【映画】
「“三谷幸喜監督”の話をしよう」三谷幸喜監督+西島秀俊+松坂桃李+遠藤憲一+小林隆+坂東彌十郎

映画『スオミの話をしよう』(公開中)(左から)小林隆、遠藤憲一、西島秀俊、三谷幸喜、松坂桃李、坂東彌十郎(撮影:松尾夏樹) (C)ORICON NewS inc.


映画『スオミの話をしよう』公開記念座談会(2)



 脚本家・演出家・映画監督として、これまでたくさんの笑いと感動を届けてきた三谷幸喜が脚本・監督を務める映画『スオミの話をしよう』が公開された。三谷監督が「一度原点に戻って、舞台のような映画を作りたかった」という本作は、長澤まさみ演じる主人公スオミが、突然行方不明になったことに端を発する、ミステリー・コメディ。



【画像】二つ結びヘアやチャイナドレス姿…スオミの場面写真



 スオミの夫の豪奢な邸宅で繰り広げられるのは、彼女の過去を知る男たちによる「自分がもっともスオミのことを愛している、誰よりも理解している」というマウントの取り合い!?スオミは5回結婚しており、1番目の夫を遠藤憲一、2番目の夫を松坂桃李、3番目の夫を小林隆、4番目の夫を西島秀俊、5番目の夫を坂東彌十郎が演じた。



 三谷映画の大きな特徴のひとつが「1シーン1カットの長回し」。「できるものならすべてのシーンを1カットでやりたいぐらい長回しが好き」という三谷監督の演出を実現させるために、今回、映画では珍しくクランクインの約1ヶ月前からリハーサルを敢行。撮影中にも新たな演出がどんどん加わっていったという。ユニークな三谷演出がさく裂した現場を西島、松坂、遠藤、小林、彌十郎、そして三谷監督に振り返ってもらった。



――スオミの4番目の夫で、かなり神経質な警察官・草野圭吾を演じた西島さんは、三谷組初参加。



【西島】映画の撮影では、テストを重ねて、演技が固まったところで本番を撮ることが多いと思います。しかし、三谷監督の場合は、リハーサルでやったことをベースにしながらも「次はこうしてみて」と新しいアイデアが次々に出てくるんです。



 それを、例えば小林さんにだけこっそり伝えるので、次のテイクで急に小林さんがビールを飲み出していて驚くことになったり。皆さんが新しい演技を突然見せてくるので、僕は何度も吹き出してしまい、正直、とても大変でした。でも、その新鮮な驚きが笑いにつながっていくのかな、と感じました。テイクを何度重ねても、同じことを繰り返すことがない。そういう現場は、これまで経験したことがなかったです。



【三谷監督】西島さんが、あんなにゲラ(※笑い上戸)だとは思いませんでした(笑)。



【西島】本当に笑いをこらえるのに苦労しました。こらえきれなかったことも多くて、反省しています(笑)。



――スオミの2番目の夫で、怪しげなYouTuberの十勝左衛門を演じた松坂さんも三谷組初参加でしたね。



【松坂】初めて参加した三谷組は、どんな演出が飛んでくるのか、共演した皆さんとどんな掛け合いになるのか、毎日ワクワクしていました。オリジナルでこれだけ面白いものが生み出せる三谷さんは本当にすごい。撮影中、三谷さんが「男が2人、水にずっと浮いている話(シチュエーション)も面白いかもね」って、ボソッと言われたことがあったんですが…。



【三谷】記憶にないなぁ…。



【松坂】三谷さんにとって物語を作るアイデアはそこら中に転がっているんだろうな、と思いました。



――1番目の夫で、血の気の多い庭師・魚山大吉を演じた遠藤さんは、三谷監督の映画は『ギャラクシー街道』(15年)以来、2作目。



【遠藤】台本を読んでゲラゲラ笑っちゃって。なかなか台本の段階で笑い転げる本ってそんなにあるものじゃないから、改めてすごい才能だと思いました。それで撮影が始まったら、バンバン台本を変えていくし、さらに新しいアイデアを生み出していって、それがまた面白くて。



 三谷監督は「もう少し、こんな感じで、こうしてください」といろいろ例えながら演出をしてくださるんですけど、それを聞いているだけでもおかしくて。それに応えなければならない俳優陣もまた大変なんですが、皆さんも面白く打ち返すから、本当に現場は楽しかったです。



――スオミの3番目の夫で、情に厚い警察官・宇賀神守を演じた小林さんは、三谷さんが主宰していた劇団「東京サンシャインボーイズ」からの長い付き合いになりますね。



【小林】三谷さんは群像劇の大家と言っていいんじゃないでしょうか。劇団の頃から一緒にやってきましたが、毎回、台本を開くのが楽しみで。今回はどんな話だろう?そう来たか!となりますね。今回はいまだかつてない大役をいただいたことと、周りのメンバーのすごさに驚きました。



 それに今回、大邸宅に住んでいるのが詩人という設定も面白いですね。世の詩人に対するイメージを、ここまで覆すのか、と。この意表を突く設定が三谷幸喜の真骨頂なんじゃないか、と思います。



■理想的な映画づくりができた



――スオミの5番目の夫で、身勝手な芸術家・寒川しずお役の彌十郎さんは、三谷監督が脚本を手がけた大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(22年)での北条時政役が記憶に新しいところですが、本格的に映画に出演されるのも本作が初。いかがでしたか?



【彌十郎】三谷さんとは舞台「三谷かぶき『月光露針路日本~風雲児たち』(19年)でご一緒させていただきました。舞台の時のように今回、お稽古の時間がありましたが、本番で急に台本が変わったり、「これを増やしてみましょう」とおっしゃったりするので、安心していられないんですよ。監督の要求に柔軟に対処できなかったら悔しいじゃないですか。だからいつも頭を柔らかくしておかなきゃいけないし、それが楽しくもあったんですよね。



僕は今回の三谷組しか知らないので、「こんなに楽しいなら、映画にまた出たいな」「本当に楽しいですね、映画の撮影って」と西島さんに言ったら、「全部がそうだと思わないでください」と、言われました(笑)。



【西島】いやいや、全部、楽しいですよ(笑)。彌十郎さんは食べるシーンも多かったですよね。



【彌十郎】ハンバーガーも食べましたし、1日であんなにスイカを食べたこともない(笑)。スイカを食べながら歩き回り、台詞の合間にスイカの種を勢いよく飛ばしまくるんだけど、種じゃなくて実が出ちゃったりしてね(笑)。その後すぐに柿ピーをボリボリ食べたのですが、口の中にスイカの種が残っていて、どっちを食べているのかわからなかった。スイカの種も人生で一番食べたと思います。それも急にですよ、三谷さんが「スイカ食べましょう」とおっしゃって。



【三谷】映画のスタッフってすごいんですよ。すぐに何でも用意してくれます。リハーサルで僕が思いついて、本番にはスイカが用意されていました。今回、1ヶ月前から稽古をした弊害も実はあって、稽古をしすぎると今度は予定調和になってしまう。リアクションの新鮮味が薄れていくのを防ぐために、いきなり「スイカを食べてくれ」と言ったり、急に台詞を変えたりすることもあります。役者が戸惑うこともあるのですが、それも芝居にいい作用をもたらすこともあると思っています。



――三谷監督、今回の映画の手ごたえを聞かせてください。



【三谷】結局、演出家って、舞台にせよ映像にせよ一緒だと思うんですけども、どれだけボキャブラリーを持ってるか、ということに尽きる気がするんですよ。俳優さんもいろいろいらっしゃるから、その人にどういう言い方をすれば一番僕のやってほしいことが伝わるか。その人の面白いところを引き出すことができるか。その言葉選びが一番大事なような気がしています。



小林さんは昔から知っているから、すごくやりやすいというのもあるし、西島さんと松坂さんは今回初めてだったので、どういう言い方をすればいいのか、探っていくのが僕の仕事だったような気がしています。遠藤さんは2回目だったんですけど、まだちょっとわからない部分があって、ちょっと悩ませてしまったことがありましたね。



【遠藤】監督から「魚山はスオミのことを一番、愛していると思って演じてください」と言われていたんです。リハーサルでちょっと頑張りすぎちゃって、最後、声が枯れちゃって。そうしたら、監督から「イメージは高倉健さんなんだよね」と。翌日、健さんを意識して演じていたら、「健さんのことは忘れてください」って。振り回されました(笑)。



【三谷】僕の理想は、出演者全員とスムーズにコミュニケーションが取れる、共通言語が成立していて、僕が求めることを短時間で全員が把握してくれる、そんな現場です。小林さんや長澤まさみさん、瀬戸康史さん、宮澤エマさんは、僕の作品の空気感やテンポをしっかり理解してくれていました。初めての西島さんや松坂さん、戸塚純貴さんも、作業を進めるうちにまるで長年一緒に仕事をしてきたような感覚になりました。遠藤さんや彌十郎さんも、親しみを感じられる存在でした。皆さんと一緒に、まさに理想的な映画づくりができたと思っています。

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