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“レンチン”カップ麺が日本を席巻? 成熟した国内カップ麺市場に“ニュースタンダード” を提示
お湯を注いで3~5分待つだけという手軽さで人気のカップ麺。そんな日本のカップ麺市場に、お湯を注いでから電子レンジで加熱するという新しい食べ方を推奨するカップ麺が登場。『もっちりノグリ』がそれだ。日本では、SNSで「『どん兵衛』を電子レンジで温めると麺がもちもちになる」と話題になったが、日本のカップ麺は容器が電子レンジ対応ではないため、「中身を耐熱容器に移す」のが絶対条件。なぜ、韓国では、電子レンジ対応可能なカップ麺が生まれたのか。その裏には“国民食”といわれるほどインスタントラーメンが親しまれている韓国ならではのこだわりがあった。
【写真】麺の色味も変わる…熱湯調理と電子レンジ調理の麺の違い
■韓国の“煮込む”文化がカップ麺にも影響、電子レンジ調理で袋麺と同じような仕上がりに
10月27日に発売となったカップ麺『もっちりノグリ 韓国風海鮮味 カップ(ピリ辛)』。日本でも今や広く浸透している『辛ラーメン』を生んだ農心の日本限定商品で、『辛ラーメン』より4年早い1982年に誕生した韓国の定番ラーメン『ノグリ』シリーズの最新作だ。
その特徴は、レンジ調理を推奨していること。実は韓国では、お湯を注いだカップ麺を電子レンジで加熱する食べ方が最近増えているという。農心ジャパンのマーケティングチーム三浦善隆さんは言う。
「韓国の全てのメーカーが電子レンジに対応したカップ麺を出しているわけではないのですが、農心では、韓国人のインスタントラーメンに対する需要に応えるべく、現在、カップ麺の新製品の8割は電子レンジ対応にしています」(三浦さん/以下同)
その需要というのが、韓国の食文化の特徴の「煮込む」ことだ。韓国料理ではチゲやクッパ、サムゲタンに代表されるように、スープでじっくり煮込む料理が主流。それゆえ、1人あたりの年間消費量で世界2位に君臨するほど国民食となっているインスタントラーメンも、市場の7割が袋麺で、鍋で煮込んで食べることが当たり前になっている。
そこで、農心ではカップ麺の容器を電子レンジ対応に変更。熱湯を注ぎ、電子レンジに入れて、再沸騰し続けることで、「鍋で煮込んでいるように麺がしっかり煮込まれて、袋麺と同じように仕上がる」ことが徐々に浸透し、今では、コンビニでも当たり前のように電子レンジ調理する人が増えているという。
■電子レンジ調理の“手間”に対して社内で疑問視の声も…辛さ、味、具材すべてを日本基準に調整
しかし、カップ麺といえば手軽に食べられるのが最大の魅力。お湯を沸かして熱湯を注ぎ、さらに電子レンジに入れて待つとなると、ワンクッション手間が増えることになり、敬遠されることになるのではないかと疑問が浮かぶ。実際、同社の日本人スタッフからは、効率に対するデメリットが指摘され「日本市場で電子レンジ調理はいらないのではないか」と疑問視する声も上がったという。
それでも、日本発売に踏み切った背景には、エンタメ性を楽しむ若年層のアンケート結果があったという。
日本発売においては、グループミーティングや食べ比べ調査などを重ね、日本人の好みに合うよう味を改良。『辛ラーメン』が世界中どこでも韓国と同じ味を味わえるように、100カ国以上で味を共通にしているのに対し、『もっちりノグリ』は、昆布の旨味を効かせたさっぱりとした海鮮スープに、幅広い人が食べやすいピリ辛と、日本限定の味を実現した。「日本人は具材に関心が高い」という調査結果から、たっぷりの昆布とワカメに加え、韓国版よりノグリのキャラクターかまぼこが多めに入っている。
『ノグリ』はうどんのようなもちもちした食感の麺が一番の特徴だが、電子レンジ調理では、マイクロ波によって麺の中に入った水分子が振動し温められることで、もっちりした仕上がりになる。この効果は細麺より太麺のほうが出やすいことが農心の研究所でも証明され、「太麺を特徴とするノグリが最も電子レンジ調理に合うと考えた」という。
「韓国のラーメンに興味はあるけれど、『辛ラーメン』は辛すぎるというお声も耳にしていました。『ノグリ』は海鮮ベースで辛さのレベルが辛ラーメンより低いので、より多くの日本人に楽しんでいただけるのではないかと思っています」
■あえてしない“辛さなし”の選択「韓国ならではの楽しみ方を提示できれば」
より幅広い日本人に訴求させたいと思うなら、「“辛さなし”という選択肢もあったのでは?」と思うが、「そこはやはり韓国らしさを残したかった」と三浦さん。
「辛くないカップ麺を求めるなら日本の商品を食べればいいじゃないかということになりますからね。日本のメーカー各社は非常に商品開発に力を入れ、毎週のように日本人の好みに合わせた新商品を発売されています。そのような市場になかなか弊社は太刀打ちできませんので、あくまで韓国のラーメンに興味があるという日本の皆さんに美味しく食べていただけるよう、辛さもギリギリのラインで調整しました」
その思いは、電子レンジ調理についても同じ。「電子レンジ調理で、日本のカップ麺市場をひっくり返してやろうというような大それた考えは微塵もありません」と三浦さんは笑いながら話す。
「韓国に興味を持ってくださっている方々をはじめ、日本の皆さんに『韓国ではこういう楽しみ方をしていますよ』とお伝えできればという思いです。今後も商品展開においては「『韓国の人ってこうやってインスタントラーメンを食べているんだ、面白いね』と思ってもらえるような味や設計を考えています」
(取材・文/河上いつ子)












