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【青天を衝け】慶喜は終盤まで登場 草なぎ剛が表現する奥行きある演技の魅力
大河ドラマ『青天を衝け』(毎週日曜 後8:00 総合ほか)で、吉沢亮演じる主人公・渋沢栄一とともに、物語前半を大きく引っ張ってきた、草なぎ剛扮する徳川慶喜。江戸幕府は崩壊し、慶喜自身は歴史の表舞台から姿を消したが、制作統括の菓子浩氏は「物語終盤まで、渋沢と濃厚な関係が描かれていきます」と今後も物語のキーマンとして、作品に大きな影響を与えると証言。あわせて慶喜を演じる草なぎの俳優としての魅力に言及した。
【写真】第9回より…謹慎時は目の演技で圧倒した草なぎ剛
大政奉還の決断を下し、政権を朝廷に返上した徳川第15代将軍・徳川慶喜。その後、王政復古の大号令、戊辰戦争、江戸城無血開城と政局は動き、慶喜は歴史の表舞台から姿を消すことになる。
しかし、菓子氏は「いったん出番が少なくなりますが、物語終盤まで慶喜は登場します」と語ると「主従関係を大切にする渋沢は、パリから帰国後、まず慶喜の元に駆けつけ、わずか70万石の駿府藩に集まってきた失業した武士たちのために、尽力します。その後、渋沢は明治政府に仕官し、さらに実業家として活躍しますが、古希を迎えたときほとんどの会社を辞めてしまいます。そんななか、晩年まで慶喜の名誉を回復するために聞き取り調査をし、伝記を作ろうとするんです」と2人の関係性に触れる。
さらに菓子氏は「歴史家の先生に話を聞いて台本を作っていったのですが、どの方に聞いても慶喜について『なにを考えているか分からない』という意見が多かった。晩年、渋沢が慶喜への聞き取り調査をした史料を読んでも、肝心なところは濁して、最後まで真実を語らず、腹のなかで感情を押し殺していた人。それだけ慶喜という人物を捉えて演じるのは難しいことだと思います」と語る。
そんな難役を草なぎに託した。「主人公は渋沢栄一ですが、もともと慶喜と渋沢を軸にして、2人の少年時代から描いていこうというのは、脚本の大森美香さんのなかにもありました。では誰がいいのか…ということになったとき、ぜひ草なぎさんに演じてもらいたいと一致しました」。
前述したように、なにを考えているのか分からない人物をどう表現するのか――。現場に入ると監督も菓子氏も草なぎが作り出した慶喜に感嘆したという。「慶喜の表に出せないさまざまな苦悩や思いを、渋沢を見つめる表情だけで表現しているんです。非常に奥行きを感じます。誰にでもできる芝居ではありません」と断言すると「草なぎさんは、2、3秒黙っている表情だけでも、その奥にある気持ちや、抱えているものを視聴者に想像させる芝居をしてくださる。せりふがなくても、いろいろなものを語りかけてくれる俳優さんです」と絶賛する。
さらに菓子氏は、今後の慶喜について「歴史は勝者が作るもので、慶喜は明治30年まで静岡でひっそりと暮らしし、世間的には『逃げた将軍』『卑怯者』と言われても反抗せず、言わせっぱなしにします。一つの時代の終わりに下した決断の本当の理由を言わず、表向きは趣味に生きているように暮らすのは、とてもつらかっただろうと思います」と慮ると、そんな役に挑む草なぎに「慶喜という人物を演じようとしているのではなく、本当に慶喜そのものに見えるときがあります」と今後への期待をあおる。
菓子氏は「吉沢さん、草なぎさんはもちろんですが、そのほかのキャストも、本当に役柄を演じているというよりは、キャラクターそのものに見えることが多い。素晴らしい方々に集まっていただけたなと、しみじみ感じています」と俳優陣の奮闘に感謝を述べていた。(取材・文:磯部正和)