【経済・トレンド】
新生活応援は「執念にも似た感覚」…フレッシャーズスーツ「安心おまとめセット」税込2万9900円を守り続ける企業側の思い

洋服の青山から販売されている、「安心おまとめセット」 (C)oricon ME inc.


 卒入学式や入社式で用意する“フレッシャーズスーツ”。その商戦も、今週末にかけて大きな山場を迎えるという。紳士服チェーン店に行けば、スーツ単体だけでなくシューズやシャツ、バッグまで一度に揃えられる「安心おまとめセット」があり、何を買えばいいか分からない人がお得にまとめ買いできる“セット価格”で販売されてきた。業界最大手の洋服の青山を展開する青山商事では、たとえ物価高騰の波が押し寄せても“税込29,900円”の価格設定を変えず、スーツのセットを提供し続けている。新生活応援を命題として、執念にも似た企業努力を続ける裏には、どのような想いがあるのか? 同社販促部長の緑川暁生氏に話を聞いた。



【写真】スーツの裏地にプリントされる、28名のシャニマスメンバー&サインも



■”セット売り”イメージの懸念も、「このセット用に商品を作ることは一切していない」



 同社販促部長の緑川暁生氏は、同社に入社して30年以上になるが、その頃にはすでにフレッシャーズや就活生に向けたスーツのセットが展開されていたという。「安心おまとめセット」というネーミングで販売が始まったのは、2020年のフレッシャーズ商戦のときで、「初めてスーツに触れるのに一体いくらかかるのかがわからない、何を買えばいいかわからないといった親御様の不安を解消したいというのが一番にあります」と長い販売の歴史があることを強調。



「以前は「フレッシャーズ5点セット」とか「フレッシャーズ8点セット」という名前で打ち出していました。「安心おまとめセット」という表現にしたのは、ここ5年でのことです」



 メインターゲットとしては、ファーストスーツを購入する親子。今までスーツは1着も持っていなかったというユーザーが圧倒的に多いので、そういった人が選びやすい価格帯で、これだけのものがセットで全部揃いますという“分かりやすさ”を伝えているという。



「アイテムで言うと、正直なとろ独自性は特になく、どの企業さんも同じような形でやっているとは思います。あえて当社のこだわりをお客様にお伝えするとしたら、“選べる”というのは大きな特徴かなと思います。このセット用に商品を作ることは一切しておらず、もちろん価格の上限や基準は設けていますが、日頃から販売している商品から選ぶことができるからです。安い原価になるようにそれ用の商品をわざわざ作るようなことはせず、通常販売している商品をフレッシャーズと就活のお客様限定でセット販売させていただき、どのサイズでもどの色柄でも選んでいただけるというのが我々の一番の特徴であり、売りだと思います」



■”税込2万9900円”の裾値は変えない「とにかく安心いただきたいという気持ちを込めています」



 同セットの価格帯は、税込2万9900円~となっている。この価格はセット販売開始時から一度も上げることなく、据え置きで展開している。ここにも、裾値として3万円は超えない、こだわりがあるという。



「我々が入社する前からご好評をいただいているセットなので、そこに対する価格のこだわりはあります。もしかしたら上げてしまうと、裏切るというよりは、残念がってしまわれる方々もいらっしゃるのではないかなと…。一方で、スーツには適正価格があるのも事実です。あまり安すぎても品質は大丈夫かなと思われるでしょうし、かと言って5~6万円をいきなり購入するのはちょっと厳しい。もちろん選んでいただいたスーツによってはそのくらいの価格になる場合もありますが、それはきちんと接客させていただくなかでスーツの値段を説明して、それぞれの値段の差も納得していただいた上で購入いただくというのが我々のルールです。裾値の2万9900円という値段をしっかりと打ち出して、まずはご来店いただく。まずは青山を選択肢に入れていただくという作業がとても大事なことなのかなと感じます」



 価格を維持できるのは、同社の場合、スケールメリットが大きいという。「全国680店舗ありますが、言ってしまえば100店舗の規模で作るのと、700店舗の規模で作るのでは、圧倒的にコストが変わってくるわけです。業界最大手である我々の規模感というのは1つ大きいとは感じます」。



 さらに「我々の努力だけではない部分が、大前提にはあります」と緑川さん。



「たくさん購入いただけないと、なかなか続けられないですからね。消費税が上がったタイミングでも、税込2万9900円で、3万円を超えない。価格や品質の部分でも、青山に対しても、とにかく安心いただきたいという気持ちを込めています。そういった意味では、我々だけの努力というよりは、お客様に購入いただけているからこそ成立できているので、本当にお客様には感謝の気持ちでいっぱいです」



■「既製品であっても、必ずお客様に合うスーツを見つけられる」



 「安心おまとめセット」では、ベースとなるスーツで1万9900円のものを選ぶと、ほかにもシャツやネクタイなど様々なアイテムがついてきて、トータル2万9900円でひと揃えできる。それ以外にも2万9900円、3万9900円、4万9900円のスーツがあり、その値段に料金をプラスしてスーツの種類や品質を選べるようにしている。サイズも複数展開しており、ほとんどのユーザーの体型に合うものが既製品から選べるという。



「既製といっても、サイズはたくさんあります。一般的なお客様がイメージされるのは、S、M、L、LLだと思うのですが、それは4~5サイズですよね。でもスーツにすると、体型だけでYA体、A体、AB体、BE体、E体、K体の6型があり、さらに身長で、3、4、5、6、7、8号くらいまで展開。各体型に対して6種類くらいの号数があるんです。スーツの種類(スタイリッシュ、スタンダード)やブランドまで入れると、軽く100を超えるパターンに細分化されていきます。サイズだけではなく、このお客様の体型にはこのブランドだったらよりピッタリするという判断は我々の感覚でわかるので、既製品であっても、必ずお客様に合うスーツを見つけられると考えています。それでも、万が一それに当てはまらないサイズの場合は、オーダースーツで対応することもできます」



 ここまでサイズとパターンが存在することに、普段スーツを身に付けない人はなかなか気づけないかもしれない。「我々もあまりそういうところまで、伝えきれていない現状があります。例えば女性の場合だと、5号から20何号まで用意があります。店舗に行ってもサイズがないというのは、時間的な部分や気持ち的な部分で残念になってしまうポイントなので、もともとサイズ展開が豊富であるというのは、我々はどこかできちんと表現していかなきゃいけないと今すごく感じています。それでこそ、お客様も安心してご来店いただけると思っています」。



■セットアイテムに広がり「日常も含めた使い回しができるものがいいと選択できるようになった」



 フォーマルの仕事服を提供する場として、常に“相手に失礼がない装い”であることが求められるため、奇をてらったアイテムが登場している等、極端な変化はないが「お客様の趣味嗜好は変化している」と緑川さん。



 例えばワイシャツ。「僕らの若い頃は白やブルーしかなかったですが、今はデザイン性が富んできたり、ボタンの色だけ違ったり、ボタンホールの飾り糸の色だけ違ったり、デザイン的なところは大昔と比べればかなり変わって、選択肢が広がり、より自分の好みに合わせて選べる環境になっています」。



 また、セットでは靴を買う人が以前までは多かったが、「プラスでバッグがほしい」というユーザーが増えたのも近年の傾向。「それも、いわゆる就活用のバッグを買ってしまうというよりは、大学でも使えるビジネスリュックを購入される方も増えました。昔はスーツ=就活というイメージが強かったですし、先々を考えて無難な選択になっていた傾向もありましたが、今はその幅がちょっとずつ広がってきていて、日常も含めた使い回しができるものがいいと選択できるようになってきました。レディーススーツもパンツスタイルを選ぶ方が相当増えています。また、ヒールのないパンプスを選んでみたり、普段でも着られるソフトブラウスを選んだり。そういったところはトレンドや嗜好の部分での変化だと思います」。



 “選べる”対応にこだわる理由として、「安心おまとめセット」はあくまでスーツの入り口としてとらえているから」と話す緑川さん。



「末永いお付き合いにコミットしていただくための1つの大きな仕掛けというか、まずはスーツと、青山と、お付き合いいただけませんかという感じです。一般のお客様からすると、我々の生業であるスーツが本当に厳しくなっているのは事実なので。昔のようにスーツを日常的に着られる方がどんどん減ってきているのはもう目を背けられない事実です。だからこそ、こういったところでしっかりと最初のお付き合いの第一歩をさせていただいて、また何かあれば青山に行ってみようとなっていただきたいというのが一番の強い思いです。


関連記事


最近の記事

茨城の求人情報

全国・世界のニュース