ。「刺す時、常に針先が見えているので怖い」。当時、幼稚園児だった娘さんからはそんな答えが返ってきたという。
■転機はサマーキャンプへの参加 同じ病気の「仲間に助けられている」
インスリン注射を娘さんが自分で打てるようになったのは、2019年の夏、小学3年生の時だった。きっかけは、毎年開催されていた1型糖尿病患者のための“サマーキャンプ”。どうしても、自分で注射を打てるようになりたいーー。参加には並々ならぬ想いがあったという。
「小学5年生になれば宿泊学習があり、6年生には修学旅行があります。なんとか5年生までに自分で注射を打てるようになってほしかった。2019年のサマーキャンプに初めて参加したのですが、娘がお世話になっている病院の先生が主催してくれているキャンプだったこともあり、たとえ低血糖になっても、先生方が見守ってくれる安心感がありました。様々なアクティビティで楽しみながら、できれば注射も覚えてくれたらありがたいな…と親としては願っていました」
2泊3日のキャンプから帰ってきた娘さんは、「注射打てるようになったよ!」と一言。娘さんに話を聞くと、なんとキャンプが始まってすぐのタイミングで早速注射を打つことができたのだとか。
「キャンプ最初の日、皆でおやつを食べる時に打てるようになりました。周りの友達が打っていたから。いろいろな注射の打ち方があるって知れて、このほうが自分にはやりやすそうだと私に合う方法を教えてもらえました。絶対打てるようになりたかったから、怖くはなかったです」(娘・夕夏さん)
以降、インスリンの量さえ大人が管理していれば、娘さんは自分で注射を打てるように。キャンプで出会った友達は「どんな話をしていても、一緒に笑っていられる存在。ちょっとした話でも、盛り上がれる」と同じ症状と闘う仲間の存在は大きいことを話してくれた。
しかし、毎年開催されていたサマーキャンプは、コロナ禍により昨年から開催ができていない。コロナが蔓延する状況はいつまで続くのか。キャンプは病気へのさらなる理解、患者・家族同士のコミュニケーション、メンタルケア…参加者にとって大きな意味を持っている。開催を待ち望んでいる患者・家族がたくさんいる現状に、母の珠恵さんは、「状況が状況なので、仕方ないねと子どもとは話をしています。でも落ち着いたら、速攻で開催してほしい。そのくらい待ち望んでいます」と胸の内を語る。
「サマーキャンプに娘を参加させたのは、絶対自分で注射を打てるようになろうと娘と約束をしていたのもあったけど、何より娘は一人ではなく、仲間がいるんだよということを分かってほしかったからです。1型糖尿病には、全国各地に患者・家族会があり、私自身その存在にかなり助けられたんです。医師の先生方がおっしゃることが一番正しいと理解していますが、何度も病院に電話するのは…と正直感じることもありました。そんな時、先輩方が私のちょっとした不安を解消してくれた。子どもに対しても、一人じゃないんだということを、教えてあげたかった」
■教育者の裁量に任される学校での治療、望むのは「子どもの気持ちを優先して考えてくれる環境」
1型糖尿病のサマーキャンプ、その存在価値をコロナ禍でどのように高めていくか。医療機器メーカーの日本メドトロニックは、キャンプの必要性を発信し続けている。開催がはばかられるなかでも、その意義を伝えるため、先月17日にオンラインのイベント「知ろう!学ぼう!糖尿病キャンプ~糖尿病キャンプ啓発イベント~」を認定特定NPO法人日本IDDMネットワークと共催。63名の参加者が集まり、親子参加型や日帰り型、7日間の長期型など多様なキャンプのかたちを紹介。キャンプ参加を初めて希望する患者・家族に向けて様々なメッセージが発信された。
病気自体の認知度は日本においてまだまだ低いのが現状だ。症状や治療への理解が追い付かず、子どもの患者を受け入れるすべての幼稚園、保育園、学校機関で十分な環境が整っているとは言い難い。インスリン注射をトイレで打つようにと言われたり、低血糖予防のための“補食”を“おやつを食べている”と勘違いされたり。調子が悪いのに、それを周囲に言い出せずにいることも。今回取材に応じてくれた母・珠恵さんも、学校を始めとする教育現場との連絡を密に取り、説明を重ねてきたという。
「担当してくださる学校の先生方の腕に任されている部分が大きいのが現状です。私たちが一番に望むのは、子どもの気持ちを優先して考えてくれる環境です。だからこそ、子どもには、自分の病気を包み隠さず、話せるようになってほしい。恥ずかしいことではないんだよということだけ、分かって成長してほしいなと思っています。このように私たち親子が発信することで、同じ病気を持つ親御さんや本人たちの心が、少しでも楽になればと願うばかりです」