茨城県に津波注意報 警告音、眠れぬ夜 沿岸2市避難所開設 「震災の記憶 脳裏に」
南太平洋・トンガ沖で15日に起きた海底火山の大規模噴火に伴い、茨城県を含む太平洋沿岸に同日夜から16日にかけて津波が到達し、沿岸部の住民らに不安が広がった。気象庁は同日未明、太平洋沿岸全域に津波注意報を発令。県内では被害は確認されなかったが、住民や地元漁師たちの中には、間もなく発生11年を迎える東日本大震災の記憶が脳裏をよぎった人もおり、眠れぬ夜を過ごした。
■就寝中
16日午前0時15分、気象庁が茨城県に津波注意報を発令。真冬の深夜に、携帯電話のけたたましい警告音が鳴り響いた。
鹿嶋市の海岸から約200メートルの場所に自宅がある60代女性は就寝中だった。「警告音に跳び起きた」。テレビで状況を確認し避難はしなかったが、「震災を思い出し、再び就寝したが眠れなかった」と話した。
神栖市波崎の利根川河口では、地元の漁師が旬のシラスウナギ漁の準備をしていた。漁船に乗っていた50代男性は「港で潮が40~50センチ上がり下がりを繰り返していた」と振り返り、仲間の船が転覆した東日本大震災を思い出し、「あの時の記憶がよみがえった」と振り返った。
近くの波崎新港でも多くの釣り人が釣り糸を垂らしていた。東京から来た男性(60)は、注意報発令の約1時間前に潮の流れに気付いていた。「外洋から潮の流れが急に速まり、さおが持っていかれて釣りにならなくなった。そのうちスマホに津波情報が入った」。男性は身の危険を感じて避難した。
鉾田市では、市職員が海岸付近を見回り、海に近づかないように呼び掛けた。
■危機感
16日午前3時48分に60センチの津波を観測した大洗町でも住民に不安が走った。
町漁業協同組合によると、注意報発令後の同1時ごろ、約80隻ある漁船のうち1割ほどが、船を守るために沖に出て待機。残りの船もいつでも出港できるようにエンジンをかけて待機していたという。船を出した漁師の小沼徹さん(48)は「現状を把握する手段もなく、情報が不十分で不安だった」と話した。
海のそばに住む鯉沼正明さん(80)も「津波はいつも隣にいて昼も夜も関係なくやって来ると、改めて危機感を覚えた」と語った。
■高台へ
津波注意報発令を受け、県内では日立、ひたちなかの2市が避難所を開設。
日立市は、防災行政無線で市民に注意を呼び掛けるとともに、16日未明に沿岸部の小学校体育館など12カ所に避難所を設けた。同市久慈町1丁目の高台にある市立久慈小体育館には午前2時20分ごろ、親子連れ3人が避難。担当職員が設置したテント式パーティションで不安な一夜を過ごし、明るくなった午前6時50分には帰宅した。市防災対策課によると、市内では最大で8カ所に計28人が避難。同8時までには全ての避難者が引き上げた。
ひたちなか市は避難所を6カ所開設。市生活安全課によると、避難所の一つの「みなと公園ふれあい館」に3人が避難した。午後2時の津波注意報解除に伴い、避難所を閉鎖した。
長時間に及ぶ津波警戒で、16日は沿岸部のイベントなどにも影響が出た。大洗町では自転車のオフロードレース「茨城シクロクロス」が中止。アクアワールド県大洗水族館では開館時間を遅らせ、注意報解除後の午後2時半に開館。その後、724人が入館した。
【津波、茨城県内ドキュメント】
15日 午後8時42分 大洗で第1波到達を確認
15日 午後8時43分 神栖市鹿島港で第1波到達を確認
16日 午前0時15分 気象庁が茨城県沿岸に津波注意報を発令
16日 午前0時48分 鹿島港で50センチ(最大)の津波を確認
16日 午前1時30分 ひたちなか市内6カ所に避難所開設
16日 午前1時38分 日立市内12カ所に避難所開設
16日 午前3時48分 大洗で60センチ(最大)の津波を確認
16日 午後2時 気象庁が津波注意報を解除