オートマタ作家・堀江出海さん 水戸で企画展
日本で数少ないオートマタ作家、堀江出海(いずみ)さん(68)=常陸大宮市=の作品を紹介する企画展が5月22日まで、水戸市備前町の常陽史料館で開かれている。オートマタは、ぜんまい仕掛けの精巧なからくり人形で、19世紀から20世紀初めのヨーロッパで貴族の観賞用に作られた。細部にいたるまで考え尽くされた人形が繊細に動く、甘美で優雅な世界が紹介されている。
堀江さんは東京生まれ。機械が好きで時計職人となり、都内などの時計店に勤務した。26年前、出張でスイスのオートマタコレクター兼作家に出会い、作品を知り、「興味と驚き。さらに知っていくうちに、一度作ってみたいと思った」(堀江さん)。再びスイスを訪れオートマタ制作を学び、仕事の合間をみて作り始めた。人形の内部は時計の仕組みと似ていた上に、趣味の彫刻も役立った。
12年前に勤めていた時計店を退職。オートマタ作家一本で生きていくことに。以前水戸市で勤務したこともあり、2006年に常陸大宮市に移り住み、アトリエを構えた。
オートマタはぜんまいを動力源に、歯車やカム、ロッドを組み合わせ、人間の動きを再現する。設計からぜんまいの仕掛け、木彫りの人形、色塗りに至るまで全て手作業。人形の衣装は妻のきよ子さん(66)が担当。完成までに1年かかる。
「生身の人間に近い動きになるようにこだわっている」と堀江さん。「オートマタは端的に言えばロボットだけど、現代でいうロボットではなく、人のぬくもりが感じられる。ぜんまいをいっぱい巻けば速く動くし、ゆっくりにもなる。温かみがあり、そこにほれている」と魅力を語る。
オートマタが全盛期を迎えた1850〜1910年ごろの作品の復刻を手掛ける。設計図はなく、試行錯誤の連続だ。「悩みながら作業を繰り返し、頭に描いた通りに出来上がった時は最高。それが醍醐味(だいごみ)」と職人気質をうかがわせる。時代考証にも気を配る。
企画展では、11作品のほか、オートマタの歴史を知る書籍なども展示。作品の一つ「手紙を書くピエロ」(1999年)は、恋文を書いているピエロがうたた寝をしてしまい、目を覚まし、消えかかったランプの炎に気付き続きを書き始める様子を、まぶたの動きまで精巧に魅せている。オルゴールが一体となっている作品が多く、温かみのある音色が優雅な世界へいざなう。
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同館は月曜休館。堀江さんによる展示解説と実演が13日午前10時半、5月11日午後2時の計2回行われる。問い合わせは同館(電)029(228)1781。
(平野有紀)