
【その他】
あの頃のワクワクを、もう一度…性別も世代も超えて再燃中、“シール交換”が教えてくれる社会性と相互理解

平成レトロの文脈でファッションやキャラクターなど数々のリバイバルブームが起きている今、平成女児(=1990年代後半~2000年代初頭に小学生だった世代の女性)の鉄板の遊びだった<シール交換>が再び大流行している。とはいえ、その様相は当時とは少々異なる。親子や夫婦、カップルでシール交換をしたり、その様子をSNSで共有したりと、さながら"令和版シール交換"ともいうべき発展ぶりだ。あらゆる遊びが高度にデジタル化している今、シール交換というアナログな遊びがなぜ性別や世代を超えて人々の心をつかんでいるのか。ファンシー文具メーカーの証言からブームの本質を探った。
【写真】令和の“レート激高”立体シール「これは欲しくなる」「かわいすぎ…」
■大人が夢中になってシールを求める令和時代「創業以来、初めての現象」
平成中期に女子小学生の間で大流行した<シール交換>。平成の懐かしの遊びが令和の今、再びブームを巻き起こしている。ファンシーショップや文具店のシール売り場は大盛況。リアル小学生はさることながら、目立つのが平成当時に小学生だったと思われる世代が夢中になって大人買いしている姿だ。
平成当時より人気のシールを数多く企画・販売してきたファンシー文具メーカー・株式会社カミオジャパンの石津綾子さん、株式会社クラックスの内田優子さんは「創業以来、初めての現象です」と口を揃える。
「シールは他の文具や雑貨と比べて安価ですし、柄や形状がバラエティに富んでいるため自分で集めるだけでなく、友だちと交換する楽しさもあります。こうした特性から弊社では創業以来、シール=子ども向け商品という位置付けで企画・展開してきましたので、現在のように大人の方々が夢中になってお買い求めくださっていることにとても驚いています」(石津さん)
特に人気なのがぷっくりしたシールや、カプセルの中に水とキラキラのスパンコールの入ったシール、四角いタイルのような樹脂製のシールなど、デザインや素材、触感の独特さから平成の交換現場では"レート高め"と評価されてきたシールたち。
また平成時代に全盛期だったキャラクターのシールも人気で、昨年12月に「平成ファンシーシリーズ」としてカミオジャパンが復刻した「ぷくぷくあわわちゃん」や「ラブ友」のシールに、SNSには「懐かしい!」「また会えるなんて~」など感激の声が溢れた。
「昨年夏頃よりアイドルやVTuber、インフルエンサーの方が、SNSで『こんな懐かしいものを見つけました』と弊社の商品を紹介する動画を目にするようになり、そこからジワジワと浸透。今年に入って一気にシール帳の披露やシール交換の様子の動画が増えた印象です。さらに最近は、かつてはシール交換プレイヤーではなかった男性も続々と参戦しており、ブームのさらなる加熱を感じています」(内田さん)
■ただの遊びではない? “シール交換”で学んだ感情・価値観・交渉術
そもそもシール交換とは何を楽しむ遊びなのか。1990年代後半~2000年代初頭に小学生だった"平成女児"には釈迦に説法かもしれないが、改めて当時のシール交換界隈を牽引してきた両社に聞いてみた。
「シール交換は友だちとの絆を深める大切なコミュニケーションの場でした。シール帳を見れば相手がわかるとも言われたほど、友だちの趣味嗜好を知ったり、自分のセンスをアピールしたり、そうした相互理解の手段としても機能していたのではないかと思います」(内田さん)
「何より"交換"という行為を通して空気を読んだり、駆け引きや交渉術、等価交換の概念といった社会性が養われていたことは見逃せません。単にシールをやり取りするだけの遊びだったら、あれほどまでに女子小学生たちの心を掴まなかったのではないでしょうか」(石津さん)
たしかに、立体的なシールが増えてシール帳が分厚くなっていく喜びや、お気に入りのシールを眺める満足感、ずっと狙っていたシールが交渉の末ようやく交換できた時の達成感、自分があげたはずのシールが他の人の元に渡っていたことを知った時のモヤモヤした気持ち、価値基準がズレているのかなんなのか、高レートのシールをちゃっかりせしめていく人に対する妙なイラ立ち……などなど、シール交換を通して味わった得も言われぬ複雑な感情は枚挙にいとまがない。
あの頃に培ったスキルが確実に自分の中に息づいていることを、大人になって実感している平成女児も多いだろう。そう、平成時代、シール交換はもっぱら女子の遊びだった。ところが昨今、SNSにはカップルや夫婦でシール交換に興じる動画が数多く上がっている。令和のシール交換界隈には男性プレイヤーが続々参入しているようなのだ。
「男性の場合、友だちや家族、恋人、お子さんなどから『シール交換をしたい』と誘われて始める方が多いようです。対面でシールをやり取りするのがシール交換の醍醐味ですが、大人になると交換に付き合ってくれる人もなかなかいないもの。そこで身近な男性を誘ってみたところ、その男性自身が『女の子たちはこんなに楽しい遊びをしていたのか!』とハマるケースもあるようですね」(内田さん)
男性の楽しみ方としては「プラモデルやフィギュアを収集する感覚に近い」という意見も。シール帳にシールをきれいに整列させて貼る“構図へのこだわり”など、見た目の美しさや完成度にこだわる過程そのものが楽しみにもなっている。
「弊社の男性社員にもハマっている者がおり、シール帳は現在3冊目だそうです。本人いわくシールを貼ったり剥がしたりするフィジカルな感覚や、自分ならではのこだわりでシール帳がどんどん埋まっていく感覚がたまらないそうです。まだシール帳を見せびらかすだけで、シール交換には参加していないようなので、近々巻き込みたいと考えています(笑)」(石津さん)
現代のようにスマホはもとより携帯ゲーム機もそれほど小学生の間に普及していなかった平成時代、子どもたちは次々とアナログな遊びを編み出していた。昭和世代であれば、鉛筆転がしや牛乳瓶のフタ集めなどが共感できるだろうか。
シール交換もまた、「どのシールがレートが高いか」「レートの高いシールは低いシール何枚分の価値があるか」など、自分たちの作り出したルールのもとで遊ぶこと自体も楽しさの一環になっていた。SNSではしばしば「このシール、レアだったよね」など、同世代同士が共通体験を語らい、盛り上がる様子が見られる。
「あの頃はSNSもなかったのに、なぜあれほど全国的にルールが周知されていったのか不思議ですね。一方で令和のシール交換はシール交換の様子を動画にしたり、シール帳をSNSで公開したりなど、デジタルとアナログの楽しみ方が融合しているイメージです。平成ならではのパキッとしたデザインや鮮やかなカラーは、SNSにもよく映えるなと見ていて思いますね。ただシール交換の本来の醍醐味は、対面によるやり取りなどアナログな側面も多いので、今後どのように進化するのか気になるところですが──」(石津さん)
■シンプルとファンシー、“文具使い分け”のトレンドで次世代へと継承
1つ期待できるのが、令和のシール交換ブームが単なる一過性のノスタルジーで終わることなく、次世代への継承のハブとして機能しそうな点だ。
「昨今のシール売り場では親子でお買い物する姿がとても目立ちます。本来、鉛筆やノートと違ってシールは実用品ではないですし、平成時代にはご家庭のお財布事情であまり買ってもらえない子もいました。ところが今はお母さんも自分のためにも買うし、お子さんにも積極的に買い与えている。平成女児が母親世代になった今、シール交換が親子のコミュニケーションにもなっているのが見て取れます」(内田さん)
それを裏付けるような興味深い事実として、現代の小学生を対象に好きなキャラクターについてアンケートを取ったところ、意外にも“平成キャラ”を挙げるお子さんが非常に多かったという。
「理由を聞くと『お母さんが持っていた』など、身近な大人の影響が大きいことがわかりました。かつては親子の趣味は完全に分かれていましたが、今は共通の話題になっているんですね。同じように今の子どもたちが大人になった時に再び手に取ってもらって、その子どもたちに伝えてくれる。そんな商品を作り続けられたらと思っています」(石津さん)
また平成レトロブームに関して、ファンシー文具メーカーの視点からはこのように語っている。
「今の小学校低学年は新入学の文房具なども、モノトーンやグレーなどシンプルなもので揃えている人も多く、柄に対して厳しい校則がある学校もあります。だからこそ、学校に持っていくものは無地でも、塾や家で使うときにはやっぱりかわいいものを使いたい。デザイン系のものはそういう時に使うみたいな“使い分け”をしている人も」(石津さん・内田さん)
シン