シカ目撃相次ぐ 茨城県内生息確認なし…なぜ? 定着、食害に危機感
茨城県内に野生では生息しないとされているシカが今月中旬、下妻市や八千代町で相次いで目撃された。目撃者や行政の担当者は「どこから来たのか」「初めて見た」と首をかしげる。県自然博物館はニホンジカの若い雄と断じた上で、「長距離移動することもある」と指摘する。従来目撃されていた山間部の県北だけでなく、県南地域での目撃情報も出てきた。シカが増えれば森林や農作物の食害も懸念され、県は隣県と連携して調査を進めている。
■長距離移動も
下妻市の砂沼から南西に約700メートル。畑が広がる同市今泉で8日午後、シカが出現した。
農業、中村和行さん(51)=八千代町=は、トラクターを運転中に約20メートル先の雑木林からシカが現れたと証言。「パッと見て角が生えていた。二度見した」と驚く。シカは周囲を反時計回りに走り、再び雑木林に消えた。約3分間、その様子を撮影した中村さんは「おとなしい感じだった。どうやって来たのか」と不思議がる。
県西地域のシカ目撃は八千代で10日、下妻は8、16日。少なくとも5件続いた。
県自然博物館(坂東市)の後藤優介学芸員は、撮影画像から角の枝分かれが1回と確認し、「ニホンジカ。若い雄だと考えられる」と解説する。「若い雄は新たな生息地を求めて移動する『分散』と呼ばれる長距離移動をすることがある。分散の過程で平野部に下りてきた可能性がある」と話す。
ただ、後藤さんはシカの生態を踏まえ「野生の可能性が極めて高いと思うが、あえて開けた所に出てきたのは不思議な行動」と疑問を投げ掛ける。
■栃木で捕獲増
県西地域に接する栃木県は、シカによる農作物や森林被害が問題化している。「2019年度栃木県ニホンジカ管理計画モニタリング結果報告書」によると、駆除を含む捕獲数は過去最多の1万201頭となった。
シカの生息範囲について栃木県自然環境課は「もともと西部の山間地が中心だった。だんだん東側に、平野部の方に分布が拡大している」と説明する。八溝山周辺の茨城、栃木、福島の3県がまたがる地域でも「新たに拡大している傾向がある」と危機感を示す。
同報告書によると、本県の結城市と接する栃木県小山市は捕獲数がゼロ。だが、西側の栃木市では585頭を数える。
■県南地域まで
県自然環境課によると、本県で2019年度にシカが目撃、撮影、捕獲された例は計16件あった。
目撃地は北茨城、日立、常陸大宮、常陸太田、那珂、稲敷、龍ケ崎の7市と大子町、美浦村の計9市町村。県北から県南地域まで及ぶ。結城市では同年5月、雄のニホンジカ1頭が捕獲されたという。
近年は八溝山周辺で食害が懸念されている。同年6月、茨城(水戸市)、棚倉(福島県)、塩那(栃木県)の3森林管理署が、「八溝山周辺国有林ニホンジカ対策協議会」を発足。センサーカメラを設置して情報共有を図っている。
同年7月には3県による「福島茨城栃木連携捕獲協議会」が発足。生息状況の把握に取り組む。県自然環境課の担当者は「茨城では『生息』という判断に至っていない」とした上で、「調査は広域で力を合わせないとできない。目撃したら市町村や県に情報提供を」と呼び掛ける。
今月目撃情報のあった下妻や八千代で、食害の報告はない。県自然博物館の後藤さんは、シカが増えると、森林の草を食べて植物群落の多様性が減少するなど、「植生への影響も考えられる」と指摘する。