
【音楽】
【ライブレポート】ZARD、有観客でのアコースティック・ライブで新たな魅力を放つ すべてが一体になる、またとない空気感

1991年にデビューし、「負けないで」「揺れる想い」などの大ヒットで“記憶”と“記録”の両面で90年代を代表するアーティストとなったZARD。その活動は16年間で惜しくも幕を閉じたが、オリコン“平成ランキング”アーティスト別セールスで8位にランクインしたZARDの歌声は、今なお多くの音楽ファンの心に響き、そして新しいファンを生み続けている。
【ライブ画像】坂井泉水の言葉と歌声が聴こえてくるZARDアコーステック・ライブ
ZARDのデビュー35年目となる2025~26年にかけて『ZARD 35周年YEAR』がスタート。今年2月には、一般投票で選ばれた35曲を収録したリクエスト・ベストアルバム『ZARD Best Request ~35th Anniversary~』がリリースされ、90年代に青春期を過ごした世代はもちろんのこと、当時を知らない、いわゆるZ世代にも坂井泉水の歌声が上質なポップスとして広がりを見せている。そんなZARDの名曲たちを生演奏で堪能できる貴重なツアー『ZARD Acoustic Live ~Especial moment~』が、この6月、大阪、横浜、東京のBillboard Liveで開催された。各会場とも2ステージ制/2Daysという全12公演の中から、ここでは横浜公演の初日、1stステージの様子をレポートしよう。
今回のライブは、ZARD初となる有観客でのアコースティック・ライブ。ZARDはこれまでに、2021年『ZARD Premium Acoustic Live at 高台寺』、そして2024年には『WEZARD Online Meeting 2024 “ZARD 33rd Anniversary Special!” 』と2度のアコースティック・ライブを実施。どちらも無観客での配信ライブであったが、それがファンの間で大きな反響を呼び、「生でライブを体感したい」という声に応える形で、今回、ツアーの開催が決定した。しかも、3年前の2022年に大阪・大阪国際会議場(グランキューブ大阪)と東京・東京ガーデンシアターで行われたホール・コンサート『ZARD ”What a beautiful memory ~軌跡~”』のようなバンド・スタイルでのライブとはひと味もふた味も異なるアコースティック・ライブということで、バンド編成、アレンジ、会場の雰囲気まで含めて、『ZARD 35周年YEAR』に相応しいスペシャルなライブとなった。
会場のBillboard Liveは、食事やドリンクとともにライブを楽しめる、言ってみれば贅沢な大人の空間。この日も開演前からほとんどの観客が既に席に着いており、飲食したり、同行者と談笑したりと、ライブが始まる前から、この大切な一日を楽しむ姿が見受けられた。当然ながら、その多くはZARDとともに人生を過ごしてきたであろう世代であったが、客席には若い世代のカップルや、親子連れと思われる観客も見受けられ、ZARDの歌が2025年の今もしっかりと受け継がれていることを感じさせる。そうした光景のバックで流れているBGMは、キース・ジャレットの名盤『ケルン・コンサート』。ファンの間では広く知られているが、坂井泉水さんの愛聴盤であり、これまでのライブでも開演前に会場で流されてきたピアノ曲。そうした演出も相まって、開演に向けて大いに気分が盛り上げられていった。
そして会場の照明が消えると、観客のテーブル席の合間を縫ってバンド・メンバーがステージへ。長年に渡り、ライブでZARDサウンドを支えてきたバンマス大賀好修(Gt)を先頭に、大田紳一郎(Gt, Cho)、車谷啓介(Dr)、麻井寛史(Bs)、大楠雄蔵(Pf,key)、北川加奈(Key, Cho)、大藪拓(Manipulator)という、ZARDと縁の深いミュージシャンたちがスタンバイ。ステージの中央、一輪の赤い薔薇が飾られた場所にステージドリンクも用意され、そして、スタンドマイクが立てられた。いよいよZARDライブの幕開けだ。
会場が静寂に包まれると、ステージ後方にオープニング・ムービーが映し出される。そのスクリーンを振り返り、在りし日のZARD/坂井泉水の姿に向かって、笑顔で、大きくうなずく大賀。すると、彼女のMCが会場に流れた。
「ZARDのライブへようこそ。今日は最後まで楽しんでいってください」
その言葉に続いてピアノのイントロで始まったのは「マイ フレンド」。1996年にリリースされた、ZARD17作目のシングル曲であり、当時、TVアニメ『SLAM DUNK』のエンディング・テーマ曲に起用され、自身3度目のミリオンセラーを記録した楽曲だ。スクリーンにはこの曲を歌う坂井泉水の姿が映し出され、彼女の映像と歌に同期して生演奏が奏でられる。それを観て、聴いていると、いつの間にか坂井泉水がステージのセンターで歌っているかのような感覚になるから不思議だ。
この日の演奏は、アコースティック・ライブと銘打つツアーだけあり、ピアノやアコースティック・ギターをフィーチャーした柔らかい響きと、心地よいテンポ感が印象的。そうは言えども、ドラムとベースは実にしっかりとした迫力あるグルーヴを生み出し、いわゆる弾き語り的なアコースティック感とはまったく異なる、生バンドの醍醐味もたっぷりと味わいながら、坂井泉水の歌声を堪能させてくれるライブであった。坂井泉水の歌、生バンドのサウンド、そして観客の手拍子。すべてが一体になる、またとない空気感が、そこに満ちあふれていた。
続いて、ピアノが刻む8分音符のリズムが小気味よい「揺れる想い」(1993年)、間奏でのベース・ソロが哀愁感をより際立たせたバラード曲「もう少し あと少し…」(同)が披露されると、横浜公演では、真っ赤な照明の中で原曲以上に歌詞が伝わってくるしなやかなアレンジで「Oh my love」(1994年)を演奏。もう1曲、横浜公演でのみ披露された「来年の夏も」(同)ではパーカッションのリズムをバックにアコースティック・ギターが爪弾かれると、まるでその場で坂井泉水が歌っているかのように、優しく、そして穏やかに彼女の歌声が観客ひとりひとりの心に届けられた。
その後に「Forever you」(1995年)が歌われると、坂井泉水が曲作りを行うスタジオの映像を挟んで、ライブは中盤へ。「運命のルーレット廻して」(1998年)、「きっと忘れない」(1993年)に続き、先述の最新ベストアルバムでリクエスト1位となった「心を開いて」(1996年)が歌われた頃には、観客もリラックスしながらZARDの世界に浸り、演奏に合わせて身体を揺らしたり、手拍子をする姿が見受けられた。そんな客席が明るく照らされて始まった「Today is another day」(1996年)で、手拍子はさらに大きなものとなり、ライブもクライマックスへ。ファンにはお馴染みの、モナコで撮影された同曲のミュージックビデオ(MV)が映し出されると、その真っ青な空に、まさに坂井泉水のピュアな歌声が無限に広がっていくかのようであった。
「最後の曲になりました」。そんな坂井泉水のMCとともに「Don’t you see!」(1997年)が始まる。数ある名曲の中でも人気の高い曲だけあって、会場全体の熱気も一気に高まり、サビのフレーズでは多くの観客が手を上げ、そして歌詞を口ずさむ。その一方で、スクリーンの中にいる、ニューヨーク・ロケによるMVでのモード系ファッションの坂井泉水に見入る観客も。こうして、観客ひとりひとりの中にあるZARD/坂井泉水の面影を、それぞれのスタイルで各人が大切に回想しているかのようであった。
本編の演奏が終わり、まだまだZARDの世界を満喫したい観客からは、当然のごとくアンコールの手拍子が湧き起こる。その気持ちは、きっと出演者も同じだったに違いない。ステージ上にいる7人のバンド・メンバーもまた、スクリーンに映るZARD/坂井泉水に向かって、笑顔で拍手を送っていた光景がとても印象的であった。
そこからアンコールに応え、メンバー紹介的に各プレイヤーをフィーチャーしたソロ・パフォーマンスに続いて、「Good-bye My Loneliness」(1991年)、「pray」(2004年)が歌われ、最後に、この会場にいる人はもちろん、日本中の多くの人々にとって、そしてJ-POPの歴史にとって大切な「負けないで」(1993年)でライブはフィナーレを迎えた。そして、曲のエンディング。
「今日はどうもありがとうございました。また会いましょう!」
バンドの演奏と観客の手拍子の中で、坂井泉水の言葉が聴こえてくると、スクリーンには「音楽の神様、どうもありがとう――坂井泉水」という手書きのメッセージが。だがそこに、不思議と悲しさはない。むしろ、こうしてZARDの歌は歌われ続け、世代を超えて世の中に残っていくという喜びの方が、強く感じられた瞬間だった。ZARDの歌は、今もしっかりと、確実に生き続けている。そう強く確信することができた。とても素敵で、心に響くライブは、この日一番の大きな拍手と歓声に包まれて、幕を閉じた。関連記事