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《茨城新聞論説》偕楽園を守れ 文化財あっての観光だ

偕楽園=水戸市常磐町
偕楽園=水戸市常磐町


日本三名園の一つ、水戸市の偕楽園で、茨城県が進める主要園路の石張り舗装や好文亭内の厨房(ちゅうぼう)工事などに対して有識者や市民から強い懸念の声が上がっている。偕楽園は国から「史跡及び名勝」の指定を受けている文化財で、その歴史を後世に伝えていくためにも、不用意に手を加えれば文化財としての価値や魅力が損なわれる、という懸念だ。県は昨年5月に「偕楽園魅力向上アクションプラン」を策定し、好文亭など歴史的建造物の耐震化や復元整備を進めるほか、眺望ポイントでの飲食提供や見晴らし広場を活用したイベントの場を提供することで、通年の観光誘客を目指すとしている。

偕楽園の園路にはもともと砂利が敷かれていた。県によると、砂利の園路では車いす走行が難しいためバリアフリー推進を図るとともに、園内を散策しやすくするために計420メートル区間を石張り舗装にするという。また好文亭内の西塗縁広間では、黒漆塗りの総板張り床に畳を敷きテーブルと椅子を置いて軽食を提供するため、現在は倉庫として使用している「料理の間」などに厨房を整備する改修工事に着手した。

それに対し、2007年に県が策定した「偕楽園(史跡及び名勝常磐公園)保存活用計画」の検討委員だった鈴木暎一茨城大名誉教授は、「私たちが文化財と向き合う時には、その文化財が活用されていた当時の『空気感』を保存できるよう細心の注意を払う必要がある」とした上で、「県が進める事業は、創設者である斉昭時代の『空気感』からますます遠ざかる行為」と、文化財としての価値が損なわれることを懸念する。

偕楽園は15年4月、弘道館や水戸彰考館跡なども含めた「水戸藩の学問・教育遺産群」として、栃木県足利市の「足利学校跡」や岡山県備前市の「旧閑谷学校跡」、大分県日田市の「咸宜園跡」とともに「近世日本の教育遺産群-学ぶ心・礼節の本源」に認定されている。

水戸市は世界遺産登録を目指し、09年に教育委員会に世界遺産推進室を設置した。世界遺産認定のためには厳格な「完全性」や「真実性」などが求められる。同推進室は県の事業に対し「管理者の県が決めたことなので」としながらも「文化財として保護はしっかりやっていただきたい。例えば改修が適切でないと判断されれば、いつでも元に戻せるような状態で活用していただきたい」と話す。

軽食の提供を予定する西塗縁広間は、好文亭の中でも千波湖や桜山を眺望できる場所にある。鈴木氏は「創立者の徳川斉昭は、ここで文雅の士を集めて詩歌書画を競わせ、あるいは藩内の老人を招いて敬老の宴を催している。西塗縁広間の北と西側の杉戸には作詩作歌の便を考慮して8千字の漢字を能筆の者に書かせ、辞書代わりとしたのも、こうした由緒によるのである。この塗縁広間に立ってみると、おのずと当時の華やいだ清遊の空気に包まれているような気がしてくる」と説明する。

建造物や庭園、風景などに加えて創設の理念を含めた歴史・文化的景観は、時代を超えて後世に伝えてこそ文化財の価値である。好文亭をはじめ偕楽園は貴重な文化財であり魅力的な観光資源でもある。両立させていくことが重要だが、文化財としての価値が下がるようなことがあれば、観光資源としての価値も下がることを忘れてはならない。



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