おにぎり文化を守る、黒のり陸上養殖成功

全国各地で海藻の栽培に取り組む高知県安芸市のベンチャー企業「シーベジタブル」は2月、愛媛県今治市で、陸上養殖による黒のり量産に成功した。水産庁によると陸上での量産は国内初。黒のりはおにぎり用に広く使われるが、近年の生産量は最盛期だった2000年代初頭の約半分に落ち込む。担当者は「日本の食文化に欠かせない黒のりの安定供給につなげたい」と意気込む。(共同通信=熊木ひと美)
シーベジタブルは2016年の創業以来、陸や海での海藻栽培を研究してきた。特に生産量が激減した青のりの高級品種「すじ青のり」の生産に力を入れ、地下海水を使った陸上での養殖技術を開発した。
2018年に黒のり生産の研究開発を本格化した。のり漁師から「海で黒のりが採れなくなり、漁師の数も減っている」と相談を受けたことがきっかけだ。事業開発担当の西村宏貴(にしむら・ひろき)さん(40)は「地球温暖化などの影響で海中の栄養分が不足し、のりが育ちにくくなっている」と指摘。すじ青のりで培った技術を生かし陸上養殖に乗り出した。
黒のりの生産に適する冷たい海水帯の瀬戸内海に面した今治市を現場に選定。水槽に地下海水をくみ上げ、海水の栄養濃度を最適な環境で固定化した。成長が早い株で効率的に養殖しようと、質の良い胞子探しにも奔走した。胞子は海藻であるのりの種(たね)に当たる。
こうした努力が実り、今年2月時点で板のり約3万枚分(乾燥重量約100キロ)の量産を実現した。自然環境に左右される海と異なり、陸上養殖は同じ品質で繰り返し生産できる。なめらかな舌触りで風味の良いのりを安定供給できるという。
今後は養殖技術を全国の生産地で展開するとともに、漁師と連携しながら黒のりの生産量をさらに増やす方法を模索する。西村さんは「今回確立したノウハウを柔軟に活用し、のりの文化を守りたい」と話した。
(共同)