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がん予防の実現に向けて
アニコム損害保険株式会社
~「全ての病は腸から始まる」「歯周病は万病のもと」のメカニズムの一部解明に向けて~
アニコム ホールディングス株式会社(東京都新宿区、代表取締役 小森 伸昭、以下 当社)では、2024年7月23日付当社リリースのとおり、当社子会社であるアニコム損害保険株式会社(以下 アニコム損保)を主体として進めている『がんを含む全ての疾病予防に係る共同研究』(以下 本共同研究)について、がん予防を実現するための取り組みを開始しますのでお知らせいたします。
▶2024年7月23日付当社リリースはこちら
1.本共同研究の目的
(1)予防可能ながんの存在
がんの罹患数と死亡数は、人口の高齢化を主な要因として増え続けており、いまやヒトの主たる死因とされていますが、その発症メカニズムは完全には解明されてはいません。私たちの体内では、細胞分裂時の複製ミスや外的な要因による遺伝子変異等により毎日数百~数千個もの大量のがん細胞が発生していますが、免疫機構によってこれらのがん細胞を排除することで、がんの発症を抑止していると考えられています。しかしながら、老化による免疫低下等で、これらの抑止機能が機能しないことなどが、がん発症に繋がります。実際に、ヒトのがんの多くは高齢で発症します。老化そのものは、現代医学においても避けることは非常に困難なため、老化による免疫低下を主たる発症要因とするがんは「予防が難しいがん」に分類されると考えられます。一方で、老化による免疫低下が原因とは言い難い若齢で発症するがんは、細菌・ウイルス感染や紫外線暴露等の外的な要因により、がん細胞の発生が促進されている可能性があります。したがって、このようながんについては、これらの外的な要因の除去もしくは低減によって発症を予防し得る、「予防可能ながん」と分類することができるのではないでしょうか。
(2)がん予防の歴史
1950年代から1990年代初頭まで我が国のがんによる死因の第1位であった胃がんは、2005年にノーベル生理学・医学賞を受賞した「ピロリ菌が胃がんの原因である」との発見を通じて、胃がんによる死亡率や発症率を下げることに成功しており、ピロリ菌の除菌が若齢発症予防にも一定程度成功していると考えられます。また2000年代中頃までは死亡者数が増加傾向にあった肝臓がんにおいても、原因となる肝炎ウイルスに対する治療薬の開発等をきっかけに、死亡者数が大きく減少するとともに、若齢発症予防にも一定程度成功していると考えられます。つまりヒトにおいて、原因が特定され、かつその原因に対する対処法が確立されているがんは、「予防可能ながん」として予防されてきたといえます。
(3)犬・猫におけるがん予防の可能性
犬・猫においてはヒトと異なり、がんの予防が十分には進められてきていないと考えています。例えば口腔腫瘍の場合、ヒトの場合は口腔内組織の変化や口腔内の痛みやしこり・出血・声の変化・嚥下困難などの症状から早期発見・治療が可能ながんであり、他の部位に比べても罹患率が低いがんです。しかしながら当社グループの調査によると、犬・猫においては、ヒトと比べて、若齢から全ての年齢における罹患率が高いことが判明しています。また、血液のがんの一種であるリンパ腫においても同様の傾向が認められるとともに、なんと0歳から罹患することが判明しました。さらに、口腔腫瘍に罹患した群は、罹患していない群に比して死亡率が高いことも判明しています。また、後述のとおり、これらの腫瘍の一部については歯周病関連菌との関連があることも判明していることから、犬・猫において、口腔腫瘍やリンパ腫をはじめとするがんを予防可能とする余地が十分に残されていると考えています。
(4)がん予防をはじめとした健康寿命延伸に向けて
当社グループでは、ヒトの様々な疾患における理想的な自然発症モデル動物といえる犬・猫を通じ、見えなかった真の病因を見える化し、がんを含む多くの疾患発症メカニズムの一部解明による健康寿命の延伸を目指します。また、当社グループの理念である「涙を減らし、笑顔を生みだす予防型保険会社」を実現するために、ヒト医療と獣医療の連携を深め、これらの学術分野の先生方からのご指導をもとにした共同研究を開始いたします。
2.がん発症メカニズムの探求
(1)細菌感染によるがん発症の可能性
一般的ながん発症メカニズムは、遺伝子の「突然変異」が原因とされることが多いですが、胃がんにおけるピロリ菌感染のように、細菌感染ががんの発症の原因となる場合があることは広く知られています。例えば、ピロリ菌は胃粘膜の上皮細胞に付着し、当該上皮細胞内に上皮細胞自身のターンオーバーを阻害する物質を分泌し感染の維持を図ることで炎症を引き起こすなど、細胞外での細菌感染を引き起こします。一方で、細胞内感染を起こす細菌の中でも長期間の感染を果たし得る細菌は、臨床症状・臨床所見ともに乏しいことが想定されます。また、嫌気性・バイオフィルム形成能に長けた細菌の場合、通常の血液培養等では検出が困難であったため、研究が十分に進んでいなかったものと推測されます。 そこで、ピロリ菌と同様に口腔を経由して体内に取り込まれるとともに、細胞内に侵入する性質を有すると推測され、細胞内のオートファジーやホストの免疫を抑制する機能をもつと考えられる歯周病関連菌(※1)等に着目し、歯周病関連菌等とがんを含む多くの疾患の発症との関係性について、次世代シーケンサーを用いた調査を開始しました。
※1 犬・猫においては、口腔内の歯周病関連菌の研究が進んでいないため、歯周病罹患群から特徴的に見られる腸内細菌叢中の細菌群を歯周病関連菌と定義しています
(2)消化管内歯周病関連菌感染ががん発症を促進させる可能性
食事等を通じて体内に侵入した細菌は、口腔内で増殖した後、唾液とともに消化管に移行しますが、消化管内免疫の機能でバイオフィルムが分解されて多くが死滅するか、腸内細菌叢の競合的排他性により体外に排出されると考えられてきました。しかしながら犬の腸内細菌叢中における歯周病関連菌の有無を調べたところ、12%の犬の腸内から1種類以上の歯周病関連菌が見つかりました(※2)。仮に歯周病関連菌が腸内細菌にとっての善玉菌ならば、唾液とともに大量の歯周病関連菌が腸内で善玉菌として受け入れられ、高い確率で検出されると推測されることから、消化管内免疫が働いた結果、歯周病関連菌は悪玉菌と判断され、検出率も12%と低い割合に抑えられていることが考えられます。さらにこの検出率は、加齢に応じて上昇していることも判明しました。これは、加齢による免疫低下等により、消化管内感染が成立したことを示していると考えています。
また、腸内細菌叢中から歯周病関連菌が検出された場合の口腔腫瘍、血液および造血器の腫瘍の有病率を調査したところ、ほぼ全ての年齢においてこれらの腫瘍の有病率が高位となることが分かりました。すなわち、歯周病関連菌が消化管内に生着・増殖し、消化管内歯周病関連菌感染を引き起こしたことが、これらの腫瘍の発症要因の一つである可能性を示しており、歯周病関連菌が病原性を有する細菌である可能性があると考えています。これらの疫学統計学的アプローチから、本共同研究において、医聖と称される古代ギリシャの医師・ヒポクラテスが残した「全ての病は腸から始まる」というメカニズムの一部の解明が可能であると考えています。
※2 口腔内の歯周病関連菌は歯周ポケット奥深くに局在しており、単純な口腔内スワブでは適切な菌叢解析結果を得難いと考えます。したがって、歯周病関連菌が病原性を高めた病態に遷移していると考え得る「歯周病関連菌の消化管内感染」を近似的に示す「腸内細菌叢中の歯周病関連菌」をみることといたしました。
(3)特定病原性細菌(※3)の感染が疾患発症の原因となる可能性
「歯周病は万病のもと」という言葉は広く認知されていますが、歯周病に関連する菌がどのような経路を辿り、病原性を発揮することで疾患発症に至るかというメカニズムは完全には解明されてきませんでした。
この度、歯周病罹患群の犬の血中細菌を見たところ、その40%が持続性菌血症であることが否定できない状態であったことが判明しました。また上述のとおり、犬の腸内細菌叢中における歯周病関連菌の有無を調べたところ、12%の犬の腸内から1種類以上の歯周病関連菌が見つかりました。今回、腸内細菌叢中に歯周病関連菌が見つかったこと、また血中から検出された細菌叢の約70%が腸内由来の細菌であったことから、血管開存部位は消化管内である可能性が高く、腸内に入り込んだ歯周病関連菌等の特定病原性細菌が炎症を惹起し、血管透過性を向上させ消化管上皮血管細胞を障害すること等によってリーキーガット(腸のバリア機能が損なわれ、腸壁が通常よりも透過性が高くなる状態)が生じ、血中に腸内細菌等が入り込み、他の臓器を障害している可能性があると考えています。
また、これらの経路を辿る中で、歯周病関連菌等の特定病原性細菌が体内で増殖したとしても、発熱・発咳・嘔吐・下痢等の臨床症状や白血球数の上昇等の臨床所見がみられないなど免疫反応を抑制する作用を持つと考えられ、特定病原性細菌感染症が基礎病因であった場合、明確な臨床所見が得られずに、がん、敗血症・多臓器不全等をはじめとする様々な疾患に罹患し、死に至る可能性が高いと考えます。
※3 細菌分布について、当社では次のように推測しています。地球上には、細菌の約50%を占める『食物繊維(セルロース・リグニン等)を分解するいわば「ベジタリアン細菌」』と、約25%を占める『タンパク質・脂質を分解するいわば「肉食細菌」』が存在しています。大半の肉食細菌は死亡した生命のタンパク質・脂質を分解しておりますが、歯周病関連菌・結核菌・梅毒菌・ウェルシュ菌等のように、肉食細菌のうちごく少数の細菌は、ホストの免疫を掻い潜り、生きている生命のタンパク質・脂質を生きたままの状態で分解することが可能とされます。慢性化した歯周病のような状態ではIL-10等の抗炎症作用を持つサイトカインが優位になると免疫寛容に近い状態となり、歯周病菌が異物と認識できなくなる状況が起こり、さらには、がん細胞がホストの免疫から逃れることができる要因のひとつと考えられているPD-L1の発現を誘導している報告もある等、まさにこれらの細菌は、「恐ろしき肉食細菌」と呼ぶことができます。
(4)犬・猫における死因の真の病因の存在可能性
このたび、アニコム損保の保険金請求データから犬・猫の0~7歳までの死因を分析したところ、ヒトの場合であれば「飲酒・喫煙、不規則な生活習慣等」が一定期間継続することが原因とされる慢性腎臓病・慢性膵炎、あるいは直接的な死因にはなり難い椎間板ヘルニア等といった疾患が、死因の上位に位置することが明らかとなりました。これらの死因に着目すると、例えば、慢性腎臓病等は突如発症することは少ないため、若齢で発症するためには何らかの原因が存在している可能性があります。また、胃腸炎・椎間板ヘルニア・膀胱炎等は、適切に加療がなされた場合であっても、不幸にも死亡することはあり得ますが、死亡確率が高い致死的な疾患とはされていません。つまり、歯周病関連菌が口腔を経由して腸内への感染を成立させ、リーキーガット(腸のバリア機能が損なわれ、腸壁が通常よりも透過性が高くなる状態)を引き起こし血中移行することで各臓器に障害を及ぼし、更には血液脳関門を通り抜けたことで脳の疾患である、てんかんまでをも引き起こした可能性が否定できないと考えます。
(5)ヒトと犬との間での歯周病菌の交差感染(※4)可能性についての探求
一般的に感染症で最も留意すべきことの一つとして、種を超えた感染が挙げられます。交差感染の予防においては飼い主様の歯周病予防の重要性が示唆されることから、本共同研究において、ヒト歯科と獣医療の連携を深めることで、交差感染の可能性を探求してまいります。
※4 本リリースにおいては、ヒトと犬との間での種を超えて細菌感染が生じることを交差感染と呼ぶことといたします。
3.本共同研究に対する当社グループの想い
人間や犬・猫、そして細菌を含む地球上の全ての生命は、環境という名の無限の試練に対し、身体の大きさや寿命という有限の制約の中で、「ATGC」というたった4文字で書かれた遺伝子を武器にして、生命同士で連携しながら生き抜いています。つまり生命活動とは有限なものが無限なものに対して戦い続けることであり、無限に対して有限なものを無限に組み合わせ、多様なチームワークによって仲間とともに戦うことです。
言い換えれば、生命は常に他の生命、とりわけ細菌たちとの共存・共生があったおかげで、過酷な環境を耐えて生き抜き、進化してきました。すなわち、それぞれの生命が分業しあい、協力しあってきたからこそ、ここまでの多種多様な生命が地球上に繁栄することができたのです。それに対して私たち人間社会の歴史を振り返ってみると、人間はまるで地球の覇者のごとく振舞い、己と相容れない他者や異文化を排除するといった戦争を繰り返してきています。残念ながら、これは生命の根底とは真逆の行為だと言わざるを得ません。多様な生命との共存の重要性を改めて見つめ直すことこそが、争いを繰り返している私たち人間にとって今最も必要である…そうしたことを、目に見えない細菌たちが教えてくれているのではないでしょうか。
今回の共同研究を通じて、私たちの愛する犬・猫等の動物の健康はもちろんのこと、細菌を含む全ての生命との、また人間同士の共生の在り方までをも考え直し、一人でも多くの方と一歩でも明るい未来に向かうことを目指していきたいと考えております。
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アニコム ホールディングス株式会社(東京都新宿区、代表取締役 小森 伸昭、以下 当社)では、2024年7月23日付当社リリースのとおり、当社子会社であるアニコム損害保険株式会社(以下 アニコム損保)を主体として進めている『がんを含む全ての疾病予防に係る共同研究』(以下 本共同研究)について、がん予防を実現するための取り組みを開始しますのでお知らせいたします。
▶2024年7月23日付当社リリースはこちら
1.本共同研究の目的
(1)予防可能ながんの存在
がんの罹患数と死亡数は、人口の高齢化を主な要因として増え続けており、いまやヒトの主たる死因とされていますが、その発症メカニズムは完全には解明されてはいません。私たちの体内では、細胞分裂時の複製ミスや外的な要因による遺伝子変異等により毎日数百~数千個もの大量のがん細胞が発生していますが、免疫機構によってこれらのがん細胞を排除することで、がんの発症を抑止していると考えられています。しかしながら、老化による免疫低下等で、これらの抑止機能が機能しないことなどが、がん発症に繋がります。実際に、ヒトのがんの多くは高齢で発症します。老化そのものは、現代医学においても避けることは非常に困難なため、老化による免疫低下を主たる発症要因とするがんは「予防が難しいがん」に分類されると考えられます。一方で、老化による免疫低下が原因とは言い難い若齢で発症するがんは、細菌・ウイルス感染や紫外線暴露等の外的な要因により、がん細胞の発生が促進されている可能性があります。したがって、このようながんについては、これらの外的な要因の除去もしくは低減によって発症を予防し得る、「予防可能ながん」と分類することができるのではないでしょうか。
(2)がん予防の歴史
1950年代から1990年代初頭まで我が国のがんによる死因の第1位であった胃がんは、2005年にノーベル生理学・医学賞を受賞した「ピロリ菌が胃がんの原因である」との発見を通じて、胃がんによる死亡率や発症率を下げることに成功しており、ピロリ菌の除菌が若齢発症予防にも一定程度成功していると考えられます。また2000年代中頃までは死亡者数が増加傾向にあった肝臓がんにおいても、原因となる肝炎ウイルスに対する治療薬の開発等をきっかけに、死亡者数が大きく減少するとともに、若齢発症予防にも一定程度成功していると考えられます。つまりヒトにおいて、原因が特定され、かつその原因に対する対処法が確立されているがんは、「予防可能ながん」として予防されてきたといえます。
(3)犬・猫におけるがん予防の可能性
犬・猫においてはヒトと異なり、がんの予防が十分には進められてきていないと考えています。例えば口腔腫瘍の場合、ヒトの場合は口腔内組織の変化や口腔内の痛みやしこり・出血・声の変化・嚥下困難などの症状から早期発見・治療が可能ながんであり、他の部位に比べても罹患率が低いがんです。しかしながら当社グループの調査によると、犬・猫においては、ヒトと比べて、若齢から全ての年齢における罹患率が高いことが判明しています。また、血液のがんの一種であるリンパ腫においても同様の傾向が認められるとともに、なんと0歳から罹患することが判明しました。さらに、口腔腫瘍に罹患した群は、罹患していない群に比して死亡率が高いことも判明しています。また、後述のとおり、これらの腫瘍の一部については歯周病関連菌との関連があることも判明していることから、犬・猫において、口腔腫瘍やリンパ腫をはじめとするがんを予防可能とする余地が十分に残されていると考えています。
(4)がん予防をはじめとした健康寿命延伸に向けて
当社グループでは、ヒトの様々な疾患における理想的な自然発症モデル動物といえる犬・猫を通じ、見えなかった真の病因を見える化し、がんを含む多くの疾患発症メカニズムの一部解明による健康寿命の延伸を目指します。また、当社グループの理念である「涙を減らし、笑顔を生みだす予防型保険会社」を実現するために、ヒト医療と獣医療の連携を深め、これらの学術分野の先生方からのご指導をもとにした共同研究を開始いたします。
2.がん発症メカニズムの探求
(1)細菌感染によるがん発症の可能性
一般的ながん発症メカニズムは、遺伝子の「突然変異」が原因とされることが多いですが、胃がんにおけるピロリ菌感染のように、細菌感染ががんの発症の原因となる場合があることは広く知られています。例えば、ピロリ菌は胃粘膜の上皮細胞に付着し、当該上皮細胞内に上皮細胞自身のターンオーバーを阻害する物質を分泌し感染の維持を図ることで炎症を引き起こすなど、細胞外での細菌感染を引き起こします。一方で、細胞内感染を起こす細菌の中でも長期間の感染を果たし得る細菌は、臨床症状・臨床所見ともに乏しいことが想定されます。また、嫌気性・バイオフィルム形成能に長けた細菌の場合、通常の血液培養等では検出が困難であったため、研究が十分に進んでいなかったものと推測されます。 そこで、ピロリ菌と同様に口腔を経由して体内に取り込まれるとともに、細胞内に侵入する性質を有すると推測され、細胞内のオートファジーやホストの免疫を抑制する機能をもつと考えられる歯周病関連菌(※1)等に着目し、歯周病関連菌等とがんを含む多くの疾患の発症との関係性について、次世代シーケンサーを用いた調査を開始しました。
※1 犬・猫においては、口腔内の歯周病関連菌の研究が進んでいないため、歯周病罹患群から特徴的に見られる腸内細菌叢中の細菌群を歯周病関連菌と定義しています
(2)消化管内歯周病関連菌感染ががん発症を促進させる可能性
食事等を通じて体内に侵入した細菌は、口腔内で増殖した後、唾液とともに消化管に移行しますが、消化管内免疫の機能でバイオフィルムが分解されて多くが死滅するか、腸内細菌叢の競合的排他性により体外に排出されると考えられてきました。しかしながら犬の腸内細菌叢中における歯周病関連菌の有無を調べたところ、12%の犬の腸内から1種類以上の歯周病関連菌が見つかりました(※2)。仮に歯周病関連菌が腸内細菌にとっての善玉菌ならば、唾液とともに大量の歯周病関連菌が腸内で善玉菌として受け入れられ、高い確率で検出されると推測されることから、消化管内免疫が働いた結果、歯周病関連菌は悪玉菌と判断され、検出率も12%と低い割合に抑えられていることが考えられます。さらにこの検出率は、加齢に応じて上昇していることも判明しました。これは、加齢による免疫低下等により、消化管内感染が成立したことを示していると考えています。
また、腸内細菌叢中から歯周病関連菌が検出された場合の口腔腫瘍、血液および造血器の腫瘍の有病率を調査したところ、ほぼ全ての年齢においてこれらの腫瘍の有病率が高位となることが分かりました。すなわち、歯周病関連菌が消化管内に生着・増殖し、消化管内歯周病関連菌感染を引き起こしたことが、これらの腫瘍の発症要因の一つである可能性を示しており、歯周病関連菌が病原性を有する細菌である可能性があると考えています。これらの疫学統計学的アプローチから、本共同研究において、医聖と称される古代ギリシャの医師・ヒポクラテスが残した「全ての病は腸から始まる」というメカニズムの一部の解明が可能であると考えています。
※2 口腔内の歯周病関連菌は歯周ポケット奥深くに局在しており、単純な口腔内スワブでは適切な菌叢解析結果を得難いと考えます。したがって、歯周病関連菌が病原性を高めた病態に遷移していると考え得る「歯周病関連菌の消化管内感染」を近似的に示す「腸内細菌叢中の歯周病関連菌」をみることといたしました。
(3)特定病原性細菌(※3)の感染が疾患発症の原因となる可能性
「歯周病は万病のもと」という言葉は広く認知されていますが、歯周病に関連する菌がどのような経路を辿り、病原性を発揮することで疾患発症に至るかというメカニズムは完全には解明されてきませんでした。
この度、歯周病罹患群の犬の血中細菌を見たところ、その40%が持続性菌血症であることが否定できない状態であったことが判明しました。また上述のとおり、犬の腸内細菌叢中における歯周病関連菌の有無を調べたところ、12%の犬の腸内から1種類以上の歯周病関連菌が見つかりました。今回、腸内細菌叢中に歯周病関連菌が見つかったこと、また血中から検出された細菌叢の約70%が腸内由来の細菌であったことから、血管開存部位は消化管内である可能性が高く、腸内に入り込んだ歯周病関連菌等の特定病原性細菌が炎症を惹起し、血管透過性を向上させ消化管上皮血管細胞を障害すること等によってリーキーガット(腸のバリア機能が損なわれ、腸壁が通常よりも透過性が高くなる状態)が生じ、血中に腸内細菌等が入り込み、他の臓器を障害している可能性があると考えています。
また、これらの経路を辿る中で、歯周病関連菌等の特定病原性細菌が体内で増殖したとしても、発熱・発咳・嘔吐・下痢等の臨床症状や白血球数の上昇等の臨床所見がみられないなど免疫反応を抑制する作用を持つと考えられ、特定病原性細菌感染症が基礎病因であった場合、明確な臨床所見が得られずに、がん、敗血症・多臓器不全等をはじめとする様々な疾患に罹患し、死に至る可能性が高いと考えます。
※3 細菌分布について、当社では次のように推測しています。地球上には、細菌の約50%を占める『食物繊維(セルロース・リグニン等)を分解するいわば「ベジタリアン細菌」』と、約25%を占める『タンパク質・脂質を分解するいわば「肉食細菌」』が存在しています。大半の肉食細菌は死亡した生命のタンパク質・脂質を分解しておりますが、歯周病関連菌・結核菌・梅毒菌・ウェルシュ菌等のように、肉食細菌のうちごく少数の細菌は、ホストの免疫を掻い潜り、生きている生命のタンパク質・脂質を生きたままの状態で分解することが可能とされます。慢性化した歯周病のような状態ではIL-10等の抗炎症作用を持つサイトカインが優位になると免疫寛容に近い状態となり、歯周病菌が異物と認識できなくなる状況が起こり、さらには、がん細胞がホストの免疫から逃れることができる要因のひとつと考えられているPD-L1の発現を誘導している報告もある等、まさにこれらの細菌は、「恐ろしき肉食細菌」と呼ぶことができます。
(4)犬・猫における死因の真の病因の存在可能性
このたび、アニコム損保の保険金請求データから犬・猫の0~7歳までの死因を分析したところ、ヒトの場合であれば「飲酒・喫煙、不規則な生活習慣等」が一定期間継続することが原因とされる慢性腎臓病・慢性膵炎、あるいは直接的な死因にはなり難い椎間板ヘルニア等といった疾患が、死因の上位に位置することが明らかとなりました。これらの死因に着目すると、例えば、慢性腎臓病等は突如発症することは少ないため、若齢で発症するためには何らかの原因が存在している可能性があります。また、胃腸炎・椎間板ヘルニア・膀胱炎等は、適切に加療がなされた場合であっても、不幸にも死亡することはあり得ますが、死亡確率が高い致死的な疾患とはされていません。つまり、歯周病関連菌が口腔を経由して腸内への感染を成立させ、リーキーガット(腸のバリア機能が損なわれ、腸壁が通常よりも透過性が高くなる状態)を引き起こし血中移行することで各臓器に障害を及ぼし、更には血液脳関門を通り抜けたことで脳の疾患である、てんかんまでをも引き起こした可能性が否定できないと考えます。
(5)ヒトと犬との間での歯周病菌の交差感染(※4)可能性についての探求
一般的に感染症で最も留意すべきことの一つとして、種を超えた感染が挙げられます。交差感染の予防においては飼い主様の歯周病予防の重要性が示唆されることから、本共同研究において、ヒト歯科と獣医療の連携を深めることで、交差感染の可能性を探求してまいります。
※4 本リリースにおいては、ヒトと犬との間での種を超えて細菌感染が生じることを交差感染と呼ぶことといたします。
3.本共同研究に対する当社グループの想い
人間や犬・猫、そして細菌を含む地球上の全ての生命は、環境という名の無限の試練に対し、身体の大きさや寿命という有限の制約の中で、「ATGC」というたった4文字で書かれた遺伝子を武器にして、生命同士で連携しながら生き抜いています。つまり生命活動とは有限なものが無限なものに対して戦い続けることであり、無限に対して有限なものを無限に組み合わせ、多様なチームワークによって仲間とともに戦うことです。
言い換えれば、生命は常に他の生命、とりわけ細菌たちとの共存・共生があったおかげで、過酷な環境を耐えて生き抜き、進化してきました。すなわち、それぞれの生命が分業しあい、協力しあってきたからこそ、ここまでの多種多様な生命が地球上に繁栄することができたのです。それに対して私たち人間社会の歴史を振り返ってみると、人間はまるで地球の覇者のごとく振舞い、己と相容れない他者や異文化を排除するといった戦争を繰り返してきています。残念ながら、これは生命の根底とは真逆の行為だと言わざるを得ません。多様な生命との共存の重要性を改めて見つめ直すことこそが、争いを繰り返している私たち人間にとって今最も必要である…そうしたことを、目に見えない細菌たちが教えてくれているのではないでしょうか。
今回の共同研究を通じて、私たちの愛する犬・猫等の動物の健康はもちろんのこと、細菌を含む全ての生命との、また人間同士の共生の在り方までをも考え直し、一人でも多くの方と一歩でも明るい未来に向かうことを目指していきたいと考えております。
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