【映画】
親子で語り合いたくなる――ディズニー&ピクサー『星つなぎのエリオ』

ディズニー&ピクサー『星つなぎのエリオ』(左から)メアリー・アリス・ドラム(プロデューサー)、ドミー・シー(監督)、マデリン・シャラフィアン(監督)


 孤独を感じている少年エリオが、遠く離れた宇宙で“本当の居場所”と“大切なつながり”を見つける物語――ディズニー&ピクサー映画『星つなぎのエリオ』が公開中だ。



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 オンライン取材に応じた監督のマデリン・シャラフィアンとドミー・シー、プロデューサーのメアリー・アリス・ドラムは、児童心理学者の助言を受けながら子どもの葛藤や罪悪感を丁寧に描き、大人の都合で作られた“子ども像”にしないことを心がけたと語る。本作は単に“観る”だけでなく、感情やテーマを自分のこととして味わえる“体験型”の映画だ。



 両親を亡くしたエリオは、叔母に連れられて訪れた航空宇宙博物館で、宇宙を旅する探査機ボイジャーと運命的に出会う。孤独に旅を続けるその姿に自分を重ね、「いつかこの広い世界のどこかで自分を理解してくれる“誰か”に出会えるはず」と信じるようになる。やがてその願いは叶い、さまざまな星の代表が集う夢の場所“コミュニバース”へ招かれることに。そこでエイリアンの少年グロードンと出会い、ふたりは心を通わせる。しかし、ふたりの絆を引き裂く脅威が迫っていた――。



■制作陣が込めた“居場所”への思い



 エリオとグロードンの交流を通して描かれるのは、ありのままの自分を受け入れてくれる存在の大切さだ。ドミー・シー監督はこう語る。



 「今は以前にも増して、誰もが“自分の居場所”を強く求めていると感じます。特にコロナ禍を経て、孤独を感じる子どもたちは多く、自分が“帰属できる場所”を探す気持ちはより強くなっています。エリオもまさに必死にそれを求めていて、彼の場合はその行き先が宇宙だったわけです。



 私自身も子ども時代は少し変わり者で、アートやアニメーションが大好きな子でした。早くアニメーションの専門学校に行って、同じ趣味や価値観を持つ仲間に会いたい――星を見上げて、そんなことを願っていました。その体験や思いを、エリオというキャラクターにも重ねたんです」



■ピクサーらしい想像力と挑戦



 本作は、『トイ・ストーリー』『リメンバー・ミー』『インサイド・ヘッド2』など、ユニークな“もしもの物語”を描いてきたピクサーならではの作品だ。マデリン・シャラフィアン監督はこう話す。



 「ピクサーは、大人になっても童心を持ち続ける人たちが集まる場所です。スタッフの多くが、子どもの頃にエリオのような孤独や『自分は周りと違う』という感覚を抱いていました。アートや創作が好きな子によくあるその感覚を、日常的に同じ経験を持つ仲間と語り合える環境が、今回の作品づくりに役立ちました」



■宇宙が舞台になった理由



 本作で描かれるカラフルな“コミュニバース”は、「宇宙に行ってみたい」という憧れや、「宇宙人はいるのだろうか」という人間の根源的なロマンを楽しく描き出す。SF好きの大人も、冒険物語が好きな子どもも楽しめる要素でいっぱいだ。プロデューサーのメアリー・アリス・ドラムは、宇宙を舞台に選んだ経緯をこう語る。



 「孤独を感じる少年が逃げ込む先として“宇宙”を選ぶのは自然な流れでした。制作の初期段階で、地球外生命の発見を目的とする非営利組織『SETI研究所』を率いるジル・ターター博士と話す機会を得ました。博士はNASAの無人惑星探査機計画に関わり、1977年に打ち上げられたボイジャー探査機に搭載された『ゴールデンレコード』の制作に携わった天文学者カール・セーガンと仕事をした経験を持っています。博士の話から、私たちは宇宙の広大さと、その中でどう“つながり”を描くかについて大きなインスピレーションを受けました」



 ドミー・シー監督は「私たちにとって宇宙は、物語を自由に描ける“真っ白なカンバス”」としたうえで、こう続けた。



 「宇宙は、人類が国境や立場を超えて協力することで探求が進む場所です。国際宇宙ステーション(ISS)での共同研究や、各国の天文台による観測など、その実現には世界中の人々の力が欠かせません。そんな“みんなで成し遂げる場所”である宇宙は、この物語にぴったりの舞台でした。そして何より、私たち3人は筋金入りのSF映画ファン。本作は、私たちのSF愛と宇宙へのラブレターでもあります」



■子どものリアルを描くために



 主人公のエリオは両親を失い、叔母のオルガから愛されていないと感じている。グロードンもまた、父から愛されていない、父の望むような息子になれないと感じている。「自分のままでは愛されない」「ここは自分の居場所ではない」――同じ痛みを抱えるふたりは、互いの気持ちを理解し合い、唯一無二の友達になっていく。マデリン監督はエリオ像についてこう明かす。



 「リアルな少年を描くため、子どもの感情を大人の目線で決めつけたくありませんでした。そこで児童心理学者に相談したところ、『孤独な子どもの多くは罪悪感を抱えている』と聞きました。もちろん、親を亡くしたことは本人の責任ではありませんが、自分のせいだと感じてしまうことが多いそうです。この視点が、グロードンとの友情や『そのままの君が好きだよ』というせりふにつながっています」



 子どもにも大人にも響く普遍的なテーマを持つ本作は、観終わったあと、きっと親子で語り合いたくなるだろう。

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