【音楽】
Mrs. GREEN APPLE大森元貴「多くの人に見てもらえる機会が増えた」今だからこそ必要だった「天国」【インタビュー】

Mrs. GREEN APPLE・大森元貴


 Mrs. GREEN APPLEが新曲「天国」をリリースした。公開中の映画『#真相をお話しします』の主題歌として書き下ろされた同曲。バンドのフロントマン・大森元貴は菊池風磨(timelesz)とのダブル主演も務めている。



【写真】歌い踊るミセスの3人、ステージショット



 新曲は、これまでのMrs. GREEN APPLEのパブリックイメージとは打って変わった鬼気迫る張り詰めたテンションとダークなモチーフを持つ一曲だ。筆者は3月上旬に都内某所で催された先行試聴会でこの曲をいち早く聴くことができたのだが、それはタイトルもリリース日もタイアップも明かされず、何の前情報もないまま曲を聴いてその感想をSNSにポストするという異例の試みだった。



 果たしてこの曲はどのようにして生まれたのか。アニメ『薬屋のひとりごと』オープニングテーマの「クスシキ」もスマッシュヒットし、合計55万人動員予定の5大ドームツアー『DOME TOUR 2025 "BABEL no TOH"』の開催も発表。10周年を迎え、ますます勢いを増すバンドの今の状況を大森はどう捉えているのか?じっくりと話を聞いた。

(取材・文/柴那典)



■「めちゃくちゃ快感でした」演技で感じた面白さ



――まずは「天国」について聞かせてください。これは映画『#真相をお話しします』の主題歌ですが、オファーを受けてまずどんなことを考えましたか?



これは俳優としてのオファーが先だったんです。その後に映画チームと主題歌をどうしようかという話になって。ソロでの楽曲制作も提案していただいたんですけど、今のMrs. GREEN APPLEが持っているエネルギーを考えたら、より多くの人にこの映画を届けるためにはバンドが母体となって担当させていただく方がいいんじゃないかという話をして。撮影期間中にそういう話をしたので、ちょうど今なら役も入っているし、このタイミングで書いちゃおうと思って。途中に撮休期間があったので、そこで曲の大枠はほぼ作りました。後半は主題歌を聴きながら役を演じられたので、そのくらいの時系列だった気がします。



――そもそも俳優としてのオファーが来たときにはどう思いましたか?



最初はお断りしていました。ミセスもあるし、バンドがとても調子いい状態で他のことを始めるというのはファンに対しても、世間的にもあまりいい印象を抱かれないかなと思って。でも、実際に(映画のスタッフと)会ってすごく熱意と愛のある説明を受けて、「なるほど、だから鈴木って役は僕へのオファーなんだ」みたいに腑に落ちたんです。「だったらお力添えできることがあるのかもしれないです」という話をしました。



――映画を拝見してまず思ったのが、大森さんの演技力の高さでした。ミュージシャンが演技もやってみましたというレベルではなく、俳優として深く役に入り込んでいる印象でした。演技についてはどんなふうに向き合ったんでしょうか。



うれしい、ありがとうございます。表現をすることに対して普段からものすごく興味はあるので。言葉を扱うという意味では、大枠ではお芝居も歌と同じではあると思うんです。お芝居をするとか、何か違うお仕事を始めるということに関しては、個人的には好奇心しかなかったです。



──演技をやってみて得るものはありましたか?



もちろん。誰かになるって、自分がどういう人なのかを知るきっかけにもなるんで。それはすごく刺激的だったし、役者の方々と過ごす毎日もすごく刺激的でした。あと、誰が書いているのかということが大きな違いで。いつもは自分で書いた言葉を自分で伝えているんですけど、演技となると、脚本家、演出、監督、プロデューサーの方がいらっしゃる。ミセスでは自分が一つのピースとして動くのではなく主導する立場なので、演技の世界では一つのピースとして動くことがめちゃくちゃ快感でした。



──快感だった?



僕、歯医者とか美容院とか整体とか好きなんですよ。それに近いものを感じました。こういうふうにしたいって、誰かが言ってくれる。それは普段はないことなんで、めちゃくちゃ楽しかったです。



──演じるということは、鈴木というキャラクターとその価値観が自分の中に入ってくるわけですよね。それによって自分がどういう人なのかというのを知るきっかけになったということですが、これはどういうことなんでしょうか。



鈴木という役柄自体、脚本と映画チームからの説明をいただいた段階で、そもそもすごくシンパシーがあったキャラクターなんです。だから「やっぱり自分も憎んでる人がいるな」とか「それでも愛したい何かがあるな」とか「今までもそのことをずっと綴ってきたな」とか、振り返る機会になったんです。「こういうことを言ってきていたな」とか「同じ感情もあるな」とか、一人の人間として回帰した感じはありますね。



──主題歌を書くことにあたって、演じてから書くというのは初めてだったと思いますが、これはどうでしたか?



すごく難しかったですね。鈴木という役を演じていたからこそ書きやすかった、というわけではなかったです。主題歌にはいろんな役割があると思うんです。多くの人にリーチするきっかけになるべきだし、映画の追体験にもなるべきだし、かといって映画に寄り添いすぎて親和性があり過ぎると逆に化学反応がなくなってしまう。これまでも「この映画のためだけに」という考えでなく、常に共通項を探して、あくまで自分ごととして書くのを大事にしてきたので。でも、今回の映画に関しては、僕は当事者だし、自分の主観で映画の中に存在しているわけで。だから、主題歌を書く上では、役者として鈴木と向き合っていたこととは全然違う角度で考えました。



■メディア関係者に仕掛けた「天国」“暗闇”試聴会の狙い



──我々取材陣は3月上旬頃に行われた試聴会で、タイトルもタイアップの情報もなしに曲を聴くことができました。その前提条件で聴いた時には映画との関連性は全く考えず、ただただ死者に対しての思い、愛情の裏側にある憎しみを描いた曲だと感じました。まっさらな状況で聴くことができたので、よりその純度を高く感じたという印象でした。



バランスを整える処方箋もないままに曲をくらった感じですよね。僕としては映画のカラーでバランスをとったつもりなんですけれど、曲だけ聴いたら、きっと心配になるような曲なんだろうなと思います。「この人は病んでるのかな?」とか「ミセスはどうしちゃったんだろう?」みたいに思われてもおかしくない曲だとは思うので。だから試聴会という機会を楽しみにしていました。



──この試聴会もおそらく大森さん発案のものだと思うんですが、これはどういうところから思いついたんですか?



先入観と固定概念がなるべくまっさらな状態で、曲が持つ純度、ミセスというものの“進化”と“深化”と“真価”を問いたかったというのはありますね。メディアの方々の言語化とアンテナには感謝しているので、どんなレビューなんだろう、どういうふうに思ってもらえるんだろうとか、自分がやってることは正しいのかというのも含めてのプランだった気がします。



──僕はこの曲を聴いたしばらく後に映画の主題歌ということを知ったので、全く違う感想が出てきたんです。つまり、最初に「天国」という曲が持つある種のエグさを味わっている。その後に映画の主題歌だということを知った。先ほど大森さんがおっしゃったように、主題歌は映画の紹介の役割を担う曲でもある。そして『#真相をお話しします』は「前代未聞の暴露ゴシップ系エンターテインメント」というキャッチコピーの映画である。率直に言って、そのキャッチコピーと共に流れてしっくりくるタイプの曲ではないと思ったんですね。



その通りですね。



──でも、これは大森さんがあえてそうすることを選んだんだと思ったんです。もっと深いところにあるこの映画のテーマと呼応して生まれた感覚、世に問いたいことを描くという考えがあったのではないかと。そのあたりはどうでしょうか。



そうだと思います。誤解を恐れずに言うと、Mrs. GREEN APPLEの大森元貴が主演をやっているというのは、曲をずっと深く愛してくださっている方はすごく理解があると思うんですけど、やっぱり世間の人たちからすると「流行りの人が演技を始めたよね」ということになるのは重々承知なので。でも、映画としてより多くの人に届けたい。その間口の広さと同時に、それをなぜやったかという意味と意義を果たさなきゃいけない。せっかく主題歌を担当できるんだったら、じゃあ大いにそれを楽しませてもらおうと思ったんです。やっぱり、映画の主題歌ということは曲が持っている印象をものすごく左右するし。この映画って、ものすごいことを投げかけているんだけど、同時にポップコーンムービーみたいな側面も兼ね備えていて。その2つの両立が僕の主題歌としての課題だったんですよ。

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