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作家の薬丸岳さん 犯罪被害者の心情迫る 茨城新聞の連載小説、7月27日から新連載開始

新聞連載小説「罪の境界」で描こうとすることについて語る作家の薬丸岳さん(疋田千里撮影)
新聞連載小説「罪の境界」で描こうとすることについて語る作家の薬丸岳さん(疋田千里撮影)


茨城新聞で新しい連載小説「罪の境界」が7月27日から始まる。執筆する作家の薬丸岳さんに作品に込める思いを語ってもらった。

15年前に少年犯罪をテーマとする小説でデビューして以来、私は犯罪を巡る多くの作品を書いてきました。犯罪自体というより、犯罪が起きたとき、または起きた後、加害者や被害者は何を思い、どう生きていくのかを思い描くことで物語を作ってきました。

往々にして被害者にとっての大きな犯罪とは、自分とは何ら関係のない人間によって、自分や家族、あるいは自分が築き上げてきた全てを理不尽に傷つけられたり、奪われたりする不条理なものです。今回の連載小説では、これまで書いたどの作品よりも、犯罪と犯罪に巻き込まれた人々について深く突き詰めて描いていきたいと思っています。

加害者と被害者の背後には、貧富の差や家庭環境の違いを生み出す、社会の大きな矛盾が横たわっています。社会はさまざまな人間の集合体です。私がテーマにするような事件は本来あってはいけないし、なくなればいいと思いますが、日々発生する犯罪は、社会のひずみをあぶり出しているのではないでしょうか。

この物語は、主人公の女性が通り魔事件の被害者になったことから動きだします。設定を思い付いたのは、一昨年に起きた新幹線無差別殺人事件を知ったときでした。車内で女性が隣席の男に襲われ、それを助けようとした男性が殺されてしまった。その衝撃的な事件に触発され、こうした設定で小説を書きたいと強く思いました。その後、犯人が「無期懲役を狙った」と供述して世間を震撼(しんかん)させました。実際に無期懲役が確定し、彼は望みを遂げたわけです。司法の限界ではないかと疑問が生じて、この問題も小説に書き込もうと考えています。

当初は、裁判で主人公と犯人が対峙(たいじ)する場面をクライマックスに想定しました。でも、事件は判決が下されたら終わりなのではなく、「その後」があります。5年後、10年後の主人公の姿をも描かなければ、この物語を納得できる形で終わらせられないのではないか、と考えるようになりました。長い時間の流れを見据えなければ、と。

ありがたいことに、これまでの作品に対して、読者から「読み出すと止まらなくなる」と言っていただくことがあります。書き手としては理由はよく分からないのですが、思い当たるのは、登場人物が特別な人間ではない、ということです。たとえ遭遇する犯罪が特殊であっても、その人物自体はどこにいてもおかしくない、普通の人、身近な人であるよう意識して書いています。だから、自分だったらとわがこととして捉えやすいのかもしれません。

今回の主人公も、いわゆる普通の女性です。飛び抜けた外見をしているわけでも、強烈な個性や技能を持っているわけでもありません。そんな女性が大きな禍(わざわい)に巻き込まれたとき、どういうことを感じ、どういう行動を取るのか。それを考え続けて書いていきます。

今、物語の中盤まで筋書きを作っているのですが、その先は決まっていません。決めたくないと思っています。この時点で決めれば、現在の自分の枠を超えられない。主人公の心情、人生に寄り添い、先の先まで想像することで、主人公の行き着く場所を見つけたいと思います。

私は、重いテーマに挑むときにも、小説には何らかの希望が欲しいと思っています。

人を絶望に叩(たた)き落とすのは人ですが、人を絶望から救うのも人です。大きな事件によって絶望した主人公には、絶望の淵にあっても希望を見いだしてほしい。その希望とは何なのかを探しながら、日々書き継いでいきます。ご期待ください。(談)

■やくまる・がく
1969年兵庫県生まれ。2005年、少年法を扱ったデビュー作「天使のナイフ」で江戸川乱歩賞。16年「Aではない君と」で吉川英治文学新人賞、17年「黄昏」で日本推理作家協会賞(短編部門)。

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