
【その他】
相次ぐたばこ増税も「何に使われているの?」 非喫煙者も“他人事”ではない、貴重な“財源”活用の在り方

10月1日からまた、たばこ税が増税されるのは周知のとおり。これに伴い、各社がたばこの値上げを発表。たばこ税増税は1998年に始まり、2018年からは毎年上昇。SNSなどでは「もっと取れ」「生ぬるい。一箱1,000円にしろ」という厳しい声のほか、「なぜたばこばかり搾り取られるのか」「なのに喫煙所は減る一方」と悲壮な嘆きも。「喫煙者に還元されないたばこ税は、何に使われているのか」との疑問も見られる。では実際、たばこ税とは一体何のために徴収されるのか。そして、何に活用されているのか。ジャーナリストの須田慎一郎氏に聞いた。
【グラフ】「たばこ税をどう思う?」意外…たばこを吸わない人の意見
■また増税…なぜたばこだけが? “税を取りやすい”ターゲットとなる理由
10月1日から、たとえばメビウスは540円から580円に値上げされる。一箱吸うと358円が税金として納められることになり、単純計算すると実に20本中12本がたばこ税ということになる。たばこにかけられる税金の内訳は、国たばこ税、地方たばこ税、たばこ特別税、消費税であり、税負担率は61.7%。酒類などに比べても、圧倒的に高い数字だ。
国税収に占める割合は1.6%で9,975億円。地方税収に占める割合は2.4%で9,892億円。とくに地方税収では、住民税、固定資産税、地方法人二税、地方消費税、自動車税、都市計画税に次ぐ割合となる。国と地方を合わせると、たばこ税による税収は年間2兆円を上回る。あまりに高額と批判のあった東京五輪・パラリンピック関連事業への国の支出(税金)は、1兆6,500億円(都の支出とは別。開催前時点)。これと比べてみても、年々減少する一方の喫煙者にいかほどの税金が課せられているかがわかるだろう。
このように、一商品が収める税金としては突出して高いたばこ税。ただでさえ高い税率であるのに、なぜさらに年々アップしていくのか。たばこ税に詳しいジャーナリスト・須田慎一郎氏は、「2つ理由がある」と述べる。「まず、日本のたばこの価格は先進国と比べて低い水準にあり、まだ上げる余地がある。またWHOをはじめ、世界的に喫煙に対して厳しい姿勢で臨もうとする機運がある。世界的なニーズであるという“エクスキューズ”となりやすいのです」
もう一つは、「東日本大震災などの災害、またコロナ禍の影響で、政府が景気対策をしなければならいから」だという。消費税や所得税などをアップすると大きな反発を招きやすいが、たばこ税を納める喫煙者は、日本の人口の2割程度。世界の潮流の後押しに加え、少数派であることにより、“税を取りやすい”対象となっている。
いくら少数派とはいえ、度重なる増税には喫煙者から反対の声が上がりそうなものだ。だが、個人的な愚痴やネット・SNS以外ではそのような声が表立つことはなく、大きな潮流にはなっていない。「たばこが、ある程度周囲への悪影響、健康懸念を与えているのは確か。喫煙者はそういった意味でも日々プレッシャーを感じており、権利を主張することができない、してはいけない空気があるんだと思います」と須田氏。つまり、“後ろめたさ”があるために、声を上げづらいということだろう。
では、政治の面ではどうだろうか。消費税にせよ所得税にせよ、他の税金が上がることに対しては、様々な政党が反対の声を上げる。結果、増税するにも多大な手間と時間がかかるものだ。一方、たばこ税だけは、これといった紛糾もないまま、スムーズに上がっていく。「どの政党もたばこ税アップに反対しないのは、反対しても喜ぶのは“2割の喫煙者だけ”だからです。その2割のために声を上げてもいいが、そうすると増税に関係ない残り8割はどんな反応を示すか。選挙におけるプラスマイナスを考えた時、喫煙者の味方をすることはマイナスになる、という判断でしょう」
もちろん、与党である自民党にも、たばこ税増税に反対する議員はいる。だが、「彼らが見ているのは、あくまでたばこ葉の生産者やたばこ業界。一市民である喫煙者の人権、声を代弁する議員はいない」というのが実情だ。つまり、政治の分野には喫煙者の味方はいない。たばこがターゲットとなるのは致し方ないことなのかもしれないが、課せられた十字架はあまりにも重い。
■たばこ税は何に使われているのか? “貴重な財源”の減少が非喫煙者にも影響
先述した通り、たばこ税収は年間2兆円に上る。これは一体、どのように使われているのだろうか。
国たばこ税、地方たばこ税は目的税ではなく一般財源となるため、消費税などと一緒くたになっており、使われ方は明らかにされていない。特に昨今は、コロナ禍や災害により財政が圧迫されているため、これらは「貴重な財源」と言える。
須田氏がとくに注目するのは、たばこ税のうちの“たばこ特別税”だ。「これは、旧国鉄の債務返済、国有林野事業の負債の穴埋めに使用されています。例えば旧国鉄の返済には、たばこ1本あたり約1円が使われている。ただ、この旧国鉄の“借金”は喫煙者だけが負担すべきものなのでしょうか。これは税の公平・公正性に疑問が生じるところ。不公平な税制では、税金を収める意欲が失われていきますよね。たばこ特別税は常に、その不公平さにさらされているのです」。
さらに近年、喫煙者の減少により、たばこの税収は、増税したとしても下がるフェーズにすでに入ってきたという。「もちろん、たばこ特別税の税収も減ります。でも国鉄などの借金は返さなければいけない。財源がないのに、どう返すのか。国税、地方税も減るわけですから、何らかの形で補わなければいけない。その負担が、今度は非喫煙者にのしかかってくるかもしれませんし、ほかの住民サービスが低下する恐れもあります」。
これまでは、大きな反対もなく得られていたたばこ税という「貴重な財源」。それが失われるとなると、非喫煙者にとっても決して他人事ではないだろう。仮にたばこ税がなくなり、代わりに消費税を上げることになった場合は約1%の増税となる。
一方で、たばこ税を喫煙者に還元する流れも必要なのではないかという声も上がり始めているという。例えば、たばこ税を活用して分煙環境を整えることは、非喫煙者を受動喫煙などから守ることにも役に立つ。「法改正によって喫煙所が減り、さらにこのコロナ禍で多くが封鎖されました。でも、減ったことで逆に“密”を作り、そこから吐き出される煙やにおいも強くなる。コロナ禍によってそれが可視化され、非喫煙者の理解も広まったように思います。また同時に、あまりに吸う場所がなく、右往左往している喫煙者たちに対して、“かわいそう”という感情も生まれているんじゃないでしょうか」
実際、自治体も動き始めている。東京都足立区竹ノ塚駅前の区有地には、自治体の税金で喫煙所を整備。大阪府は市町村や民間企業等と連携し、令和元年度から5年間で20~30ヵ所の屋外喫煙所整備を目指している。政府・与党もこうした自治体による喫煙所の整備を後押ししており、令和3年度税制改正大綱には「地方たばこ税の活用を含め、地方公共団体が駅前・商店街などの公共の場所における屋外分煙施設等のより一層の整備を図るように促すこととする」と記載。厚生労働省でも、「受動喫煙防止対策助成金」制度を実施している。
このような取り組みは喫煙者のみならず、非喫煙者からもある程度の賛同を得ている。『たばこ税に関する調査2021』(ネットエイジア社 20歳~69歳の男女1,000名/喫煙者500名、非喫煙者500名に調査)によると、「屋外喫煙所の整備のためにたばこ税を活用することはよいことだと思う」と答えた非喫煙者が79%。また、「たばこ税は社会に貢献していると思う」と答えた非喫煙者も75%となった。
非常に大きな財源であるたばこ税。「吸いたい人が払うのは当然」と一蹴するのは簡単だ。だが、たばこの税収が下がれば、非喫煙者にもデメリットが生まれかねない。貴重な財源の正しい活用については、喫煙者・非喫煙者の垣根を越えた活発な議論が必要であり、また正しい情報開示も求められてくるだろう。
(文:衣輪晋一)