2018年9月16日(日)

「J-PARC」運転10年 宇宙の謎解明 世界注目

陽子ビーム増強 3倍へ

円形加速器「メインリング」。左がニュートリノ実験施設へ、中央が本線。右は安全確保用のライン=東海村白方、根本樹郎撮影
円形加速器「メインリング」。左がニュートリノ実験施設へ、中央が本線。右は安全確保用のライン=東海村白方、根本樹郎撮影

ニュートリノをはじめとする素粒子を使い、宇宙や物質、生命の起源を解明する研究の世界最先端拠点が東海村にある。大強度陽子加速器施設「J-PARC」。運転開始から多くの成果を挙げ、10年たった今、実験を支える大強度陽子ビームを、世界に先駆けて現在の約3倍の1メガワット超に増強する計画が進んでいる。目標は2026年ごろ。前人未到の大強度ビームによる高精度の研究で、「ノーベル賞」級の成果を上げられるか、世界が注目している。(報道部・三次豪)

■我々は何者か

「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」。J-PARCの斉藤直人センター長は宇宙や物質の起源に迫る研究を、人類の根源を問い続けたフランスの画家、ポール・ゴーギャンの遺作の題名になぞらえる。

J-PARCは、日本原子力研究開発機構と高エネルギー加速器研究機構の共同運営施設。約65万平方メートルの広大な敷地に立つ巨大加速器で、大強度陽子ビームを光速に近い猛スピードで標的の原子核にぶつけ、宇宙を飛び交う素粒子(ニュートリノ、中性子、ミュオン)を生みだし、物質科学や生命科学の研究、産業利用を行ってきた。ゴーギャンの絵のように、研究者たちは“究極の謎”を追い続けている。

■新たなステージ

宇宙の起源の謎に迫る「T2K実験」は、同施設のニュートリノ実験施設で行われ、世界12カ国の研究者約500人が参加する。人工的に発生させたニュートリノを約295キロ離れた岐阜県飛騨市神岡町にある巨大検出装置「スーパーカミオカンデ」へ飛ばし、装置内の水との反応を観測する実験だ。13年にはミュー型ニュートリノから電子型ニュートリノへの変身を世界で初めて観測。ニュートリノ研究は進展し、宇宙の起源に関わる物質と反物質の「対称性の破れ」の兆しも捉えることに成功した。

これらの実験を支える陽子ビームの強度は稼働当初の0・1メガワットから10年間で段階的に引き上げられ、現在は約0・5メガワット。今後、改良を加えながら設計値の1・3メガワットまで増強する計画で、実現すればより多くのデータ収集が可能になる。

スーパーカミオカンデの約10倍の感度を誇る次世代装置「ハイパーカミオカンデ」や、神岡町の先にある韓国での巨大検出装置の建設計画もあり、新たなステージへ進もうとしている最先端の実験に期待が高まっている。

■産業利用で刺激

世界をリードするJ-PARCだが、10年の歩みは順風満帆ではなかった。11年の東日本大震災や13年のハドロン施設の放射性物質漏えい事故、15年には陽子ビーム実験機器に不具合が見つかり、運転を度々停止せざるを得ない時期があった。影響で海外の施設へ変更する利用者も一時あったが、その後、安定した運転実績を積み重ね、利用者は再び増えている。

宇宙の起源などに迫る基礎研究と並び、中性子の産業利用も需要の伸びが著しい。タイヤの新素材や次世代リチウムイオン電池などの開発では、大手メーカーや研究機関からJ-PARCの利用申し込みが増え続けているという。

斉藤センター長は「産業利用では企業の切迫感、スピード感を肌で感じる。われわれが持つ技術の10倍を求めてくる企業もあり、学ぶことが多い」と刺激を受けており、「J-PARCが稼働してまだ10年。ずっと新しくあり続けるためには、そうした(民間の)仲間を増やしながら、人類の究極の問いに答えを求め続けたい」と話した。

★反物質
銀河や星、人の体などは物質でできている。反物質は、重さは物質と同じだが電気的性質などが逆で、物質と出合うと、共に消滅する。宇宙が何もないところから誕生したとき、物質と反物質は同じ量がつくられたが、何らかの性質の違いによって物質がわずかに多くなった。その後、反物質は物質と反応して消滅してしまい、残った物質が銀河や星をつくったと考えられている。



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