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【エンタメ総合】
40周年の国生さゆり「自分のキャリアを傷つけた」経験が小説・マンガに昇華、「バレンタイン・キッス」秘話も
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今年でデビュー40周年を迎えた国生さゆり。人気アイドルグループ・おニャン子クラブからソロ歌手、俳優、バラエティ…と常に第一線で活躍してきた彼女が、小説を書いていることは大きな話題になった。今回、その作品が電子コミック化。芸能生活で「自分のキャリアを傷つけた」という国生が、作品に忍ばせた思いとは? この時期ではおなじみのデビュー曲「バレンタイン・キッス」への意外なエピソードなど、本音を明かした。
【漫画】国生さゆりの小説がwebtoonに!まさかのミリタリーアクション!?
■「最初は素人のようなアイドル」、自分を客観視する視点が生きた
芸能界の第一線で活躍してきた国生が、コロナ禍に投稿サイト「小説家になろう」で小説『国守の愛』を執筆し、話題になったのは2022年のこと。そして2025年1月、自身の小説がwebtoon『国守の愛~群青の人・イエーガー~』(LINEマンガほかにて先行配信)として電子コミック化した。意外なことに、ミリタリーアクションである本作。いまの国生さゆりだからこそ書くことができた小説、そして電子コミック化への思いとは?
――「人に見せるつもりではなく書いていた」という小説が、電子コミック化され、さらに多くの人に届いています。
【国生さゆり】趣味の域で書いていたものが、まさか人目に触れるとは…。こうなってくると、変な言い方ですが「ちゃんとやらなければ!」という思いでした(笑)。ただ、私は熱量が高い方なので、しっかりバランスをとっていかないと、楽しくクリエイトできなくなってしまう危惧もあったので、物事を俯瞰的に捉えようという意識もありました。
――コミック化にどのように関わっているのでしょうか?
【国生さゆり】基本的にはプロの方にお任せして、邪魔にならないようにしています。でも、いろいろ意見を聞いてくださるので、そのやり取りがすごく楽しくて。これまでは演者として前に出ることが多かったので、すが、みんなでワイワイしながら「どうやったら楽しくなるのか」を探すのが好きなんです。
――プロデューサー的に、物事を客観的に分析するのが好きなんですね。
【国生さゆり】40年も芸能の仕事をしてきたから、いろいろな視点を意識するやり方は培ってこれたのかな。最初は素人のようなアイドルから始まり、「どうしたらダメな部分を克服できるんだろう」という視点は常に持っていた気がします。
――芸能活動でさまざまな経験を積んできた今だからこそ、厚みのある物語を紡げ、コミック化に至ったのでは。
【国生さゆり】そうですね。小説を残しておきたいと思った理由は、自分が若い時に見なくてもいいこと、しなくてもいいこと、わからなくてもいいことに目を向けたことで、「自分のキャリアを傷つけてしまった」という自覚があり、そのことへの贖罪だったんです。経験したことをマイナスに捉えるのではなく生かすために…。その意味で、これまでの経験がなければ、小説にたどり着かなかったと思います。
――「キャリアを傷つけてしまった」とは、どういう意味ですか?
【国生さゆり】希望した仕事をいただけなかったり、番組で言わなくてもいいことを吐露してしまったり…。本当はきれいなところだけすくって、可愛らしく美しくしていればいいのに、自ら濁らせてしまったなと思うことがあって。自分でしたことですが、30代、40代が生きづらくなってしまいました。
――それを昇華させるために、執筆したのでしょうか?
【国生さゆり】本作は私小説ではなく、フィクションのミリタリーアクションなのですが、実は自分が言われて傷ついたこと、自分の中で腐っているところも忍ばせています(笑)。心の中にある汚濁を出すことで、精神的にも穏やかになれて、書くことがデトックスになる、みたいな(笑)。
――でも、そんな過去を正直に明るく話せるのは、素敵なことだと思います。
【国生さゆり】いま58歳なのですが、この年齢になったからこそ「自分のキャリアを傷つけた」とか「もっと違う生き方ができたのかも」と言ってもいいのかなと(笑)。実際、恋愛した人たちの名前もネットにあがってきますし何も包み隠さず正直にいたい。そんな年齢なんでしょうね(笑)。30代、40代ではこうした考え方にはなれなくて、「大女優になりたい」「一流になりたい」という気持ちが強かったですから。
――時代は昭和、平成、令和と変わってきましたが、いまの芸能界やアイドルはどう見ていますか?
【国生さゆり】私がアイドルの頃と大きく違うのが、SNSの普及じゃないですか。当時はプロデュースする側が見せたい部分だけを提示すればよかったけれど、いまは全方位にオープンになっているから、すごく大変だと思います。言葉や行動にしても、1個の間違いも許されない。理由も説明できないまま、1枚の写真、一言だけで判断されるのは怖いですね。
――いまの時代だったら、アイドルにはなりたくない?
【国生さゆり】いや、なります!(笑)。アイドルは楽しいし、応援していただけるし、ドラマにも出られて歌も歌える夢のあるお仕事。私も、いまだに当時のファンの方からメッセージをいただけたりするのは、本当に宝物です。ただ、アイドルという殻を脱ぐときはやっぱり大変なんですよね。
――というのは?
【国生さゆり】ずっとアイドルを続ける選択肢もありますが、どこかで変化しようと思うと、イメージを変えるのは大きなチャレンジですからね。
――国生さんはアイドルグループからソロへ、そして俳優、バラエティ出演、小説執筆と常に変化していますが、アイドルから変化するきっかけはあったのですか?
【国生さゆり】不得意だと思ったことがきっかけですね。おニャン子クラブにいるときは、グループ活動が苦手だったので、ソロになりたいと思った。ソロになってからは、歌が不得意だから俳優さんになりたいと思ったんです。その後、役が狭まってきたからバラエティ番組へ。常に不得手だったので、ほかのことにチャレンジしようと思ったんだと思います。
■「バレンタイン・キッス」は“ソロ曲”じゃなかった? コミック世界配信への野望も
――歌が苦手とは意外です。ソロデビュー曲「バレンタイン・キッス」は、いまも多くの人が知っているバレンタインを代表する曲ですし。
【国生さゆり】でも、そうなったのは私の力ではなくて。歴代のアイドルの方々が2月になると歌ってくださっているから、若い方の耳にも届いてくれたんですよ。もう、私だけの曲ではないという印象ですね。
――ちなみに、ソロデビュー曲としては、どう感じていましたか?
【国生さゆり】あの曲、実は「国生さゆりwith おニャン子クラブ」という名義なんですよ。だから正直、「なんでソロじゃなかったんだろう?」という気持ちでした。「1人じゃ売れないからだ、私はやっぱり期待されていないんだ」って(笑)、かなり傷ついたことを覚えています。いまでこそ、少しでも売れるように大人たちが考えてくれたと思えるのですが、当時はネガティブに捉えていました。
――それだけ真剣にアイドルに向き合っていたんですね。
【国生さゆり】結果を残して親に楽をさせてあげたいという気負いがあり、がむしゃらに自分を鼓舞していて。その結果「気が強い」と言われましたが、気丈に振舞っていただけなんですよ。昔もいまも1人で泣くし、そこは変わっていません。以前はそれが言えなかったけれど、いまは普通に言えるようになりました。
――そうした感受性が執筆という表現に生きているのかもしれませんね。
【国生さゆり】でも自分の頭の中にあるイメージを言葉にする作業は、本当に大変! 何度も何度も書き直して、大げさではなく泣きながら書いていました(笑)。
――小説とは違った表現になった、webtoonはいかがでしたか?
【国生さゆり】とてもダイナミックに展開できますよね。ミリタリーアクションなので、特に相性がいいのかなと思いました。電子コミックになったことで、アニメ化とか実写化とか可能性が広がることに、とても感謝しています。シビアな部分もあるとは思うので、多くの方に読んでいただいて結果を残したいですね。
――さらにその先に、新たな野望はありますか?
【国生さゆり】まずはこのコミックの世界配信が一つの目標です。また、実務としてのプロデューサーもやってみたいし、自分の小説を脚本家として携わり映像化したいという思いもあります。もちろん本線である芸能でも、引く手あまたになりたいです!
(写真:草刈雅之 文:磯部正