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カラオケ曲、今も“耳コピ”で作るってホント? 意外な理由や職人の苦労…ミセスの曲が“大変”な理由も明かす

カラオケ曲、今も“耳コピ”で作るってホント?(画像提供:エクシング)


 老若男女誰もが楽しめる身近なエンタテインメント “カラオケ”。しかし、世の中でリリースされている楽曲の多くは、権利上、カラオケでそのまま音源を配信することができない。では、あの“オケ”はいったいどのように作られているのか。音楽もデジタル制作が当たり前のこの時代に、まさかの“耳コピ”で音源が制作されているという…。はたしてその真相とは? カラオケ音源制作方法を探った。



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■「頼りになるのは自分の“耳”だけ」一つずつ楽器の音を聞き取り、正確に再現



 “耳コピ”という言葉を知っているだろうか。「耳でコピーする」の略語で、文字通り、耳で聞いた音楽を、そのまま楽譜に書き起こしたり、楽器で演奏したりするなどして再現することだ。デジタル時代の今、楽曲のメロディーやコードを正確に聞き取る人間の能力が必要とされるなんともアナログな作業だが、今や世界的な娯楽文化にまで成長したカラオケの音源は、実は未だにこの“耳コピ”で制作されているという。曲数No.1(※)を誇る通信カラオケ「JOYSOUND」を展開するエクシングで30年以上にわたり音源制作に携わっている“耳コピ”のプロ・金子暢大さんは、その理由は3つあると言う。



 「まず1つ目は、権利上の問題で、レコード会社から音源をご提供いただくということが原則的にはできないため。2つ目は、全国にデータを配信する通信カラオケの仕組みによるものです。通信カラオケはまだまだLTEなど電話回線に近い回線を利用しているため大容量への対応がなかなか難しく、自社で音源をデータ化し配信しなくてはなりません。そして3つ目は、オリジナル曲はオートクチュールで、カラオケはプレタポルタであるためです」



 オートクチュールにプレタポルテ? 一見、音楽とは無縁な言葉だが、その意味を聞けば誰もが深く頷くはず。オートクチュールとはオーダーメイドで作られた一点ものの仕立服、プレタポルテとは既製服のこと。金子さんは続ける。



 「オリジナル曲はその曲を歌うアーティスト専用に作られたオケ=オートクチュールである一方で、カラオケは、誰もが歌いやすいよう配慮されたプレタポルテである必要があるんです」



 では具体的に、その音源はどのような過程と方法で制作されているのか。



 「まずはCDを買うことがスタートです。そのCDを聴きながら、1曲につき大体10個くらいの楽器が使われているのですが、ドラムやギター、ピアノなどの音を聞き分け、コンピューターに1楽器ずつ、音程と音の長さ、音の強さなどを数字で入力していきます」



 CDだけでなく、譜面や指示書などの制作資料もレコード会社やアーティストからは提供されないため、頼りになるのは自分の“耳”だけ。しかし、デジタル時代の今、コンピューターを使った作業であれば、CDを取り込み、一つひとつの楽器の音を抜き出せるのではないかと思いきや、金子さんは「それは無理です」とキッパリ。



 「社内でもそうすれば早いのではないかと言われることがあるのですが、フルーツジュースは一度ミキサーにかけてしまったら、その後、純粋なりんごとミカン等には分離できませんよね。音源も同じで、使われている素材を分離してその音だけを取り出すということはできないんです」



 同時にたくさん鳴っている音の中から一つずつ楽器の音を聞き取り、正確に再現する。まさに職人技といえるが、金子さんは、「音楽大学等で、年単位で技術を習得した人にとっては少しも難しいことではない」とサラリと言ってのける。



 「例えば、皆さん、数人がしゃべっている言葉を聴き分けて、すぐにパソコンに文字として入力できますよね。我々にとってはそれと同じ感覚です」



■毎月1000曲以上の新曲を配信、歌いやすさを設計する職人のテクニック



 とはいえ、カラオケの音源制作においては、“ならでは”のスキルも必要になり、エクシングでは社員が耳コピ職人になるべく日々奮闘しているという。



 「先ほどのオートクチュールとプレタポルテの違いになりますが、オリジナルとまったく同じ音源を作ると、常にいろいろな楽器の音が鳴っているため、一般の人には歌いにくいオケになってしまいます。ですからカラオケでは高音や低音、右左のバランスをとりながら、楽器を上手く配置して、歌っている人が声を載せられる場所を作ってあげる工夫が必要です。このスキルは経験を重ねなければ身につけられません」



 さらに誰もが歌いやすくなるよう、カラオケ音源には耳コピ職人のテクニックがほかにも盛り込まれている。たとえば“歌いだし”では、すんなりと歌に入れるよう「歌い出しのきっかけをあえて強調している」のだそう。歌っている側は気づかないような細部にも、様々な工夫が凝らされているのだ。



 そんな音源制作は1曲のオケを作るのに「早くて3日くらいかかる」と金子さん。エクシングでは毎月約1000曲以上の新曲を配信。社内のスタジオだけでは追いつかない部分もあるため、国内に複数の制作拠点を設け、さまざまなジャンルの音源制作にあたっているという。



 「好きなジャンルだけ担当できたら幸せですが、CDがリリースされてからなるべく早く配信するために、全員がオールジャンルを担当しています。カラオケはオリジナリティを出す仕事ではないので、どの曲も均一になるよう、視聴会や評価会を行い、頭や耳の感覚を皆で揃えるようにしています」



■時代とともに楽曲の構造が複雑化、ミセスの曲は「アレンジが深く耳コピは大変です(笑)」



 音楽は時代とともに移り変わっていくものだが、今の時代ならでは苦労を聞くと、「昔はわかりやすい曲が多かったけれど、ここ何年かは色々なテクニックを使った曲が増え、圧倒的に楽曲の構造が複雑化している」そう。様々な音を取り入れている分、「聞き分けるのに時間がかかり、こちらのリテラシーもあげていかなければならないと感じている」という。



 「オリコン上半期カラオケランキング2025」で1位となったMrs.GREEN APPLEの「ライラック」もその一例だという。



 「普通に聴いていればすごくポップでいいなと思いますが、コンピューターで打ち込むとなると、『どのような構造になっているのだろう?』と思うくらいアレンジが深く独特で、耳コピは大変です(笑)」



 そんななか、カラオケ機器側の進歩も音源作りに大きな変化をもたらしている。ガイドボーカルやハモリパートなどの再生が可能になったことで、ゴージャスかつ歌いやすいオケを提供できるように。また、同社では他社との差別化を目指し、2015年に独自で開発したシンセサイザーを使って、全サウンドを楽器で演奏したカラオケ専用生音源「X-Leben」を、2023年には日本フィルハーモニー交響楽団の奏者の演奏を音源化し、新たな生音源を追加した「X-LebenII」を開発。従来よりも原曲に近い演奏で楽しめるカラオケ世界を実現した。



 「弊社の耳コピ職人たちは音に関しては非常に強いこだわりを持っているので、カラオケを作るならシンセサイザーも自社で作るべきだという考えのもと、「X-Leben」の開発に至りました。最新のシンセサイザーは、生楽器音色のクオリティに加え、最新のポップスで使われている音源バリエーションや現代的なエフェクトも追加し、さらに歌いやすく、豊かな音源になっています。そこは自信を持って訴えたいですね」



■カラオケはあくまで裏方「歌う方がステージに立って気持ちよく歌えるための舞台装置の一つ



 世の中には毎月4000~5000曲の新しい曲が出るが、すべての曲をカラオケ音源にできるわけではない。では、どのように選曲しているのか。



 「発売される楽曲のなかから、歌いたいと希望される楽曲であったり、人気アーティストなど市場のトレンドから、選曲会議を開いた上で曲を決めています。弊社は、曲数No.1(※)を誇っていますので、スピード感を意識して制作しております」



 最近では、一人ひとりの”歌いたい”の声に耳を傾け、未配信曲を入曲することで歌いたい曲がすべて見つかるよう『全力入曲』という新しい取り組みも実施。カラオケに入れたい曲とその曲にまつわるエピソードを募集する「#推しリクエスト王」と、インタビュー調査によって本当に歌いたい曲を発掘する「リアルに聞いた!本当に歌いたい曲」の2つの企画によるプロジェクトとなっている。



 本プロジェクトに先駆け、同社はK-POPファンの聖地といえる東京・新大久保で「歌いたい曲」のアンケート調査を実施。すると回答のあった52曲のうち、JOYSOUNDの2024年の年間カラオケランキングでK-POPのトップ50にランクインしていた楽曲はわずか3曲という結果に。よく知られた人気曲とファンが思い入れを持つ“推し

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